グーグル検閲 中国の品位の問題だ

朝日新聞 2010年01月18日

中国ネット検閲 被害者は中国の人々だ

1989年の天安門民主化運動の際、鎮圧に出動した人民解放軍の戦車に立ちはだかった一人の男性を写した有名な映像がある。中国では公開されていなかったが、世界でネット検索最大手である米グーグル社の中国語サイトで見られるようになった。

グーグルは中国政府が望まない情報を削除してきた。それが、当局の監視強化や、個人メールと大企業に対する組織的とみられる激しいハッカー攻撃を理由に自主規制をとりやめたのだ。

ネットの安全や検閲からの自由を求めて中国側と交渉し、結果しだいで中国市場から撤退する可能性も示唆した。米政府はグーグルを支持。中国政府は自らの手法が「国際規範に合致している」と従来の主張を繰り返した。

中国のネット検索市場でのシェアが1割強にすぎないグーグルが撤退を取り繕うため中国側を非難した、という冷めた見方が一部にある。

だが、撤退でもっとも損をするのは、4億人に近い中国の利用者だ。8割近いシェアを誇る中国の検索最大手「百度(バイドゥ)」が市場をほぼ独占してしまえば、得られる情報は限られてしまう。

中国のネット上にはグーグル支持の書き込みが相次いでいる。メディアが当局の管理下にあり、結社の自由は建前の中国で、ネットは個人の考えを発信する主な舞台であり、人々をつなぐ場としても大きな役割を持つ。

だからこそ、中国当局はネットが体制批判の温床になりかねないと恐れるのだろう。海外とのネット接続は政府系の通信会社が統制してきた。近年は数万人ものネット監視体制を築き、規制を強めてきた。

ポルノ情報の排除を名目に、ネット検閲規制ソフトの搭載を求めたのも、こうした監視強化策の一環だったとみられている。

一方、利用者側も検閲をすり抜けるソフトを開発したり、隠語を使ったりして静かに巧みな抵抗を続けている。

経済のグローバル化が進むなかで、情報の自由な往来を止めることは、国民の知る権利を侵害し、民衆の持つエネルギーを封じ込めてしまうことで、経済発展の障害になる。改革開放政策の成果も損なわれよう。

中国政府が「13億人市場」をたてに表現の自由や人権問題で自己流を押し通せると考えているとすれば、危うい限りだ。中国脅威論や異質論が世界に広がり、損をするのは中国だ。

ネット空間を情報が自由に行き交い、世界の人々が交流を深める時代に、中国だけが背を向けて通れるわけがない。検閲なしでネット検索できる環境なしには、自由貿易や東アジア共同体も絵に描いた餅で終わる。

日本は発展する中国に関与し、大国としての役割と責任を求めてきた。さらに粘り強く働きかけていく時だ。

毎日新聞 2010年01月15日

グーグル検閲 中国の品位の問題だ

ネット検索で最大手の米グーグルが、中国政府の検閲をこれ以上受け入れるつもりがないことを表明した。中国側の対応次第では、グーグルは、撤退も含めて中国での事業を見直すという。

インターネットは分散型のネットワークで、中央で制御する仕組みは備わっていない。しかし、中国は、政府にとって不都合な情報が表示されないようにするため、膨大な手間とコストをかけ、世界中のウェブサイトを監視している。そして、そうした情報に中国国内からアクセスできないようにしている。

これには通信事業者などの協力が必要だが、海外の企業でも例外ではない。政府の指示に従い検閲に協力することが、中国でネット事業を展開するうえで前提となっている。

今回、検閲への協力拒否を示したきっかけについてグーグルは、電子メールシステムに中国から攻撃が仕掛けられたことを挙げている。中国人人権活動家に関する情報取得が目的で、高度な技術が使われ、組織的な関与がうかがえるという。

グーグルは、クラウドコンピューティングを推進している。プログラムやデータをデータセンターと結んだ通信回線でやり取りする方式で、パソコン本体には情報を残さないため、情報流出を防ぐというメリットがある。

しかし、組織的で高度な技術を伴った攻撃が放置されれば、こうしたビジネスは成り立たなくなる。グーグルが危機感を抱くのは当然だ。中国からのサイバー攻撃は、日本などにも大量に仕掛けられている。中国の品位が問われる問題だ。

また、中国政府は、電子機器に組み込まれたソフトウエアのソースコードを強制的に開示させる制度の導入を予定している。しかし、こんな状況でソースコードの開示が行われれば、逆にセキュリティーを破るために利用されないとも限らない。強制開示制度の導入は撤回すべきだ。

検閲についても考え直してもらいたい。表現の自由と通信の秘密は、近代市民社会の基本的なルールだ。中国は大国として、その存在感を増しているものの、情報の管理・統制と近代化は、相いれない概念だ。

中国からのサイバー攻撃についてクリントン米国務長官はグーグルの行動に呼応する形で「深刻な懸念と疑問」を表明した。米中間には、人民元の切り上げや、貿易摩擦などさまざまな懸案がある。グーグルの検閲拒否やサイバー攻撃問題も、米中間の駆け引きの中から出てきたという見方もある。

しかし、たとえそうであっても、中国はインターネットに関する世界の常識を受け入れるべきだ。

読売新聞 2010年01月16日

グーグル検閲 中国のネット介入は目に余る

インターネット空間での言論の自由と情報の安全を巡る、米中のせめぎ合いが始まっている。

中国に進出している米検索大手のグーグル社が、これまで順守してきた中国語による検索結果表示について自主規制の一部を解除した。

合わせて中国政府と数週間にわたって交渉し、話し合いの結果によっては、中国事業からの撤退もあり得ると発表した。

クリントン国務長官も直ちに、中国のネット規制に対する「深刻な懸念と疑念」を表明し、グーグル社を支援する考えを示した。

発表直後は、これまで禁止されていた民主化弾圧の天安門事件の写真などが閲覧可能になった。

中国では、気功集団「法輪功」や、チベット亡命政権の指導者ダライ・ラマ14世ら、当局が知らせたくない人物や出来事については、ネット上で検索できないよう規制している。

グーグル社は、4年前に中国での事業を始めた。以来、中国当局による、実質的な検閲であるネットの検索表示の自主規制を受け入れてきた。

だが、昨年12月には中国を発信元とするサイバー攻撃を受けるとともに、自社メールアドレスを使用していた中国人の民主活動家の情報が盗まれたという。

サイバー攻撃の被害は、同社以外の20社を超える米企業にも及んだと言われる。

グーグル社の経営幹部は「言論の自由に関し、世界的議論を巻き起こしたい」と表明している。

米政府がグーグル社を支援している背景には、米国の軍事技術をはじめとする先端技術情報が、中国によって盗まれる事態が相次いでいることがある。

中国には様々なネット規制があるのに海外企業が進出しているのは、3億人を超える世界一のネットユーザーの存在がある。さらに広告の売り上げなども無視できないからだ。

中国政府は、サイバー攻撃について、「法に基づいて管理している」と反論している。同時に、「国際的なネット企業が、中国で法律に基づき、事業展開することを歓迎する」として、自主規制を継続する姿勢を示している。

しかし、中国からのサイバー攻撃には、当局が関与しているのではないか、との指摘もある。

中国は、言論の自由を求める国際世論にも十分に耳を傾け、情報開示への道を模索すべきだ。それが世界第2位の経済大国になろうとする国のあるべき姿だろう。

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