ウクライナ混乱 ロシアは介入自制せよ

朝日新聞 2014年04月19日

ウクライナ危機 合意の確かな実行を

欧州とロシアのはざまに高まる緊張が、外交解決に向かうのか。ウクライナ情勢の改善は、ここからが正念場である。

米国とロシア、欧州連合、ウクライナの外相級が会談し、事態の沈静化で合意した。

同国の東部では、公庁舎などを占拠した親ロシア派勢力に対し、国軍が強制排除に乗り出した。内戦にも陥りかねない危機である。

その瀬戸際で、武装勢力の退去や暴力停止など緊急行動の必要性で4者が一致した。打開へ向けた一筋の光明といえよう。

共同声明は、欧米が問題視するロシアのクリミア編入にはあえて言及していない。逆にロシアが求めたウクライナの「連邦化」も盛り込まれなかった。それぞれが譲歩した形だ。

ウクライナの暫定政権と、その正統性を認めてこなかったロシアが初めて対話の席についたこと自体、重要な一歩である。

ウクライナは、来月の大統領選や憲法改正などを経て国家再建に進まねばならない。ロシア系住民が安定した暮らしを営める融和の社会づくりは、ロシアにとっても有益なはずだ。

ロシアでは株価と通貨が下落し、輸入品の値上がりが市民生活をじわじわと苦しめている。工業地帯であるウクライナ東部に混乱が広がれば、取引が多いロシア経済へのさらなる打撃は避けられない。

エネルギーや金融でロシアと深く結びつく欧州でも、さらなる対ロ制裁が自国経済にはねかえる心配が高まっていた。

冷戦時代と異なり、世界のどの国も地域も経済面で互いを必要としている。その相互依存の構図が、事態の悪化を防ぐ力学になりつつある。東西対決の時代ではないのだ。

今なすべきは、合意した言葉を実行に移すことだ。

まず求められるのがロシアの行動だ。速やかに国境に集結させた軍部隊を撤収させねばならない。親ロシア派に武装を解かせるよう働きかけるべきだ。

依然不穏なのは、ロシアのプーチン大統領の言動である。

外相級協議の直前、「私にはウクライナに武力を行使する権限がある」と述べた。国際社会は引き続きロシアへの警戒を怠ってはならない。

ウクライナ暫定政権が果たすべき課題も大きい。合意は、すべての国内勢力による対話も求めている。東部の自治権拡大やロシア語を話す住民の保護などを進め、東西の亀裂を着実に修復してゆく必要がある。

緊張緩和への道のりはスタート台に立ったばかりだ。

毎日新聞 2014年04月19日

ウクライナ合意 危機克服へ全力挙げよ

ウクライナ情勢をめぐる米国、ロシア、欧州連合(EU)、ウクライナ暫定政権の4者による初の外相級協議が開かれ、武力行使や威嚇、挑発の自制など緊張緩和に向けた取り組みの必要性で合意した。

懸念されたロシア軍のウクライナ東部侵攻と欧米の対露追加制裁という最悪の事態が当面回避されたことは歓迎したい。だが欧米とロシアの根本的な対立は解消されておらず、危機が去ったとみるのは早計だ。まずはすべての当事者に合意の早急な実行に全力を挙げてもらいたい。

ウクライナ東部では、暫定政権に反発する親露派の武装集団が各地で州政府庁舎を占拠するなど混乱が広がり、一部では政権側特殊部隊との衝突などで死傷者が出ていた。ロシアは衝突が激化すれば軍事介入も辞さない構えを見せていた。協議が決裂すれば、危機は一層深刻化していただろう。

4者協議の合意として発表された共同声明は、「すべての違法な武装集団」に武装解除と占拠施設の明け渡しを求めた。そのため全欧安保協力機構(OSCE)の監視団がウクライナ暫定政権を助けて主導的な役割を果たすことも盛り込んだ。

欧米は親露派の武装集団を動かしたのはロシア治安機関とみて、ロシア側に混乱収拾に向けた影響力の行使を求めている。しかし、ロシアは関与を否定し、「ウクライナ人自身が危機を解決すべきだ」(ラブロフ外相)との立場だ。ロシアはまた、2月のウクライナ政変に加わり一部が暫定政権に参画している過激派民族主義勢力も、「違法な武装集団」と危険視している。暫定政権はロシアに介入の口実を与えないために、東部の混乱を収拾すると同時に、首都キエフなどでの過激派の暴発も抑えなければならない。

共同声明には「幅広い国民対話」で憲法修正への取り組みを進めることも盛り込まれた。ロシア系住民が多い東部地方の発言力を強め、ウクライナが親欧米路線一辺倒に走ることを阻止したいロシアの意向を反映している。だがこれは国民の決定に委ねるべき問題だ。

そのためには5月に東部も含むウクライナ全土で大統領選を実施し、国民が納得できる正統なウクライナ新政権の樹立を急ぐべきだろう。この実現に向け、暫定政権は早急に治安回復に取り組む必要がある。

一方で、今回の4者協議では、ロシアはウクライナとの国境地帯からの軍撤退には応じず、ロシアによるクリミア編入の不当性も棚上げの形になった。欧米とロシアは、危機克服に向けてさらに協議を重ねてほしい。日本も含めた国際社会は、それを後押しすべきだ。

読売新聞 2014年04月19日

ウクライナ声明 親露派の武装解除が鍵になる

緊迫するウクライナ情勢の沈静化につながるかどうか、まだ不透明である。ロシアは速やかに合意を履行すべきだ。

米国、ロシア、ウクライナ暫定政府、欧州連合(EU)の4者が初の外相級協議を開き、共同声明を発表した。

共同声明は、ウクライナ国内のすべての不法な武装集団の武装解除や、不法占拠した建物や公共の場所の明け渡しを求めた。東部各地で、親ロシア派武装勢力が地方政府や警察の庁舎などを占拠している事態を踏まえたものだ。

ウクライナ暫定政府が、軍を動員して武装勢力の強制排除に乗り出したが難航し、流血を伴う混乱が広がっている。

4者が協議のテーブルにつき、全当事者に暴力や威圧、挑発行為の自制を促すことで合意したのは、一定の評価に値しよう。

最大の課題は、武装解除や明け渡しをどう実現するかだ。

声明は、米欧露が参加する全欧安保協力機構(OSCE)の特別監視団が、ウクライナ当局による武装解除などを支援するとしている。だが、親露派を後押しするロシアの積極的な協力なしには効果は乏しいだろう。

ロシアは親露派への関与を否定してきたが、編入したクリミア半島については、プーチン大統領が露軍の関与を認めた。東部ではそうではないと言い切れるのか。

オバマ米大統領が、共同声明の合意について、「現時点では何も確実ではない」と懸念を示し、「数日内の合意履行」がなければロシアへの追加制裁に踏み切る方針を表明したのは当然である。

米欧を中心とした国際社会は、ロシアに合意の確実な履行を求め、圧力を強めねばならない。

日本も国際社会と連携する姿勢が問われている。岸田外相が訪露を延期したのもやむを得まい。

気がかりなのは、共同声明が、ウクライナとの国境沿いに集結する数万人規模の露軍部隊の撤収について言及しなかったことだ。撤収は緊張緩和の重要なステップだけに、今後の課題である。

中長期的な混乱収拾策を示さずに、5月予定の大統領選に触れていないのも問題といえる。

暫定政府主導の選挙を認めないロシアの意向に配慮したとみられる。だが、親露派も参加した公正な選挙で新指導者を選んでこそ、声明に記された「幅広い国民対話」を早期に実現できるはずだ。

ウクライナの分裂を防ぎ、安定政権をどう作るか、ロシアを含む外交交渉の継続が求められる。

産経新聞 2014年04月19日

ウクライナ合意 ロシアは直ちに履行せよ

米国、ロシア、ウクライナ、欧州連合(EU)の外相級協議で、ウクライナ東部の州庁舎や警察署を占拠している親ロシア勢力を建物から退去させ、その武装を解除することなどで合意した。

対立してきた米欧とロシアが東部の緊張緩和へ向け、一致点を見いだしたことは評価できる。

ロシアは全力を挙げ、直ちに今回の合意内容を親露武装勢力に実行させなければならない。

占拠の手際の良さや施設に突入した集団の装備などから、ロシア部隊の関与は確実とされる。親露勢力に影響力を行使できるのは、一連の動きの背後にいるプーチン露政権以外にない。

問題は、オバマ米大統領が合意後の記者会見でも述べたように、ロシアが実際にそれを履行するかどうかである。

プーチン氏は、先のウクライナ南部クリミア半島併合に至る過程でロシア軍介入を終始否定してきながら、外相級協議と同じ日のテレビ対話番組で一転、「ロシア軍人たちがいた」と認めている。

ケリー米国務長官は、数日内に進展が見られなければロシアに対して「追加制裁を科すしかなくなる」と警告した。当然である。

合意をロシアの口約束に終わらせないために、米欧は対露制裁強化の準備を進め、その圧力によりプーチン政権を合意履行に追い込む必要がある。そして、進展がない場合、追加制裁の発動をためらってはならない。

合意は、ウクライナとの国境に展開し同国への脅しとなっているロシア軍の大兵力やクリミア武力併合には踏み込んでいない。米欧が譲歩した観は否めず残念だ。

合意声明が「最初のステップ」と断っているように、今回の措置はあくまで東部の危機を回避する緊急的なものだとはいえ、国際社会はクリミア併合の撤回を求めることを忘れないでほしい。

日本の対応をみると、北方領土問題をめぐり今月下旬に予定されていた岸田文雄外相の訪露が延期された。プーチン氏との個人的関係を背景に領土交渉の加速を模索してきた安倍晋三首相としては、苦渋の決断という面はあろうが、当然の判断である。

領土問題で「力による現状の変更は認めない」というのが、特に中国を念頭にした安倍外交の大原則である。対露圧力でも米欧との結束を強めてもらいたい。

朝日新聞 2014年04月09日

ウクライナ緊迫 ロシアは介入をやめよ

ロシアは緊張をあおる愚行を繰り返してはならない。

ウクライナ東部で不穏な動きが強まっている。親ロシア派勢力が州政府庁舎などを占拠し、ロシア編入を叫んでいる。

クリミア半島がロシアに併合された時と同じ構図である。一方的に「共和国」設立まで宣言した州もある。

実態には不明な点も多い。だが、ロシアがウクライナの暫定政権に圧力をかけ続けているのは事実だ。

軍事衝突すら誘引しかねない情勢に陥りつつある。ロシアは事態を悪化させる介入行動から手を引くべきである。

ロシアによる締めつけは露骨に強められている。経済面では天然ガスの大幅な値上げを通告した。国境には引き続き大規模な軍部隊を展開している。

東部3州で親ロシア派の分離独立活動が激化しているのは、そうしたロシアの後ろ盾があることが深く関係している。

暫定政権は今のところ冷静な姿勢を保っている。だが、親ロシア派勢力にロシアの平和維持部隊派遣を求める動きもあることは深刻な懸念材料だろう。

このまま混乱が深まれば、ロシア軍によるウクライナ領への侵攻も現実味を帯びる。

ロシアは早急に軍部隊を撤収させねばならない。プーチン政権は、東部の分離独立の動きを支持しないことを明確に打ち出す必要がある。それがなければ事態は沈静化できない。

ロシアは、東部に多いロシア語を母語とする住民の権利擁護と、多くの権限を東部に与える「連邦化」などを求めている。だが、それを決めるのは、あくまでウクライナ国民自身だ。

新たなリーダーを決める大統領選は5月に予定されている。むしろロシアは、その公正な実施を米欧とともに保証し、正統性をそなえた政権を誕生させることに努めるべきだろう。

ウクライナ側の責任も重い。東西和解の課題に加え、700億ドル以上もの政府債務を抱え、経済は破綻(はたん)の瀬戸際にある。

国際通貨基金(IMF)などの支援は決まったが、公務員給与の引き下げなど痛みを伴う改革を断行できるか。さらなる混乱の火種は尽きない。

米国と欧州連合(EU)は、ロシアとウクライナを含む4者会談の開催を探っている。外交交渉に時間の余裕はない。

クリミアに続き、東部まで領土が侵される事態となれば、世界の安保秩序はいよいよ不安定化する。それは国内に深刻な分離独立問題を抱えてきたロシアにも不安を生むはずだ。

毎日新聞 2014年04月09日

ウクライナ混乱 ロシアは介入自制せよ

ウクライナで、ロシアによるクリミア半島の一方的な編入に続き、新たな混乱の種が浮上した。ロシア系住民が多い東部3州で親ロシア勢力が州政府庁舎などを占拠し、うち2州では独自の「共和国」創設が宣言された。2月の政変で権力を握った中央の親欧米派政権に揺さぶりをかけ、5月25日に予定される大統領選を阻止したい狙いが感じられる。

だがウクライナが正常化に踏み出すためには大統領選の実施が不可欠だ。そのためにも政権は、国際監視団と協力して混乱の拡大阻止に全力を挙げてほしい。

トゥルチノフ大統領代行ら現政権は、政変でヤヌコビッチ前大統領を解任した旧野党勢力が中核だ。政変には過激な反露ウクライナ民族主義勢力も加わった。このためロシアは「非合法な権力奪取」だとして政権の正統性を認めていない。だが大統領選を経て新政権が発足すれば、ロシアの立場は苦しくなる。

大統領選はポロシェンコ元外相、ティモシェンコ元首相ら親欧米派の候補が有力だ。このためロシアは、東部のロシア系住民の声を反映させる仕組みとして、ウクライナの国家体制を連邦制にして地方の発言権を強化するよう提起し、大統領選の前に憲法を改正して連邦制を導入すべきだと主張している。ウクライナの軍事的中立の確約も求めている。

ロシアの懸念は、親欧米派が政権を握ったウクライナが米主導の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟へと動くことだ。中立の約束と連邦制の導入は、それに歯止めをかける「保証」とも言える。

しかし、こうした国家の基本方針はあくまでウクライナの国民が決める問題だという大前提を忘れてはならない。ウクライナの国家主権を無視して、その命運を頭越しに決めようとするのは時代錯誤だ。

ロシアはウクライナ東部との国境地帯に軍を集結させ、混乱が拡大すれば介入も辞さない姿勢で圧力をかけている。これでは国際社会の懸念は高まるばかりだ。ロシアには迅速な軍撤収と介入自制を求めたい。

ウクライナの現政権や欧米など国際社会にも、東部のロシア系住民の不安に注意を払ってこなかった責任はある。同じ国民としてその声を国政に反映させる配慮が必要だ。

破綻寸前の財政再建や汚職撲滅などウクライナの課題は山積だ。過激な民族主義勢力の暴走を抑え込む必要もある。

だが、まずは国民の意思を反映した新政権作りから始めなければならない。かじ取りを誤って国が分裂するような事態になれば、欧州のみならず大きな紛争の火種を抱えることになりかねない。

読売新聞 2014年04月17日

ウクライナ緊迫 露は軍事的圧力を強めるな

ウクライナ情勢が極めて緊迫してきた。混乱の拡大を阻止できるかどうか、重大な局面だ。

ウクライナ暫定政府は親ロシア派武装勢力が地方政府や警察の庁舎などを次々と違法に占拠している東部に軍を投入し、武装勢力の強制排除に乗り出した。まず、ドネツク州の空港を奪還した。

暫定政府による軍の治安維持活動は初めてである。ロシアが南部クリミア半島を編入した際、暫定政府は軍の行動を自制したが、東部での混乱をもはや放置できないと判断したのだろう。

親露派は、東部各地で違法占拠を拡大し、「人民共和国」樹立を宣言するなど、暫定政府に反旗を翻している。

暫定政府が強制排除を国家分裂を防ぐための「反テロ作戦」と位置づけたのはやむを得まい。

米国政府も「暫定政府は法と秩序を守る責任がある」と表明した。東部が無政府状態になることを懸念したからだろう。

これに対し、プーチン露大統領はメルケル独首相との電話会談で「ウクライナは内戦の瀬戸際だ」と述べ、暫定政府を批判した。

だが、混乱を招いた最大の要因は、ロシア自身にある。クリミア編入と同様、親露派武装勢力による一連の行動にロシアが関与しているとみられるからだ。

親露派はロシア製の武器を携行し、組織立って行動している。米国政府は、ウクライナ国内でロシア情報機関要員が拘束されるなど、ロシア関与を裏付ける「証拠」も公表した。

ロシアが東部との国境沿いに、数万人規模の軍部隊を集結させている事実も確認された。

ロシア政府は、一貫して関与を否定しているが、それらの部隊を撤収し、軍事的緊張緩和に努力するのが先決と言える。

混乱を沈静化させるには、欧米など国際社会が経済制裁を始めとする非軍事的手段でロシアへの圧力を高めることが肝要だ。

暫定政府が戦闘ヘリコプターのエンジンなど武器関連製品の対ロシア輸出停止の方針を決めたのも、圧力の一環となる。

ラブロフ露外相は訪中し、15日に習近平国家主席らと協調関係を確認した。国際的孤立を回避し、米欧からの圧力に対抗する狙いがあるのだろう。

ジュネーブでは17日に米国、欧州連合(EU)、暫定政府にロシアを加えた4者会談が行われる予定だ。協議開始を事態打開の一歩としなければならない。

産経新聞 2014年04月17日

ウクライナ緊迫 露への圧力強化で結束を

ウクライナ暫定政権が、東部各地で州庁舎や警察署などを占拠している親ロシア武装勢力の強制排除に着手した。

武装勢力は拠点を増やし、混乱を拡大させている。秩序回復のため、やむを得ない軍事行動といえるだろう。

ロシアのプーチン政権は、空港奪還作戦で武装勢力側に死傷者が出たとし、「内戦の瀬戸際だ」と暫定政権を強く非難した。

ロシアは国境地帯に大規模な兵力を張り付けている。強制排除を口実とする軍事介入は、絶対にあってはならない。

米欧をはじめとする国際社会はロシアに対し、経済制裁の強化などで「力を背景とする現状の変更は許さない」という明確な意思を結束して伝えるべきだ。

米政府は、武装勢力の背後にロシアがいると度々批判してきた。パワー米国連大使は「このような組織的でプロフェッショナルな軍事行動ができるのはロシアだけだ」と指摘した。

17日には、スイス・ジュネーブで米露と欧州連合(EU)、暫定政権による外相級の4者協議が予定されている。「内戦の瀬戸際」を脱するためになすべきは、プーチン政権が東部の親ロシア住民への扇動をやめ、武装勢力を撤収させることだ。

ウクライナ南部のクリミア半島を「併合」以前の状態に戻すようロシアに要求することも忘れてはならない。クリミア併合は国際秩序への重大な挑戦だ。断じて容認できない。

米欧は渡航禁止や資産凍結の対象拡大に加え、エネルギー、鉱物資源、防衛、金融分野など、露経済の主要部門への制裁を具体的に示し、一層の圧力とすべきだ。

気がかりなのは、プーチン政権がエネルギー供給でロシアへの依存度が高い欧州を揺さぶっていることだ。

ウクライナ向けガスの供給停止の示唆は、その先にある欧州への牽制(けんせい)に他ならない。

そうした経済的報復も視野に入れ、覚悟をもって制裁強化に踏み切るべきときだ。経済制裁に効果をもたらすのは、国際社会の強固な結束である。

岸田文雄外相は今月末、訪露を予定している。米欧による制裁と協調し、日本の立場を明確にするためにも、この時期の訪露の中止も含めて検討すべきだろう。

読売新聞 2014年04月13日

G20共同声明 ウクライナ支援で協調したが

財政危機にひんしたウクライナの支援強化へ、ひとまず足並みをそろえたと言えよう。

だが、ウクライナ情勢は一段と緊迫化し、米欧とロシアの対立が解消する道筋は不透明である。ウクライナの混乱が世界経済に及ぼす悪影響を警戒しなければならない。

先進国と新興国が参加し、ワシントンで開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は共同声明を採択した。

ロシアによるウクライナ南部クリミア編入に反発する米欧は、制裁を強化した。その後、日米欧とロシアなどがそろって公式に国際会議に臨んだのは初めてだ。

G20に合わせた2国間会談で、追加制裁を警告したルー米財務長官に、シルアノフ露財務相が反論するなど緊張が続いている。

それでも共同声明は「ウクライナ経済や金融安定へのいかなるリスクにも留意する」と記した。

ロシアからの金融支援が凍結されたウクライナは巨額の政府債務を抱え、債務不履行(デフォルト)の瀬戸際にある。

財政破綻が現実になれば、世界の金融市場が動揺し、世界経済に打撃を与えかねない。G20は強い危機感を共有したのだろう。

国際通貨基金(IMF)と日米欧などが2年間で270億ドル(約2・7兆円)の支援を打ち出している。共同声明がIMFの対応を歓迎したのはもっともだ。早期の融資実現を目指す必要がある。

今回、ウクライナ支援で連携が成立した背景には、ロシアの苦境がうかがえる。保有するウクライナ向け債権が焦げ付くと、ロシアは巨額の損失を被るからだ。

ロシアの景気減速も続く中で、経済安定を優先し、米欧主導の支援策に協調せざるを得なかったようだ。ロシアは混乱を招いた責任を痛感すべきだろう。

一方、世界経済に関して、共同声明は、「今年の成長は強まる見通しだが、リスクや脆弱ぜいじゃく性がある」と言及した。

前回2月のG20は、「世界成長率を5年間で2%以上の底上げ」という数値目標で合意したが、課題はどう実現するかである。共同声明が9月までに成長戦略を点検する方針を示したのは妥当だ。

景気回復が続く米国経済と対照的に、欧州ではデフレ懸念が台頭し、中国経済も不安を抱える。

消費増税後の日本経済の先行きに不透明感がある。日本は新たな成長戦略に規制改革や法人税減税などを盛り込み、世界の成長に貢献することが求められよう。

産経新聞 2014年04月12日

ウクライナ東部 露の介入阻止する支援を 

ウクライナ東部のドネツクなどの都市で、親ロシア勢力が州施設を占拠して独立国家樹立を宣言し、ロシアに部隊の派遣を要請している。

国境のロシア側に3万5千~4万人規模の露兵力が張り付く中で、ウクライナ政府は籠城勢力の強制排除も辞さない構えをみせ、東部での緊張が高まっている。

親ロシア勢力は、ウクライナ南部クリミア半島をロシアが武力併合したのと同じ筋書きを描いているようだ。そのような動きは絶対に阻止しなければならない。

ロシアのプーチン政権の狙いはむしろ、5月25日のウクライナ大統領選を前に圧力をかけ、同国を欧米から引き離して中立化させ、連邦制導入によって東部を親露化することにあろう。そのため、工作員を東部に送り込んで混乱を作り出しているとみられている。

東部は、ロシア系住民が少数派であり、6割を占めているクリミアとはまるで違う。

国家の形態や外交・安全保障の方向を決めるのは、あくまでウクライナ国民である。ロシアの内政干渉は許されない。

問題は、現在の緊張状況から流血沙汰に発展したり、プーチン政権の思惑が外れたりした場合、ロシアが部分的にせよ軍事介入する可能性を否定できないことだ。

それを未然に阻むため、米欧は従来のプーチン大統領側近らの渡航禁止や資産凍結などに加え、本格的な金融、貿易制裁に入れる態勢を整え、プーチン政権に対する警告とすべきである。

劣らず重要なのがウクライナ支援だ。同国は巨額の債務を抱え財政破綻の淵(ふち)にある。ロシア産ガスの購入代金も滞納し、同国から供給を打ち切ると脅されている。

財政破綻回避のため、米欧や国際通貨基金(IMF)が金融支援に乗り出し、日本政府も1500億円の支援を表明している。

先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が緊急会合で、「金融支援が必要」と強調したのは当然だ。適切かつ具体的な方策を速やかに打ち出してほしい。

自由・公正な大統領選実施への支援も欠かせない。ロシアが容易に手出しできないように、ウクライナの脆弱(ぜいじゃく)な体制を一刻も早く安定させることが肝要だ。

国際社会は、クリミア併合の撤回へとロシアを追い込む努力も、忘れてもらっては困る。

読売新聞 2014年04月10日

ウクライナ混乱 これ以上許せない露の介入

ウクライナ国内へのロシアの力による介入を再び許してはなるまい。

ロシア系住民の多いウクライナ東部の3州で、親ロシア派のデモ隊が地方政府庁舎を占拠するなど、混乱が広がっている。

ドネツク、ハリコフ両州では、親露派が、法的根拠を欠いた「人民共和国」樹立を宣言した。ドネツクは、独立の是非を問う住民投票も行うという。

憲法に反する住民投票を経て、ロシアへ編入されたウクライナ南部のクリミア半島を想起させる動きだ。背後に、ロシアがいるのは間違いない。

ロシア軍は、ウクライナとの国境付近に数万人規模の部隊を展開している。特殊部隊や情報機関要員が越境し、親露派を扇動しているとの米政府の情報もある。

ロシア系住民の保護を口実として、軍事介入する態勢を整えようとしているのではないか。ロシア系といえども、ウクライナ国民である。そのような身勝手な理屈は認められない。

混乱が拡大すれば、デモ隊と治安当局との間で大規模な衝突が発生する恐れもある。ウクライナに圧力をかけ続けるロシアに自制という選択肢はないのだろうか。

ロシアは、ウクライナが憲法改正を行い、連邦制移行と軍事的中立を定めることを提案している。連邦制で中央政府から自立した東部を影響下に置き、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻むのが狙いだろう。

だが、憲法を決めるのは、ロシアでなく、その国の国民だ。

ウクライナでは来月に大統領選挙が行われ、現在の暫定政府に代わる本格政権が発足する。国際社会は選挙が公正に行われるよう協力する必要がある。

暫定政府は、それまでの間、反露傾向の強い過激な民族主義組織の武装解除などを通じて、ロシア系住民の不安解消に努め、混乱の沈静化を図らねばならない。

巨額の政府債務を抱え、財政状況も厳しさを増している。大胆な経済改革に取り組み、支援国の信頼を得ることも求められよう。

米国や欧州連合(EU)がロシアに対し、態度をこれまで以上に硬化させているのは、当然だ。

米国は、ロシアが態度を変えなければ、エネルギーや金融、鉱業などの重要分野で、追加制裁を行うと表明している。

米露EUとウクライナ暫定政府の4者は来週、外相会談を開く。交渉で緊張緩和への糸口を探ることを期待したい。

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