配偶者控除見直し 育児や介護の支援策も

毎日新聞 2014年04月22日

配偶者控除見直し 育児や介護の支援策も

政府税制調査会で配偶者控除制度見直しの議論が始まった。安倍晋三首相が、女性の就労拡大を抑制しているとして、中立的な制度の検討を指示した。配偶者控除は、年収103万円までの配偶者を持つ世帯主の課税所得を一律38万円減らす制度だ。妻が家庭にいて家事や育児に専念する「内助の功」を評価する趣旨で1961年に導入された。

「103万円の壁」と言われ、多くのパート主婦がこの年収で勤務調整している。制度が働き方を制約しているのは確かだ。フルタイムで働き配偶者控除が適用されず、家事や育児をしている女性に不公平感は強い。制度導入当時は専業主婦世帯が圧倒的だったが、今や共働き世帯が大きく上回っている。シングルマザーも増えた。男女の役割分担の意識を前提とした制度を、時代の変化とともに見直すのは必要だ。

ただし、女性の就労拡大には、配偶者控除よりもっと大きな壁がある。子育てや親の介護で、女性が働きたくても働けないケースがあることだ。保育所の待機児童問題が象徴的と言える。家族が親を介護していると、介護保険が適用されにくい場合もある。夫が長時間労働で会社に縛られ、妻が育児や介護に重い負担を強いられることも多い。

配偶者控除でいま、約1400万人が恩恵を受け、所得税と住民税を合わせ年間1兆円規模の税負担が軽減されている。こうした中に子育て中の夫婦や、介護に追われる世帯が含まれている。配偶者控除を見直すと同時に、それを財源に、育児休業補償など子育てに対する経済的な支援の拡大や介護保険制度の充実を図るべきだ。

配偶者控除の議論では、103万円を増額すれば、パート主婦が今より年収を気にせずに働けるという声も聞く。だが、不公平感が拡大してしまい、賛成できない。

妻の年収が130万円以上になると、年金や健康保険の保険料を納めなければならない「130万円の壁」もある。経済財政諮問会議の有識者議員は、こうした制度の見直しと合わせて、子育て支援のため第3子以降への公的給付の増額、待機児童解消や労働時間短縮、正規・非正規労働者の格差是正といった方向で政策を進めるべきだと提言した。国ばかりでなく、企業も制度や意識を変える必要が出てくる。

人口が減るなかで、子供を育てやすい環境を整備しつつ、女性の社会進出を促すことは日本が抱える大きな課題だ。だが、配偶者控除見直しだけで女性の社会進出を目指すのは無理がある。多角的な議論を深め、大きな構想に基づく総合的な政策を早急に示すべきだ。

読売新聞 2014年04月24日

配偶者控除 女性活用につながる見直しか

所得税などの負担を軽減する「配偶者控除」の見直し論議が、政府税制調査会で始まった。

少子高齢化で「働く世代」が減少する中、女性の社会進出を後押しするため、税制だけでなく、総合的な対策が問われている。

見直しは、女性活用を成長戦略に掲げる安倍首相が「女性の就労を抑制する税制を見直すべきだ」と指示したのがきっかけだ。時代の要請とも言えるだろう。

所得税の配偶者控除とは、専業主婦やパートで働く配偶者の年収が103万円以下の場合、世帯主の課税所得を一律で38万円減らす制度である。

103万円を境に配偶者手当などを減らす企業も多い。パートで働く主婦は103万円を超えないよう仕事を調整しがちになる。

収入が103万円を超えても141万円未満までなら、控除を受けられる特別措置も設けられているが、「103万円の壁」が女性の働く意欲を損ねている側面があるのは確かだ。

配偶者控除は1961年に導入された。夫が外で働き、妻が家庭で育児や家事に専念するという、当時の一般的な家族を税制面から支援する狙いがあった。

しかし、今では、共働き世帯が専業主婦の世帯数を上回る。仕事や家事の分担に対する意識も大きく変化している。

ただ、配偶者控除を見直しただけで女性がより働くようになると短絡的に考えることはできない。働きたくても働けない理由は様々だ。子育てや介護で就労しにくい専業主婦も少なくなかろう。

政府は待機児童の解消や介護保険拡充、長時間労働の慣行是正といった課題の解決策も併せて検討しなければならない。

控除を廃止すれば、年収500万円の家庭で7万円程度の増税になるとの試算がある。家計の負担が大幅に増えないよう、負担緩和措置の検討も必要になる。

消費税率が予定通り2015年10月に10%へ引き上げられると、家計負担はさらに膨らむ。政府は法人税率引き下げを検討中だが、「企業優遇」「家庭増税」という批判が高まりかねない。

自民党は、12年の衆院選と昨夏の参院選の政策集で配偶者控除の維持を掲げていた。党内では制度見直しに異論も少なくない。麻生財務相は、「うかつなことはできない」と慎重論を唱えている。

女性の就労機会をどう拡大するか。政府・与党は幅広い観点から議論を深めてもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1793/