中国の成長鈍化 改革の痛みにひるむな

毎日新聞 2014年04月17日

中国の成長鈍化 改革の痛みにひるむな

中国経済に試練の兆しが見えてきた。今年1~3月期の国内総生産(GDP)が前年同期比7.4%増と1年半ぶりの伸び率に鈍化したのだ。同7.7%増だった昨年10~12月期に続く減速である。

日本など先進国から見れば、うらやましい成長率だが、「7.5%前後」を今年の目標に掲げる中国政府にとっては、今後、黄信号がともりかねない情勢と言える。待ったなしの経済改革を進めるうえで、景気の減速は向かい風となり得るからだ。

習近平政権は、公共事業や開発など投資が引っ張る経済発展から、サービス産業、消費主導型の経済への移行を目指している。当局が管理する体制から、より市場の原理が働く経済への構造転換でもある。

改革の過程で、経済成長が鈍化するのは避けられないし、政府はそれをある程度まで容認する構えだ。李克強首相は最近行った演説で「経済の一時的な変動のために短期的な強い刺激策をとることはしない」と明言し、景気浮揚のための大型景気対策は打ち出さない姿勢を強調した。

実際、成長の鈍化は、政府が従来型の刺激策に回帰せず、一方で過剰生産設備の廃棄が進行していることの証しなのかもしれない。そうであれば、正しい方向であり、今後も短期の減速にひるんではならない。

ただし、直面する課題は大きく、改革と必要最低限の成長の両立が容易でないのも事実だ。

例えば、金融制度改革がある。

中国では、銀行金利が長らく中央銀行によって抑制されてきた。結果、高い利回りを求めた資金が、銀行を直接介さない理財商品などに向かい、リスクを度外視した投資の活発化にもつながった。

習政権は、こうした構図を変えようと昨年、まず貸出金利を自由化。預金金利についても中央銀行総裁が先月、「1、2年のうちに実現できる」と意欲を示している。

歓迎したい動きだ。とはいえ、金利自由化に伴い銀行間の競争や、貸出先の選別が活発化すると、企業や銀行の経営破綻が避けられなくなる。実際、先月には、中国の社債市場初の債務不履行(デフォルト)が発生し、政府が必ず救済する時代ではなくなったことを印象づけた。

問題は、預金保険制度の導入など、市場による淘汰(とうた)を前提とした仕組みを急ぎ整備しなくてはならないことだ。そうしないと混乱が過度に広がり、改革の道も断たれかねない。

世界第2の経済大国が歴史的転換に本気で取り組めば、日本など他国の経済も影響を受けよう。だが、中国の成長鈍化が改革の生みの苦しみだとすれば、中長期的に望ましいこととして前向きに受け止めたい。

産経新聞 2014年04月20日

中国経済減速 金融改革の痛み恐れるな

中国の1~3月期の国内総生産(GDP)は前年同期に比べ、物価上昇を除く実質で7・4%増えた。昨年10~12月期から四半期ベースで2期連続の成長鈍化であり、伸び率は1年半ぶりに低い水準となった。

国家統計局はGDP発表に際し、「中国経済は構造調整の『陣痛期』にあり、(景気減速の)代償を払う必要がある」と説明した。

中国はこれまで、採算を度外視した高速鉄道網の急造など大規模な公共投資で高度成長を力任せに推し進めてきた。そのツケとして残ったのが、「影の銀行(シャドーバンキング)」や不動産バブルといった副作用である。そうした歪(ひず)みの是正は待ったなしだ。

中国は経済構造改革の苦しみに耐える必要がある。GDP至上主義のあだ花まで世界に輸出するようなことがあってはならない。

世界第2の経済大国となった中国が景気減速で政策のかじ取りを間違えて、金融市場が混乱すれば、累は先進国や新興国の市場にも直ちに及び、「中国発の世界金融危機」を招きかねない。

こうした事態を防ぐため、習近平政権は「預金保険制度の整備」と「預金金利の自由化」などを打ち出している。

国有商業銀行の経営を護送船団方式で守るために、中国政府は銀行の預金金利の上限を厳しく規制してきた。それが自由化されれば、ハイリスク・ハイリターンの金融商品に流れていた資金を、監視可能な正規の金融商品に呼び戻すきっかけとなるだろう。

金融当局の監視が及ばない「影の銀行」に類する灰色の金融商品のうち、約4兆元(約66兆円)分の償還期限が年内に迫る。公共事業の拡大や右肩上がりの不動産市況を当てにした金融商品は景気減速の直撃を受けかねない。

中国では、灰色の金融商品であっても「最後は政府が救済してくれるはずだ」と考えて、リスクを無視するモラルハザード(倫理の欠如)が蔓延(まんえん)している。個人投資家はデフォルト(債務不履行)に対する予備知識もない。

手をこまぬいて負の連鎖が起きる前に、直ちに預金保険制度を導入し、一定の秩序あるデフォルトに備えるべきだ。市場混乱は最小限に抑えねばならない。

対応を誤れば金融機関への取り付け騒ぎなど社会が混乱することを、中国当局は銘記すべきだ。

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