公務員改革法 官邸主導の人事が試される

毎日新聞 2014年04月13日

内閣人事局 機能するかは運用次第

6年がかりの法整備である。国家公務員の幹部人事を一元管理する内閣人事局の設置を柱とする国家公務員制度改革関連法が成立、官僚の人事システムが大きく変化する。

政府は今夏の幹部人事から新方式を適用するが、政治主導の名の下に恣意(しい)的な人事が横行したり、逆に従来通りの人事慣行が踏襲されたりする懸念はぬぐえない。政府は公正で能力本位の人事確立に万全を期さなければならない。

2008年に国家公務員制度改革基本法が制定されて以来、中央官庁のタテ割り弊害からの脱却に向けた人事一元化の制度化は歴代政権の課題だった。過去3度も法案が廃案となり改革が頓挫しかねない状況で、辛くも政治の責任を果たした。

政府は来月中にも内閣官房に内閣人事局を設け、各府省幹部人事の一元管理の担い手とする。官房長官が適格性を審査したうえで幹部候補名簿を作成、閣僚は幹部の任免にあたり首相や官房長官と協議する。

現在も各省局長級以上の人事は官邸の人事検討会議の了承が必要だ。官邸の関与がより明確になり「省益優先」とばかりに官僚が政権の方針に抵抗する傾向は抑えられるかもしれない。女性登用の追い風となる可能性もある。

とはいえ、部長級以上約600人もの人事が機能するかは運用次第と言わざるを得ない。とりわけ、政治主導を口実にした情実人事がはびこらないための歯止めが問われる。稲田朋美行政改革担当相は「複数の視点によるチェック」を強調するが、国会質疑でも政権の意向ばかりうかがう「ヒラメ公務員」が増えるのではないかとの指摘があった。

一方で、各省の従来人事が踏襲されるだけでは今度は人事局が「屋上屋」を架す存在となり新制度は有名無実化する。外部からの幹部登用も含め、政令で適格性審査や評価の基準をどう定めるかが極めて重要だ。第三者のこうした手続きへの関与など客観性確保に努めるべきだろう。

人事局の権限もなおあいまいだ。各省の給与ランク別定数を決める権限は人事院から人事局に移されるが人事院の意見を尊重するため、実態は従来通りとみられる。人事院勧告制度が公務員の労働基本権制限の代償措置である以上、人事院の権限確保には配慮せざるを得ない。抜本改革には労働基本権問題の決着が不可欠であることを改めて強調したい。

夏の幹部人事は新システムが改革どころか改悪に陥らないための重要な試金石となる。中央官庁のタテ割りを除くには採用段階から一貫した各省間の交流体系や幹部養成システムの構築が欠かせない。関連法成立はまだ始まりに過ぎない。

読売新聞 2014年04月13日

公務員改革法 官邸主導の人事が試される

首相官邸が主導し、戦略的な官僚人事を行う。その狙い通りに成果を上げてもらいたい。

中央省庁の幹部人事を一元的に管理する内閣人事局の創設を柱とした国家公務員制度改革関連法が、参院本会議で自民、公明、民主3党などの賛成多数により可決、成立した。

改革の理念や方針を示した国家公務員制度改革基本法が2008年に成立して以来、自公政権で1回、民主党政権で2回、関連法案が提出されたが、いずれも廃案になった。公務員制度の議論は、これでようやく一段落しよう。

内閣人事局は、5月末に発足し、各府省の次官、局長、審議官など幹部職員計約600人もの人事を管理する。各府省の人事評価を踏まえて適格性を審査し、最終的には首相、官房長官が各閣僚とともに任免を協議する仕組みだ。

省益よりも国益を優先し、時代の要請に応える資質を持つ官僚が求められている。経済政策「アベノミクス」の推進や女性活用などを前面に掲げる安倍内閣が、どんな人材を配置するか。今夏の幹部人事は最初の試金石となる。

情実を排して公正かつ適材適所の人事を実現するには、評価の基準を明確にし、能力・実績主義を貫かねばならない。

内閣人事局は給与ランク別に定員を定める「級別定数」策定といった人事院の一部機能も担う。その際、人事院の意見を「十分尊重する」ことなどを条件とした。

内閣人事局と人事院の事務が重複し、結果的に行政コストを増大させては本末転倒だ。効率的な運用を心掛けるべきである。

各府省は、「大臣補佐官」を置くことも可能になった。閣僚の特命を受けて動く「黒子的な存在」とするという。有能なスタッフを課題に即して起用できれば、政治主導の強化につながろう。

今回の関連法は、労働基本権の一部である協約締結権の付与を「国民の理解を得られる段階にない」として盛り込まなかった。

民主党は、協約締結権を一般の国家公務員に与え、民間と同様に労使交渉で給与などを決定することを強く主張した。採決時の付帯決議には、民主党の意向で、政府がこの問題で引き続き「合意形成に努める」よう明記された。

だが、協約締結権付与は、制度改悪にならないか。民間の労組は会社が倒産しては元も子もないから無理な要求は控えるが、公務員の場合、歯止めがきかない恐れがある。公務員の労働基本権拡大に安易に道を開いてはなるまい。

産経新聞 2014年04月12日

内閣人事局 「国益より省益」打破せよ

各省庁の事務次官や局長、審議官など約600人の人事を一元管理する「内閣人事局」の新設を柱とした公務員制度改革関連法が成立した。

人事局は政治主導を強化し、縦割り行政を排した能力本位の人事管理につなげるのが目的だ。

現行では実質的に各省庁ごとに人事を決めているが、今後は幹部候補者名簿を作成し、首相や官房長官が関与して任用する。政府は今夏の幹部人事に間に合うよう、5月中の設置を目指している。

官僚組織は「省益あって国益なし」と批判されてきた。新たな行政課題に次々と直面する時代にもかかわらず、機動的な政策を展開できないケースが少なくない。

政治主導が進めば、省庁を横断した戦略的な人事が実現する。女性を含め優秀な人材の抜擢(ばってき)も可能となる。硬直化した官僚機構に風穴が開くよう期待したい。

課題は、600人もの能力や適性をどう見極め、公正かつ的確な人事評価を行うかだ。「政治主導」の名の下に恣意(しい)的な人事が横行することは許されない。政権の顔色をうかがい、猟官運動に走る官僚が増えたのでは、改革の趣旨に逆行することになろう。

こうした懸念を払拭するためにも評価基準を明確にし、チェック態勢を整えることが欠かせない。首相や官房長官が国会などを通じて人事の狙いを丁寧に説明することも重要だ。

初代人事局長には杉田和博官房副長官が就く方向だ。160人体制のトップに官僚出身者を充てることには「政治主導の目的に反する」との批判も出ている。もっともな指摘でもあり、人事局が単なる官僚組織の肥大化に陥ることがないよう、安倍晋三首相には目を光らせてもらいたい。

公務員の給与に関わる「級別定数」の権限の移行は、「人事院の意見を尊重する」ことで折り合った。人事院の関与を残したことには「改革の後退」との批判もあるが、公務員が労使交渉できる協約締結権などを見送った以上、妥当な判断だといえよう。

公務員がストなどをすれば国民生活への影響も大きく、拙速に結論を出してはならない。引き続き慎重な議論が求められる。

人事局はあくまで改革の一歩だ。政府はこれに安住することなく、さらに充実した公務員制度を目指さなければならない。

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