朝日新聞 2014年04月13日
広島非核会合 これで廃絶近づくか
被爆地から世界に発するメッセージとしては物足りない。
12カ国でつくる核軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)が広島で開いた外相会合は、共同宣言を出して閉幕した。
被爆者らとの対話を踏まえ、「核の非人道性を国際社会結束の触媒に」と訴え、各国首脳に被爆地訪問を呼びかけた。そこは評価するが、非人道的な核兵器を禁じる国際条約の必要性には言及しなかった。被爆者やNGOには失望感が広がった。
NPDIを主導してきた日豪のほか、ドイツやカナダなど北大西洋条約機構(NATO)加盟の5カ国は米国の「核の傘」の下にあり、にわかに禁止条約に賛成できない事情がある。
一方、国際社会では「条約こそ核廃絶への近道」と主張する急進派諸国が勢いを増している。来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議でも、国際条約の扱いが焦点となりそうだ。
条約づくりへ少しでも前進するには核保有国を動かす必要があり、そのためにはまず、非核国側の団結が欠かせない。NPDIはどうすれば急進派との協調を強めていけるのか。外交戦略を練り、行動に移すべきだ。
共同宣言は、核保有国が安全保障戦略において、核の役割を低める必要性も訴えた。重要なポイントだが、もっと踏み込めないものか。
NPDI設立に先立ち、09年に核廃絶への提言をまとめた日豪主導の賢人会議は、核保有国に先制不使用宣言を求めていく方向性を盛り込んでいた。核攻撃を受けない限り、核を使わないと約束するものだ。
日本政府は北朝鮮の脅威を念頭に「核の傘の抑止力が損なわれる」と先制不使用に否定的だ。しかし、パウエル元米国務長官は、米国の通常兵器だけで抑止力は十分と語る。米国は、まずは北朝鮮向けに先制不使用を宣言し、非核化への交渉参加を強く促してはどうか。
外相会合に招かれた田上富久長崎市長は「核の傘に依存する国も、核の役割を下げる努力を」と訴えた。米ロなどが先制不使用に踏み切れる安全保障環境を整える具体案を、もっと真剣に検討すべきだろう。広島で非人道の原点を確かめたNPDIに、世界を変えていく行動を望みたい。
集団的自衛権の行使容認を目指す安倍政権の姿勢は、中国や北朝鮮との緊張を高め、核への依存を強めるリスクがある。それでは、役割低下を進めるオバマ政権の方針と逆行しかねない。行使の是非論は、核軍縮という視点からも精査すべきだ。
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毎日新聞 2014年04月15日
広島核軍縮会合 被爆地へ首脳訪問促せ
「核兵器のない世界」の実現がいかに難しいかを改めて印象づけたともいえよう。広島市で12カ国が参加して開かれた軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合のことである。多彩な記念行事で各国代表団を温かく迎えた被爆地・広島の人たちは、とりわけ物足りない気持ちを覚えたかもしれない。
この会合の2カ月前、メキシコで開かれた「核兵器の非人道性に関する国際会議」には140カ国以上が参加し、核兵器が人道に反することを強調した上で、核兵器禁止に向けて「法的拘束力のある措置」を取るべきだとする議長総括を発表した。
これを受ける形となった広島会合に、人々が踏み込んだ議論を期待したのも無理はない。だが、採択された「広島宣言」は、核兵器の非人道性こそ盛り込んだものの、核兵器禁止に向けた法的枠組みや条約などには言及せず、一連の国際会議の主張としては後退した感さえある。
参加した12カ国のうち日本を含む7カ国は、米国の「核の傘」に依存している。米国の核戦略への配慮も働いたかもしれない。だが、NPDIは2010年、オバマ米大統領の「核なき世界」の構想を実現すべく日本とオーストラリア主導で作った協議体だ。参加国はいずれも核兵器を持っていない。
こうした国々が積極的に発言することこそオバマ大統領への追い風になるはずだ。世界の核軍縮は停滞している。北朝鮮のように核拡散防止条約(NPT)に背を向けて核兵器を持ち、核実験などで国際社会を脅かす国もある。この際、岸田文雄外相の地元でもある広島から、世界に向けて核軍縮・廃絶への強い意志を明確に示してほしかった。
とはいえ各国外相らが被爆の実態に触れ、生存者の話を聞いたことは大きな成果だろう。広島宣言が各国首脳を含む政治指導者に被爆地訪問を呼びかけたことも評価したい。訪日するオバマ大統領も広島、長崎訪問を検討してほしい。「核なき世界」をめざす旅は、その恐ろしい兵器で命を奪われた人々への鎮魂から始まる−−と私たちは訴えてきた。
その意味で今回、米国務次官がオブザーバーとして広島入りし、慰霊行事などに参加したことを歓迎したい。
また、核軍縮について広島宣言が米露だけでなく全ての核保有国による多国間交渉の必要性を説いたのも有意義だ。その背景には、中国が核戦力を増強しているとの懸念がある。米露中を中心とした核軍縮交渉を速やかに始めるべきである。NPTは、誠実に核軍縮交渉を行うことを条件として、米英仏露中に核兵器保有を認めた。核軍縮は義務であることを忘れてはならない。
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読売新聞 2014年04月15日
核軍縮広島宣言 中国含む多国間交渉が必要だ
中国の核軍拡は、世界の安全保障にとって脅威になりかねない。核軍縮の多国間交渉の実現を目指すことが、中国への牽制となろう。
ドイツ、豪州など非核保有国12か国による「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合」が、唯一の被爆国・日本の主導によって、広島で開かれた。核軍縮推進を訴える「広島宣言」を採択したのは意義深い。
出席した外相らは会合に先立ち被爆者の体験を聴いたり、慰霊碑に献花したりした。核の恐怖を肌で感じ、核廃絶の重要性を再認識したのではないか。
宣言が、原爆の「非人道的な結末を自身の目で確かめる」ため、世界各国の指導者に広島と長崎を訪問するよう呼びかけたのも評価できよう。
宣言で特に重要なのは、核廃絶に向けた「多国間交渉」の創設を提起するとともに、「核軍縮努力にいまだ関与していない国」の核兵器削減も求めたことだ。名指しは避けたものの、中国を念頭に置いているのは明らかだろう。
中国は、核拡散防止条約(NPT)が核保有を認める米英中仏露のうち、唯一核兵器の保有量を増やしているとされる。NPDI各国は団結して、中国を含む核軍縮交渉の実現を目指し、保有国に働きかけていくべきだ。
無論、宣言は米国とロシアに対し、新戦略兵器削減条約(新START)などのような核軍縮努力の継続も求めている。米露両国は世界の核兵器の大半を保有しており削減に取り組むのは当然だ。
宣言は、北朝鮮やイランの核問題と並んで、緊迫するウクライナ情勢を取り上げて、「深刻な懸念」を表明した。
ロシアはソ連解体後、米英と共にウクライナとの間で交わした覚書で、ウクライナが旧ソ連製核兵器を廃棄する見返りに、その領土保全を約束している。
ロシアのウクライナへの介入は、保有国の側が覚書に背いたといえる。核廃棄合意への信頼を失わせ、核軍縮の流れを逆行させかねない。宣言が、覚書の順守を改めて求めたのは、もっともだ。
広島会合の開催により、核廃絶を求める日本の立場は、国際社会に強く印象づけられただろう。
ただ、核を持たない日本は依然、米国の「核の傘」を必要としている。核軍拡を続ける中国や、核開発をやめない北朝鮮に囲まれており、日本への核の脅威は深刻だ。それを踏まえ、核を減らしていく現実的なアプローチが必要だ。
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