韓国船沈没 悲劇を繰り返さぬよう

朝日新聞 2014年04月22日

韓国船沈没 悲劇を繰り返さぬよう

韓国はいま、国全体が深い悲しみと怒り、さらに何ともやるせない思いで覆われている。

韓国南西部の珍島付近で起きた旅客船の沈没事故は、300人を超す死者・安否不明者が出る大惨事となった。

乗客の多くは修学旅行に向かう高校生だった。隣国の悲劇に胸がえぐられる思いだ。いまは一人でも多くが奇跡的な生還を果たすことを祈りたい。

6千トンを超える客船が、どうして転覆、沈没したのか。

原因はまだ特定されていないが、捜査当局や韓国メディアの報道をみる限り、海運会社や船の乗組員らの、あまりにずさんな行動が浮かびあがってきた。

現場付近は韓国でも有数の潮流が速い難所にもかかわらず、操船は経験の浅い航海士に任されていた。最大積載量を超える貨物を積んでいたほか、それらをしっかりと固定していなかった疑いも強まっている。

さらに被害を大きくしたとみられるのは、乗客に適切な避難誘導をしなかったことだ。

船が傾き始めた際、船内放送は「動かないように」と繰り返した。管制センターが、乗客に救命胴衣を着させて早く脱出させるよう強く促したのに、対応した形跡がみつからない。

朝鮮戦争で国土が廃虚となった韓国は、「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異的な成長で、経済先進国の地位を築き上げた。

だが、まるで高度成長のひずみが噴き出すように、これまで多くの大事故が起きた。運輸に限らず、インフラや建造物などのまさかの惨事もあった。

90年代半ばには、営業中の百貨店が崩壊したり、早朝に大きな橋が落ちたりして、多数の死者が出た。今年2月にはリゾート施設の屋根が崩れ、大学生たちが犠牲になったばかりだ。

その裏側では、効率や利益を優先する油断や慢心はなかったか。成長と競争の論理が、地道な安全策の積み重ねを置き去りにする風潮はなかったか。

安全の落とし穴は、他の国々にとっても決してひとごとではない。日本でも05年に起きたJR宝塚線の脱線事故で、安全対策を後手に回した利益優先のJR西日本の体質が批判された。

日々の業務のルール順守、機材や施設点検の徹底、事故時を想定した避難・救助の訓練などは、どの業界にも通じる基本原則である。

どんなに技術が進んでも、安全の最後の守り手は人間の意識でしかない。

悲劇を防ぐために毎日の安全を不断に見つめ直す。隣国の事故をそんな他山の石としたい。

読売新聞 2014年04月23日

韓国船沈没事故 危機対応の拙さが招いた惨事

船会社と船長らの安全意識の低さと危機対応の拙さが招いた大惨事と言えるだろう。

韓国・珍島沖で、旅客船沈没事故が発生して、1週間が過ぎた。死者は100人を上回った。200人近い行方不明者の捜索活動が懸命に続けられている。

乗客の多くは、修学旅行の高校生だ。収容される遺体との悲しみの対面が相次ぐ。奇跡の生存に望みをつなぐ家族や友人の心痛も、想像するに余りある。

旅客船は、急旋回した後、傾いて復原力を失い、転覆した。現場海域は潮の流れの速い難所だったが、操船していたのは不慣れな3等航海士だったという。

この船は日本から購入後、定員を増やすために改造された。事故当時には、申告した以上の貨物を積んでいた疑いも出ている。

急旋回で積み荷が動き、船のバランスが崩れ、転覆につながったのではないか。韓国当局の徹底的な真相究明が必要だ。

乗組員による乗客の避難誘導が不十分だったことが、人的被害を拡大させたのは、間違いない。

船長や乗組員の多くは、乗客に対し、室内に待機するよう指示しただけで、自分たちが先に救出された。救命ボートはほとんど使われなかった。大半の乗客は、船内にとり残されて、脱出の道を断たれたと見られる。

船長らの無責任な行動に、韓国社会から強い怒りの声があがったのは、理解できる。

船長らは、乗客の救助を怠った疑いなどで逮捕された。「非常時の安全教育を受けていなかった」と供述した乗組員もいる。

運航する船会社が、乗客の避難誘導などの訓練を軽んじていたなら、深刻な問題である。

朴槿恵政権への批判も出ている。救助された人数の当局発表が二転三転したことや、乗客の家族に対する政府高官の無神経な言動が、国民の反感を買った。政権は、より丁寧な対応を迫られよう。

日本でも、ゴールデンウィークの行楽シーズンを前に、国内の交通機関の安全対策を改めて見直さなければならない。

国土交通省は、事故を受けて、国内の旅客船業界に対し、航路の安全性や非常時の脱出手順を確認するよう通達した。関係者は、今一度、対策に不備がないか、総点検してもらいたい。

利用者も、旅客船などに乗る場合には、救命胴衣の位置を確かめるなど、自分の身を守る努力を忘れてはなるまい。

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