STAP問題 「反論」は説得力に欠けている

毎日新聞 2014年04月10日

STAP問題 外部の目で真相解明を

なんとも釈然としない状況である。STAP細胞論文の筆頭著者である理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーが、理研の調査委員会による研究不正認定に不服申し立てをし、代理人とともに記者会見を開いた。

理研の調査委はSTAP細胞実在の証拠となる二つの画像について、切り張りされたり、別の細胞の画像が使われたりしたことから、「改ざん」「捏造(ねつぞう)」と判定している。だが、小保方氏側は、これらは「悪意のない間違い」であり、研究不正には当たらないと反論、真っ向から意見が対立している。

小保方氏らの主張の中核となっているのは、「真正なデータ」は別に存在する、というものだ。存在しないデータを作ったわけではなく、理研の規定の解釈からも研究不正とはみなされない、と主張している。

論文自体はあまりに問題が多く、不正とみなされてもやむを得ないが、研究そのものを不正と見なすかどうか。本当のデータの存在はひとつの判断材料かもしれない。

ただし、問題は、その本当のデータが、第三者にも納得のいく方法で示されているかどうかだ。

今回、不服申し立ての文書や記者会見ではSTAP細胞の実在を示す科学的データは示されなかった。しかも、取り違えて論文に使用したという画像は、元をたどると、どのような条件で作った細胞に基づくものか、小保方氏本人もわからないまま使用した疑いがある。これでは、本当のデータの存在を信じることもむずかしい。

小保方氏らは、理研の調査が不十分であった点も問題にしている。中間報告から最終報告に至る期間が短く、調査内容も限定的で、真相が解明されたと言えないのは事実だ。真相が解明されなければ日本の科学界への信頼性が回復できないのではないか。

だとすれば、理研の調査委が委員長をはじめ半数が理研の人間だったことも考え合わせ、外部のメンバーによる徹底した再調査が必要だろう。その際には、理研からの独立性を重んじた人選とし、法的、倫理的側面から検証できる科学者以外の人の視点も加えてほしい。

その上で、野依良治理事長が「未熟な研究者」と指摘した小保方氏を、理研が研究ユニットリーダーとして採用した経緯や、論文発表に至る過程で共著者のチェック体制が働かなかった理由についても、きちんと検証してほしい。既存の試料の分析・検証も進めるべきだ。

「改ざん」「捏造」の解釈の違いを争うだけでは、理研は責任を果たしたことにならない。

読売新聞 2014年04月10日

STAP問題 「反論」は説得力に欠けている

日本の科学研究の信頼を揺るがした責任の重大さを考えれば、「未熟」「不勉強」との釈明は通らない。

STAP細胞の論文疑惑で、主著者の小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーが記者会見を開いて反論した。1月末の論文発表以来、小保方氏が公の場に姿を現したのは初めてだ。

理研の調査委員会が、論文には改ざん、捏造ねつぞうがあったと認定したことに対し、小保方氏は「悪意はなかった」と主張した。

データを見やすくするための画像の切り貼りや取り違えは、理研の規定における改ざんや捏造には当たらないとも述べた。

だが、データを加工すること自体が、意図的な改ざんに当たる。「悪意はない」との言い分も、「故意」を意味する法律上の「悪意」を、道徳的な概念と混同しているのではないか。

今回の問題で浮かんだのは、研究の不正行為に対する意識の甘さだ。科学はデータに基づき、地道に仮説を検証する作業である。データをきちんと管理しなければ、研究の成果も信頼されない。

研究の経過を記録した実験ノートの記述について、小保方氏は不十分だったと認めた。「自己流の研究を行ってきた」と反省の弁を語ったが、科学者としての資質に疑問符が付く。

STAP細胞は本当に存在するのか。科学的に最も重要なこの点について、小保方氏は「STAP細胞は必ずある。200回以上、作製に成功した」と強調し、論文の撤回を否定した。

捏造とされた画像も、きちんとした実験に基づくものがあると主張した。しかし、その裏付けとなる証拠は示さなかった。

誰も再現実験に成功していない点については、「追試に成功した人はいる」と語ったが、それが誰かについては、言葉を濁した。

一連の説明は説得力を欠く。

理研調査委の報告書に対し、小保方氏は、不服申し立てを行っている。調査委は再調査を行うかどうかを検討するが、小保方氏には、確かな根拠に基づいたデータを示すことが求められよう。

競争が激しい生命科学の研究分野では、不正行為も少なくない。国内だけでも最近、東大分子細胞生物学研究所の論文51本で画像の加工などが指摘された。筑波大でも同様の事例が発覚した。

文部科学省は近く研究不正対策指針を改定し、研究者の倫理教育を強化する。科学への真摯しんしな姿勢を徹底させることが大切だ。

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