毎日新聞 2014年04月28日
衆院補選自民勝利 「信任」と受け止めるな
徳田毅前衆院議員の辞職に伴う衆院鹿児島2区補選は自民公認、公明推薦の新人候補が、民主党などが推薦する無所属の前職候補らを破り議席を守った。昨夏の参院選による衆参ねじれ状態の解消後、初の国政選挙を与党は制した。
政治とカネの問題で徳田氏が自民党を離党したうえ辞職に追い込まれての選挙だったが、民主党など野党側は有権者の関心を呼ぶに足る争点を示しきれなかった。与党も厚い保守地盤にもかかわらず、これまで以上に厳しい戦いを強いられた。
消費税が4月に引き上げられ、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)も正念場を迎える中での国政選挙で、安倍内閣にとって負けられない選挙だった。安倍晋三総裁が現職首相として初めて奄美大島を訪れるなど与党が総力戦の形を取ったのも、政権への信任選挙と位置づけたかったためだろう。
にもかかわらず国政選挙として政策論争は盛り上がらず、何が争点なのかは結局、はっきりしなかった。敗れた前職候補はもともと民主党議員だったが、幅広い支持獲得を優先して無所属で民主、日本維新の会、結い、生活4党の推薦を得て戦った。野党票の分散を防ぐ戦術だったが消費増税、原発再稼働、TPPなど多くの課題で4党の立場は食い違う。安倍内閣への対立軸が打ち出せない野党の国会論戦のもろさがそのまま選挙に持ち込まれた格好である。
一番の責任が野党をけん引できない民主党にあることは言うまでもない。いわゆる第三極勢が迷走する中、海江田万里代表の下で浮上の足がかりすらつかめない状況は極めて深刻だ。党内には「いま、海江田氏を交代させても次期衆院選までに新代表の賞味期限がきれる」との理由などから来春の統一選後に去就を改めて判断すべきだとの声が強いようだ。危機感が乏しいのではないか。
自民もまた、追い風は感じられなかった。補選とはいえ保守王国での選挙で投票率は伸び悩んだ。奄美群島で「徳田王国」と言われた徳田氏の組織が動かなかった事情もあるが、それだけであるまい。政治とカネの問題での議員辞職という異常さへの不信に加え「アベノミクス」の効果が地方や中小企業に実感できない要素などが絡み合っているのではないか。経済政策への一定の評価が示されたと判断するのは早計だろう。
野党に存在感がない中での与党勝利という構図はさきの参院選と同様だ。野党は政策不在の再編に走るよりも、まずは与党との明確な対立軸を構築すべきだ。自民も集団的自衛権をめぐる解釈改憲の信任と位置づけるような軽はずみは許されない。勝利を謙虚に受け止めるべきだ。
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産経新聞 2014年04月28日
補選与党勝利 首相は政策の肉付け急げ
安倍晋三政権の内外の諸課題への取り組み姿勢が基本的に支持された。消費税増税後、初めての国政選挙となった衆院鹿児島2区補選で、自民党の新人候補が勝利した意味合いである。
首相は日本の立て直しのため、経済政策に重点を置き、外交・安全保障では集団的自衛権の行使容認に向けて政府与党内の調整を進めている。
国会での「1強多弱」の状況に慢心することなく、懸案解決への作業を加速してほしい。
ただ、指摘しておきたいことがある。補選でも問われた「政治とカネ」の問題に決着がついたとはいえないということだ。
補選は、医療法人「徳洲会」グループの公職選挙法違反事件を受けて徳田毅前議員が辞職したのに伴うもので、自民党は議席を維持するため候補者を立てた。
昨年9月にグループ本部への強制捜査が行われた際も、徳田氏は十分な説明を行わず、11月に親族が逮捕されると自民党を離党し、今年2月に議員辞職した。
この間、自民党は自発的に疑惑調査を行わず、徳田氏の離党後は関係がなくなったような姿勢をとった。党として自浄能力を発揮する場面はなかったのである。
野党側は「金権風土を変えよう」などと訴えたが、強い追い風は吹かなかったようだ。
国会議員の資金疑惑は、与野党を問わず浮上する。最近もみんなの党の渡辺喜美前代表が借入金問題で辞任に追い込まれた。
政治倫理向上や政治資金透明化の具体策を語らぬまま、「政治とカネ」を掲げても説得力は持たない。有権者の信頼や期待は得られないことを考えてほしい。
安倍政権は消費税増税方針を決定、実施するのと同時に、景気対策のための大型補正予算を編成し、さらに賃上げにも積極的に取り組んだ。これらが選挙を通じて一定の評価を得たのだろう。
だが、景気の先行きへの懸念はなお小さくない。アベノミクスを加速する成長戦略をさらに肉付けしていくことが急務だ。
野党4党は民主党元職を離党させて候補にし、「民主色」を消して臨んだが、建設的な政策論争に結びついたとは言い難い。
消費税増税の必要性、原発再稼働などで見解の相違を残したまま連携しても、有権者の強い支持は得られなかったといえる。
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