朝日新聞 2009年08月30日
失業率最悪 デフレとの連鎖を止めよ
世界同時不況の発端となった「リーマン・ショック」から1年近くたつが、その余波はいまなお日本列島を覆っている。
衝撃の第一波は生産と輸出の縮小だった。それらがともかく下げ止まったいまも、止まらないのが雇用の悪化だ。7月の完全失業率は過去最悪の5.7%を記録した。失業者は前年同月比で103万人も増えた。この半年で1.6ポイント、1カ月で0.3ポイントという予想を超える急激なペースだ。
今春の経済危機対策で「失業率を5.5%以下に抑える」としていた政府の阻止線は突破されてしまった。
しかも、内閣府の推計では、企業内の余剰人員は600万人にのぼる。このため失業率は6%台にのるとの見方が民間エコノミストの間では有力だ。
深刻なのは、家計の担い手の失業が広がっていることだ。完全失業者360万人のうち単身を除く世帯主は、90万人で、4分の1を占める。前年同月より3割も増えた。
正社員で職を失う人も増えている。雇用の先行きを左右する有効求人倍率でも正社員は0.24倍で、全体を大きく下回っている。
雇用と並んで衝撃を広げているのは、物価の下落と消費の不振だ。生鮮品を除く7月の消費者物価指数は前年同月比で2.2%も下落し、過去最大の落ち込みだった。小売りの一線では、モノが売れないので値下げが値下げを呼ぶ競争が広がっている。
7月の家計調査では消費支出が前年同月比2%減少した。環境車への補助金や家電でのエコポイント効果で横ばいできたが、夏のボーナスの不振や、天候不順に直撃されたかたちだ。
このままでは、失業の増加が個人消費を低迷させ、物価の下落を招いて企業収益をさらに悪くし、それがまた投資や雇用の削減を生む、というデフレの悪循環に陥りかねない。
政府の雇用調整助成金は250万人の雇用を支え、失業者が増えるのを抑えている。それでもこの惨状だ。社会に出ようとする若者たちは、厳しい就職難にあえいでいる。
失業に陥る人々を救う当面の措置と同時に、なんとしても、雇用増につながる新しい産業を育て、需要を作り出さねばならない。
たとえば、高齢社会の柱となりつつある医療・福祉の分野では人手不足が目立つ。とくに介護事業では、給料が安いために職員が定着しにくい。職員の給料を引き上げるために、新たな税金の投入や介護保険料の引き上げといった思い切った政策を打ち出す政治の決断が欠かせない。
雇用と産業の創出は短期間にはできない。だからこそ、きょうの審判で生まれる政権は、そのための本格的な戦略を、早急に練る責任がある。
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毎日新聞 2009年08月29日
最悪失業率 再挑戦が可能な社会に
7月の完全失業率が1953年の統計開始以来、過去最悪の5・7%となった。過去のデータをみると、失業率は景気が回復しても1年数カ月は悪化を続ける傾向にある。秋から冬にかけて6%を超える可能性も強まっている。衆院選後の新しい政権は緊急課題として真っ先に取り組むべきだ。
失業率は、この1年間に1・7ポイントも急速に悪化した。昨年秋の世界同時不況の影響で、企業の生産が大きく落ち込み、雇用を維持できなかったことが背景にある。弱い立場の派遣やパートなどの非正規雇用労働者の雇い止めが先行し、現在では正社員にまで雇用調整が及んでいる。
景気は底を打ったという見方もあるが、厚生労働省は「雇用情勢はさらに厳しさを増している」と判断している。当面は雇用調整によって人件費を抑制し業績回復を図るという「雇用なき景気回復」となるだろう。だとすれば、雇用回復までの期間をいかに短縮し、失業率を改善させていくか、これが雇用・失業対策のポイントとなる。
最大の雇用・失業対策は、産業を活性化させて生産水準を回復させることだ。同時に、雇用調整助成金を拡充して解雇を食い止め雇用を維持する必要があるが、これを長く続けることは財政上も難しい。
中長期的には二つの選択肢が考えられる。一つは、現在、働く人の3人に1人にまで拡大した非正規労働者の増加に歯止めをかけ、正規雇用への切り替えを政策で誘導することだ。もう一つは、非正規雇用の存在を前提とした上で、処遇改善によって正規社員との格差を縮める方策だ。その場合、使い捨てにされやすい非正規労働者のセーフティーネットを拡充する政策が必要になる。
現在の状況から判断すれば、両者の中間的な対応を取るのが現実的な選択だろう。非正規雇用を抑制するために規制を行う一方、失業リスクに備えるセーフティーネットを整備する、これを中長期の雇用・失業対策の柱に据えるべきだ。
具体的には衆院選で野党が主張している製造業務への派遣を原則禁止とする労働者派遣法の見直しと、非正規労働者の処遇改善策としての「同一労働・同一賃金」原則の導入をセットで検討すべきだ。
雇用が流動化すれば、労働市場からこぼれ落ちる人が出る。今、必要なことは「失業しても再挑戦できる社会」の仕組み作りだ。日本は、もはや高失業率の国になった。かつて失業率が低かった時代には関心が低かった職業訓練制度をしっかり定着させ、失業後に技能や知識を身につけて新しい仕事にチャレンジできる社会を目指したい。
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