エネルギー計画 これは計画に値しない

朝日新聞 2014年04月12日

エネルギー計画 これがメッセージか

政府が新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。

福島第一原発の事故後、初めての改定だ。どこに問題があったのか。原発に対する国民意識の変化を政策にどう結びつけるのか。政治の意思を示す絶好の機会だった。

しかし、計画はメニューこそ豊富だが、とても新しいエネルギー社会へのメッセージとは言えない。

原発停止による化石燃料の輸入増を憂え、将来にわたって原発を維持する意向をにじませる一方、原発依存度の低減をうたう。高速増殖炉「もんじゅ」の目的をすり替え、核燃料サイクル事業の推進を明記しながら、「中長期的な対応の柔軟性」を強調して、批判をかわす。

露骨に本音を出して国民の余計な反発は買うまい――。エネルギー政策で安倍政権が続ける焦点外し戦略である。

事故から3年がたつ。もう原発に依存できないことは電力会社もわかっているはずだ。政府が脱原発に向けて、メリハリのきいた「実践」編の作業を急がずしてどうする。

基本計画で原発は「低炭素の準国産エネルギー」で、昼夜継続的に動かす「ベースロード」電源と位置づけられた。原発依存度を減らす以上、その新増設より、同じ機能をもつ地熱や水力、高効率の石炭火力などの開発を優先させるのが筋だ。

原発は巨大事故のリスクから免れられない。対策が整わないのに再稼働を急がせることなど許されない。

たしかに化石燃料の輸入増に伴うコストの上昇は軽視できない。ただ、「国富が毎年3・6兆円流出する」との言いぶりには、計算方法に各方面から疑問の声があがっている。

すでに電力各社には3年の実績値がある。マクロでの推計ではなく、各社から輸入量や金額などの正確な数字を出させ、客観的なデータ検証と要因分析のもとに対策を論じることが不可欠だ。

原発の再稼働は、電力への新規参入や新電源への投資意欲をそぐ面もある。政府が脱原発への中長期の見取り図をはやく示さないと、電力市場の活性化も進まない。

基本計画は、エネルギー政策の立案から実施に至るプロセスに国民が関与する仕組みの必要性を指摘している。

原発政策の閉鎖性がもたらした被害の大きさを、私たちは3・11で痛いほど学んだ。おざなりの広報・広聴ではない、「参加」の仕組みへ。

ここは有言実行を求める。

毎日新聞 2014年04月12日

エネルギー計画 これは計画に値しない

政府が、エネルギー基本計画を閣議決定した。中長期的なエネルギー政策の指針となるべきものだ。

しかし、与党の議論を経ても原発など電源別比率の数値目標は盛り込まれず、将来像はぼやけたままだ。これではとても指針にはなるまい。

原発の危険、燃料費の高騰や停電のおそれなどエネルギーを巡る国民の不安は大きい。それを解消していくためには、政府が計画の肉付けを急ぐ必要がある。

今回の計画は、福島の原発事故を契機に策定作業が始まった。原発依存を強めることにしていた2010年策定の前計画を見直すのが主眼だったはずだ。

ところが出来上がった計画は、原発依存度低減を目標に掲げてはいるものの、原発再稼働には積極的だ。将来にわたって一定規模の原発を確保する方針も示し、新増設に道を開いた。使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルは事実上行き詰まっているが、使用済み燃料の最終処分について具体策がないため、これまで通り推進する。

要するに、民主党政権が12年に決めた原発ゼロを目指す方針を転換し、原発に依存してきた従来の政策をほとんど追認したということだ。こうした計画の本質的な部分は1カ月半に及んだ与党の協議を経ても、まったく変わらなかった。

与党協議の最大の焦点は再生可能エネルギーの扱いだった。30年に再生エネの比率を30%にすると公約している公明党が、数値目標を入れるよう主張した。それに対し、再生エネだけに数値目標は入れられないと政府が抵抗した。

結局、前計画で掲げた30年に約2割という目安を参考値として脚注に入れ、それを「さらに上回る水準の導入を目指す」ことで決着した。しかし、計画に必要なのはその目標や方策を具体的に示すことである。

それができなかったのは、政府が目標とする将来像を描けていないからだ。問題先送りをレトリックでごまかすばかりでは、「計画」の名に値しない。

与党協議ではいったん、計画の意義を述べる冒頭部分から、福島の事故に関する反省を表現した文章が削除された。一部議員の反発もあり最終的にはほぼ元に戻ったが、政府・与党内では原発の「安全神話」が復活したかのようだ。

「安全神話」は崩壊したと改めて肝に銘じなければならない。原発依存からは、できるだけ早く脱却すべきなのだ。それには社会的なコストもかかる。政府は国民の理解を得ながらエネルギー政策の具体化を急ぎ、原発に依存しない社会への道筋を示していくべきだ。

読売新聞 2014年04月12日

エネルギー計画 「原発活用」は現実的な戦略だ

◆最適な電源構成の設定を急げ◆

迷走した日本のエネルギー政策を、正常化する大きな一歩である。電力の安定供給体制の立て直しが求められよう。

政府がエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を閣議決定した。

最大の焦点だった原子力発電所については、昼夜を問わずに発電する「重要なベースロード電源」と位置付けた。安全性を確認した原発の再稼働も明記した。

民主党政権が掲げた「脱原発路線」に、正式に決別する妥当な内容と言える。

◆公明党の同意がカギに◆

東京電力福島第一原発の事故を受け、全原発48基の停止という異常事態が続いている。

政府は当初、今年初めにもエネルギー基本計画を閣議決定する方向だったが、自民、公明両党との調整が長引いた。

速やかな「原発ゼロ」を選挙公約に掲げた公明党も、最終的に、原発を活用する基本方針に同意した。厳しい電力事情を考えたうえでの現実的な判断だった。

事故前に全発電量の3割だった原発を火力発電が代替し、比率は9割近くに達している。

輸入燃料に頼る火力発電への過度な依存は、エネルギー安全保障の観点から極めて危うい。

火力発電の追加燃料費は年3・6兆円に上り、資源国への巨額な国富流出が続く。家庭の電気料金は事故前より東電で4割、関西電力も3割近く上がり、このままでは追加値上げも不可避だろう。

問題は、いまだに原発再稼働への道筋が見えないことである。政府は立地自治体の説得を含め、再稼働の実現に向けた取り組みを加速させるべきだ。

◆再生エネ2割は疑問◆

基本計画のもう一つの焦点は、太陽光など再生可能エネルギーの普及をどう見込むかだった。政府は、2012年度に約1割だった再生エネの比率を、30年度に2割以上にすることを盛り込んだ。

再生エネを重視する公明党などの主張を受け入れたものだ。再生エネの拡充は必要だが、目指すべき最適な電源構成の全体像をまとめる前に、再生エネだけに数値目標を掲げたのは疑問である。

2割に引き上げるには、原発10基をフル稼働して作る電力を、再生エネで新たに確保する計算になる。太陽光だけなら東京の山手線内の10倍の用地が、風力では約2万基の風車が要る。現時点では実現性に乏しい目標ではないか。

日照や風の状況による発電量の急変動など、克服すべき課題も多い。官民が連携して技術開発を加速しないと、活路は開けまい。

大切なのは、原発を含む電源構成の目標設定と、その達成への工程表を速やかに示すことだ。

エネルギー政策の方向が不透明なままでは、企業が中長期の経営戦略を立てにくい。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の足かせとなる恐れもある。

経済性や供給安定性、環境負荷など、それぞれ長所と短所のある火力、原子力、再生エネにバランスよく分散させることが肝心だ。温室効果ガスの排出量を抑えた火力発電所の開発・新設など、多角的な対応も求められよう。

基本計画は原発依存度を「可能な限り低減させる」とする一方、「確保していく規模を見極める」としている。原発の新増設に含みを残しているが、踏み込み不足は否めない。

原子力技術の維持と人材育成のためにも、原発を新増設する方針を明示すべきだろう。

原発の安全性に対する国民の不安が根強いのは、福島第一原発の事故収束の遅れも一因だ。政府と東電が緊密に連携し、早急に収束を図ることが重要である。

原発を活用するうえで、放射性廃棄物の最終処分に道筋をつけることも欠かせない。「国が前面に立って取り組む」としたのは当然だ。処分地選定などで具体的な進展を図ることが急務となる。

◆最終処分に道筋つけよ◆

核燃料サイクルについて「対応の柔軟性を持たせる」との表現が維持されたのは、懸念が残る。

一方、高速増殖炉「もんじゅ」が新たに、核廃棄物の減量や有害度低減などの国際的な研究拠点と位置付けられたのは評価できる。核燃サイクルの着実な推進への追い風としたい。

中国には15基の原発があり、55基の建設が計画されている。重大な原発事故が起きれば、放射性物質は日本にも飛来する。

安全性能の高い日本の原発を新興国などに輸出することは、国際貢献になると同時に、日本の安全確保にもつながる。

産経新聞 2014年04月10日

エネルギー計画 原発含め明確な将来像を

資源小国の日本にとってエネルギーの安定確保は欠かせない。そのエネルギー政策の中長期的な指針となる基本計画がまとまり、11日にも閣議決定される。

原発を、常に電力を安定的に供給できるという意味の「重要なベースロード電源」と位置付け、安全性を確認すれば再稼働させると明記した。民主党政権下でとられた無責任な脱原発から脱却したことは評価したい。

問題は、原発の運転再開への道筋がいまだに見えないことだ。計画に書いただけではなく、政府は立地自治体の同意取り付けなど、現実の再稼働を主導する責務を果たさねばならない。

エネルギー基本計画は、ほぼ3年ごとに改定されてきた。東京電力の福島第1原発事故を受け、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発は今後も継続して利用するとした。発電コストが低く、温室効果ガスの排出も少ない原発の活用は現実的な判断といえる。

現在は国内全48基の原発が稼働停止に追い込まれ、発電の9割を火力発電に頼っている。化石燃料の輸入増は貿易赤字拡大の一因でもある。電力需給が逼迫(ひっぱく)する今夏も原発の再稼働が間に合わず、再び電力不足に陥る懸念が強まっている。計画停電の回避に向け、安定供給に全力をあげるべきだ。

安全な次世代原子炉とされる「高温ガス炉」の研究開発を進める方針が盛り込まれた意義は大きい。将来の人材を確保するため、こうした研究開発の継続は不可欠だ。原発の新増設を含め、安全性を高める取り組みが重要だ。

安価で安定的な電力供給には、原発や火力、太陽光など多様なエネルギーが補完し合う最適な電源構成の確立が重要だ。今回は電源別の数値目標を入れることを見送ったが、具体的な全体の将来像を早期に打ち出す必要がある。

与党内では基本計画策定にあたり、再生可能エネルギーの目標を求める声が強かった。このため、「2030年時点で約2割」という従来目標を参考とし、これを上回る水準を目指すという。だが、水力を除く再生エネ比率は現在2%程度にとどまる。発電コストが高く、安定性に欠ける太陽光などに過度の期待は禁物だろう。

エネルギーは暮らしや産業を支える基盤である。これが揺らいでは、国が立ちゆかないことを安倍晋三政権は銘記すべきだ。

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