混合診療解禁 患者の利益になるのか

朝日新聞 2014年04月20日

混合診療解禁 患者の利益になるのか

公的な医療保険が使える診療と、使えない自由診療を組み合わせる「混合診療」が、規制改革の焦点に浮上している。

混合診療は従来、医療費全額が保険の対象外だったが、一定の先進医療を併用する場合、保険診療部分は1~3割の自己負担ですむ制度が導入された。これを抜本的に拡大しようというのが、経済人らからなる規制改革会議の提案である。

むろん、患者のニーズにあわせ、認められる治療の審査を迅速化することなどは必要だ。

しかし、一線を越えれば、「安全な医療を、貧富の差にかかわらず受けられる」という原則を骨抜きにし、患者の利益を損ねる可能性もある。6月の答申に向けて注視したい。

規制改革会議は提案を「選択療養」と呼ぶ。患者と医師の合意があれば、対象となる治療法を積極的に認める内容だ。

議事録から透けるのは、治療の選択を極力、当事者である医師と患者に委ねる姿勢である。だが、医療は専門性がきわめて高く、多くの場合、患者は医師を信用するしかない。

「全国統一的な中立の専門家による評価を受ける」というものの、委員の発言を読めば届け出制に近く、「絶対危ない治療、めちゃくちゃな医者にストップをかける」という程度のゆるい審査で実施したいようだ。

これは危うい。きちんと客観的に評価できる臨床試験の枠組みで進めるのが筋だ。

そうでないと、すでに自由診療で広がりつつある「効果ははっきりしないが、副作用はごく軽い」という「最新医療」を横行させ、わらにもすがる思いの患者が食い物にされかねない。

もう一つの懸念は、貧富の違いによる医療の格差を広げ、固定化する恐れがあることだ。

これまで混合診療が認められた治療法は、安全性と有効性を確かめたら公的保険の対象に移し、誰もが使えるようにすることを前提にしている。

今回の提案には、この前提がない。効果が認められた治療が「選択療養」にとどまり、金持ちしか受けられないなら、医療の格差は固定化される。

難病患者の団体は「必要な医療は保険適用が原則」として、「なし崩し的な解禁」に反対を表明している。10年前の混合診療論議では、高価な未承認薬を使うがん患者らの声が一部解禁を後押ししたが、今回はそれも聞こえてこない。誰が大幅な緩和を望んでいるのだろう。

「岩盤規制の打破」というスローガンの前に、患者の真の利益を考えてほしい。

読売新聞 2014年04月23日

混合診療 拡充は患者の選択肢を広げる

政府は「混合診療」の対象を拡大することを決めた。安倍首相の指示を受け、厚生労働省が具体策の検討を始めた。

患者が効果的な先端治療を受けられるよう、早期に実施する必要がある。

混合診療とは、公的医療保険で認められた検査や薬とともに、保険適用が認められていない治療法を併用することだ。厚労省は、有効性や安全性に疑問がある治療法が横行しかねないとして、原則禁止としてきた。

海外では広く使われていながら、国内では承認されていない薬を試したい。そう願う難病などの患者は少なくないだろう。

だが、現行の仕組みでは、未承認薬を使う場合、本来なら保険が適用される検査や入院費用まで全額自費となってしまう。混合診療の制限は、患者に過度の経済的負担を強いているとの批判が多いのは、もっともだ。

現在、混合診療が例外的に認められているのは、高度がん放射線療法の重粒子線治療や、家族性アルツハイマー病の遺伝子診断など、約100種類にとどまる。

厚労省は、適用範囲を広げ、重い病状の患者に限って、抗がん剤などの未承認薬を新たに混合診療の対象にする方針だ。細胞・組織を培養する再生医療や、未承認の医療機器を使った治療を対象に加えることも検討している。

患者にとって、治療の選択肢が増える。医師も新しい治療法に積極的に取り組むようになる。混合診療の適用拡大には、こうした効果が期待できるだろう。

政府の規制改革会議は、混合診療を利用しやすくする方策として、「選択療養制度」の創設を提言した。患者と医師が合意すれば、混合診療の実施を認める内容だ。厚労省の方針よりも適用範囲を幅広くとらえている。

ただ、規制改革会議の案で懸念されるのは、医師が丁寧な説明をしないまま、混合診療の実施について患者の同意を得ることだ。

患者が入手できる医療情報には限りがある。科学的な根拠のない治療が患者に押しつけられる事態は避けねばならない。

どこまでを混合診療の対象とするのか。政府にとって、その線引きは大きな課題である。具体策として、海外の臨床試験で効果と安全性が確認された医薬品や、国内外の学会が推奨している治療法を認めることが考えられよう。

政府は、患者の利益を最優先し、安全性の確保にも配慮した仕組みを構築してもらいたい。

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