海自給油終了 代替の人的貢献策を検討せよ

朝日新聞 2010年01月16日

給油支援終了 徹底検証し、教訓生かせ

8年間に及んだ海上自衛隊によるインド洋での給油支援活動が終わった。

北沢俊美防衛相がきのう撤収命令を出し、3週間ほどで部隊は帰国する。

インド洋派遣は2001年の9・11同時テロ後、米国が「自衛戦争」として始めたアフガニスタン攻撃の支援策として、その年の12月から始まった。

テロリストや武器・麻薬の流出入を阻止するため、インド洋北部で活動する米、英、パキスタンなど12カ国の艦艇に燃料を無償提供し、その総額は約250億円にのぼった。

戦闘地域そのものではないにせよ、戦地に近接したところに自衛隊を派遣する初のケースだった。当時の小泉政権は、根拠となるテロ対策特措法に「非戦闘地域」という概念を導入し、そこでの後方支援なら憲法に反しないという際どい解釈を組み立てた。この法解釈は、その後のイラクへの自衛隊派遣にも援用された。

テロとの戦いに、米国の同盟国としてどう役割を果たすか。日本が選択した給油支援は、国際協力として確かに、それなりの評価を得た。日本の存在感を示す上でも、支援の再開を求める議論が自民党などにある。

だが補給の需要は開始から2年ほどで急減していた。しかも、現実にはアフガン情勢の悪化は止まっていない。

鳩山政権は、補給支援に代えてアフガニスタンへの民生支援として5年で50億ドルの拠出を決めた。妥当な選択ではなかろうか。

自衛隊の運用をめぐる様々な問題も露呈した。

07年には、補給した燃料がイラク攻撃に参加する米軍艦艇に転用されていたのではないかという疑惑が浮上した。国会への報告で給油量を間違えたり、それを隠蔽(いんぺい)したりした問題まで発覚し、文民統制がないがしろにされているとして批判された。

いま鳩山政権に求めたいのは、8年間の活動に対する外交上、あるいは憲法と自衛隊の運用をめぐる問題など様々な側面からの総合的な政策評価だ。

イラク戦争をめぐっては近年、参戦した英国をはじめいくつかの国々で、その是非を検証する動きがある。

イラク攻撃に支持を表明し、自衛隊をイラクに派遣した小泉政権の判断は正しかったのか。妥当性はあったのか。その検証も必要だ。

「テロとの戦い」にせよ、イラク戦争にせよ、日本の協力についてのそうした検証作業が大事なのは将来に教訓を生かす必要があるからだ。

国連の平和維持活動(PKO)や海外の大規模災害に自衛隊を派遣するケースはこれから増えるだろう。どのような活動が紛争の抑止や平和の構築に役立つのか。経験を踏まえて考える。アフガンへの民生支援の肉付けを急ぎつつ、検証作業を進めたい。

毎日新聞 2010年01月16日

アフガン支援 「民生」の実効性確保を

新テロ対策特措法の期限切れに伴い、一時中断をはさみながらもアフガニスタン攻撃開始直後の01年12月から続いていたインド洋での海上自衛隊による給油活動が、終了した。

給油は、米同時多発テロに対するアフガンでの「不朽の自由作戦」の一環で、テロリストや武器、麻薬などの海上移動を阻止する活動に従事する各国艦船への支援として開始された。しかし、日本の提供燃料が米軍のイラクでの作戦に転用されたとの疑惑が指摘されたこともある。給油は、03年度には月平均14回を数えたが、昨年11月は8回、12月は7回とピーク時の半分になっていた。

鳩山政権は発足当初から、給油活動を延長しない方針だった。給油の需要は数年前に比べて減少しているとはいえ、経費は年間約80億円で安価な対テロ支援策と言われてきた。給油活動は国際的に評価され、日本が「テロとの戦い」に一定の積極的な役割を果たしてきたことも事実だろう。防衛省内には海自の撤収によって各国とのテロ情報共有が難しくなるとの懸念もある。政府は、8年間にわたる給油活動を検証し、評価を含めて国会に報告すべきだ。

鳩山政権は民生支援に軸足を移し、5年間で最大50億ドル(約4500億円)の支援を決め、鳩山由紀夫首相がオバマ米大統領に表明している。自公政権下でも民主化支援や治安改善、経済基盤整備、人材育成などの民生支援を実施してきた。その額は02年以降で20億ドルだから、鳩山政権の支援額はけた外れに大きい。

拠出資金は、反政府勢力タリバン元兵士の社会復帰に向けた職業訓練や、治安能力向上のための警察官8万人の給与半額負担継続、国の自立的発展を目指す農業、教育、医療支援などに投入される計画だ。

しかし、問題もある。アフガンの治安は国内全域で悪化している。武装勢力に対抗するのが先決で、現在の治安状況では民生支援に限界があるとの見方が強い。本格的支援を実施するには要員の派遣が必要だが、治安問題がネックとなっている。

また、支援額は事業を積み上げた数字ではなく給油中止の代償として決まった側面が強いうえ、アフガンには年間10億ドルもの資金を受け入れる能力はないとされる。ドイツの非政府組織はアフガン・カルザイ政権をソマリアに次ぐ世界第2の汚職政権と認定している。血税が汚職に消えるようでは日本国民の理解は得られない。

厳しい財政事情の下での多額支援である。鳩山政権は、米国など関係国と十分協議を重ねたうえで、実効ある民生支援となる内容と額、態勢を探るとともに、支援の到達点などを定期的に国会に報告するなど透明性を確保すべきである。

読売新聞 2010年01月15日

海自給油終了 代替の人的貢献策を検討せよ

国際社会の「テロとの戦い」は今後も息の長い取り組みが求められる。日本がこの共同行動にどう関与していくのか、真剣に考えるべきだ。

8年余に及ぶインド洋での海上自衛隊の給油活動が終了する。政府が新テロ対策特別措置法を延長せず、特措法の期限が15日で切れるためだ。極めて遺憾である。

給油活動は、2001年の米同時テロを受けて始まった。従来の国連平和維持活動(PKO)とは法的枠組みの異なる、新たな国際平和協力活動で、法律上も、部隊運用上もハードルは高かった。

だが、一人の自衛隊員の犠牲者も出さず、国際的にも高い評価を受けた。日本の安全保障政策にとって大きな意義があった。

日本と中東を結ぶ重要な海上交通路(シーレーン)の安全確保にも役立っていた。海自が現場でプレゼンス(存在)を示し、関係国と連携することで、国際テロに関する様々な情報も入手できた。

年間経費も50億~70億円に過ぎない。5年間で50億ドル(約4600億円)のアフガニスタンへの資金支援と比べて、はるかに費用対効果が高い。そう指摘する声が民主党内にもある。

こうした多くの意味を持つ活動を、なぜ終結させるのか。説得力のある政府の説明はない。

鳩山首相は「アフガン支援に役立っていない」「日本には他の貢献の仕方がある」と言う。だが、給油活動は、テロリストの移動や武器・麻薬輸送を監視する海上阻止活動の一環であり、そもそも直接のアフガン支援ではない。

単に「憲法違反だ」といった民主党の野党時代の主張や公約との整合性のための活動終了なら、日本の国益を大いに害する。

テロとの戦いは、日本の平和と安全に直結する。米同時テロでは日本人24人が亡くなった。今後、日本が標的となる恐れもある。

米軍艦船への給油活動が日米同盟の強化につながったのは事実だが、本来は、日本自身のために、国際社会の一員としての責務を果たすのが目的だったはずだ。

アフガンでは、困難な情勢が続く中、40か国以上の部隊が1500人超の犠牲に耐えつつ、治安維持や復興支援に従事している。日本も一定のリスクを共有し、ともに汗を流すことが大切だ。

自分は安全な場所にいて資金援助するだけでは、感謝はされても尊敬はされない。鳩山政権は、給油活動の「単純な延長はしない」と言い続けてきた。具体的な代替策を検討しなければなるまい。

産経新聞 2010年01月15日

補給支援打ち切り 国益を失う愚かしい選択

平成13年12月から、一時中断期間をはさみ、約8年間にわたって続けられてきたインド洋での海上自衛隊による補給支援活動が、15日で打ち切られる。

テロとの戦いからの日本の離脱である。日本にとって重要な海上交通路の安全確保からも手を引く。国際社会の対テロ活動の責務を担えないことが、国益をいかに損なうか。愚劣な選択と言わざるを得ない。

愚かさを象徴するのは、政府が昨年11月にまとめたアフガニスタンへの新支援策だ。警察官の給与負担や元タリバン兵士の職業訓練、農業分野など民生支援分野に5年間で50億ドル(約4500億円)を提供する。

年間900億円を無償資金として供与するが、汚職が断ち切れないカルザイ政権へのばらまきにならないか。支援の詳細もまだ公表されていない。そもそも治安が悪化している状況下での民生支援は可能なのか。

一方で、海自の補給支援に要した費用は、平成20年度の1年間でも約70億円でしかない。

新支援策は自衛隊による人的貢献策を最初から除外しており、テロとの戦いで国際社会と共にコストとリスクを分かち合おうという考え方に立っていない。テロとの戦いとして高い評価を受けるのは難しく、小切手外交との批判を招きかねない。

鳩山由紀夫首相は補給支援に匹敵する代替案をいまだに見いだせていない。民主党は小沢一郎幹事長が代表時代に補給支援を「憲法違反」と断じる一方、アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)参加を提起したが、党内では具体的な議論としてほとんど検討されなかった。同党が国会に出したアフガン支援法案も、停戦合意か治安の安定を前提とする内容で現実性に欠けていた。

補給支援からの離脱で、活動を通じて得られていたインド洋海域の情報は入りにくくなり、安全確保を困難にする。日米同盟の信頼性も棄損した。失うものの大きさを首相はあらためて受け止め、まだ着手していない自衛隊の海外派遣に関する恒久法の検討などに取り組んでもらいたい。

一方で、灼熱(しゃくねつ)の洋上で、熟練した技術を要する補給支援を着実に重ねてきた海自隊員らは、国際社会から高い評価と信頼を勝ち得てきた。その労苦には心から敬意と感謝の念を表明したい。

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