日豪の経済連携 TPPの打開に生かせ

朝日新聞 2014年04月08日

日豪EPA TPP交渉の突破口に

日本とオーストラリアの経済連携協定(EPA)交渉が、大筋でまとまった。第1次安倍政権が着手してから、7年での合意である。

焦点だった豪州産牛肉の輸入関税は、今の38・5%を20%前後に引き下げる。段階的に実施するなど、国内の畜産農家に配慮する。

豪州は牛肉をはじめ農業の生産・輸出大国であり、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の主要メンバーでもある。

そのTPP交渉では、牛肉を含む重要5項目を「聖域」とする日本に対し、米国が関税の撤廃を強く求め、手詰まり状態にある。

豪州と米国は、牛肉の対日輸出でライバル同士だ。日豪間の合意を受けて、米国からの輸出が不利になる事態は、米国も避けたいはずだ。TPPでの交渉態度にも影響を及ぼそう。

日本は、今回の合意を突破口に、米国との交渉を急いでほしい。高い水準の自由化を掲げるTPPでは日豪EPA交渉より厳しいやりとりが避けられないが、「関税を下げつつ、必要な対策をとる」というのが国際的な潮流でもある。

実際、91年に日本が牛肉輸入を自由化してからの推移を見ると、「関税の維持か、引き下げか」「国内農家の保護か、壊滅か」という単純な二者択一の図式ではないことがわかる。

日本の牛肉消費の4割を担う国産牛の生産は、米国産牛の牛海綿状脳症(BSE)発生などにも影響されず、安定している。国産牛の半分近くを占める黒毛和牛を中心に、輸入牛肉との差別化が進んでいる。

一方、肉用牛を飼う農家は自由化時の3割弱まで減り、一戸あたりの飼育頭数は3倍強に増えた。輸入牛肉への関税が自由化時の70%から38・5%へと下がる一方で、農家の大規模化は着実に進んだ。

手厚い補助金が奏功した面があるとはいえ、関税の引き下げと農家の生き残り・体質強化が両立しうる具体例と言えるのではないか。

日本からの和牛の輸出は、まだまだ少ないものの、増加傾向にある。

ただ、肉牛農家でも高齢化と後継ぎ不足は深刻で、生産量がじり貧になりかねないと心配する声が漏れる。

関税を引き下げて、消費者に多様な選択肢を用意する。補助金を有効に使いつつ国内農家を支え、輸出も行える産業に強化していく。

これが、経済連携交渉に臨む際の基本である。

毎日新聞 2014年04月08日

日豪の経済連携 TPPの打開に生かせ

日本とオーストラリアとの経済連携協定(EPA)が大筋合意した。最大の焦点だった豪州産牛肉の輸入関税引き下げで両国が折り合ったためだ。

牛肉は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉で、日本が関税の撤廃から守ろうとしている「聖域」の一つである。豪州はTPP交渉にも参加している。今回の成果を行き詰まっている交渉の打開につなげてほしい。

安倍晋三首相と豪州のアボット首相が東京都内で会談し、豪州産牛肉の輸入関税を現在の38.5%から段階的に20%前後に引き下げ、豪州側も日本車の輸入関税(5%)をゼロにすることで合意した。詳細な条件を詰めて今夏にも正式に調印する。

日本にとって豪州は中、米、韓国に次ぐ4番目の貿易相手国だ。垣根が低くなるメリットは大きい。日本からの最大の輸出品目である自動車に関して豪州は既に、韓国からの関税をゼロにすることを決めている。国内メーカーはこれで、対等な条件で競争できることになる。豪州は石炭や鉄鉱石、天然ガスなどの輸出国でもある。今後は一段と安定した資源の調達が期待できるだろう。

もっとも、日本にとっては農業大国との初めてのEPAである。農家の不安は根強い。政府は豪州に、国内牛肉と競合する冷蔵肉の関税を加工食品用の冷凍肉より高い水準に維持し、それでも輸入が急増した場合には輸入を制限できる「セーフガード」を認めるよう求めた。所得補償などの国内対策と併せて畜産農家への影響緩和に意を尽くし、自由化の成功例にしなければならない。

2007年に始まった日豪EPA交渉が急加速した背景には、日本のTPP交渉参加がある。そこでの日本の最大の難敵は米国だ。日米交渉では、牛肉を含む主要農産品5項目の関税撤廃を求められている。

日本の輸入牛肉は半分強が豪州産だが、牛海綿状脳症(BSE)に伴う禁輸措置を解除された米国産が、シェアを伸ばしつつある。豪州とすればTPP交渉が難航している間に、関税を引き下げられれば米国との競争で有利になる。そうした思惑が、大筋合意を急がせたようだ。

裏返せば今後は、日米交渉が遅れるほど米国の不利益が大きくなるともいえる。交渉では現在、牛肉・豚肉が特に大きな争点になっている。TPP交渉に参加している豪州と関税「引き下げ」で合意したことは、米国へのけん制になるはずだ。

日米交渉の行き詰まりがTPP交渉の最大のネックになっている。それを打開するため、今回の結果をしたたかに利用する交渉戦術を期待したい。

読売新聞 2014年04月08日

日豪EPA合意 TPP交渉も市場開放決断を

農業とエネルギー分野の大国である豪州との間で、高いレベルの貿易や投資の自由化を実現する意義は大きい。

安倍首相とアボット豪首相の首脳会談で、7年に及ぶ日豪経済連携協定(EPA)交渉がようやく大筋合意した。

日本が豪州産牛肉に課している輸入関税を現行38・5%から20%程度に引き下げる。豪州は日本車に対する関税5%を撤廃する。これが最大の柱である。

加工用に使う冷凍牛肉を18年かけて19%台に下げる一方、国産と競合しやすい冷蔵牛肉は15年で23%台にするという。

合意に至った背景には、日本の輸入牛肉のうち、約5割のシェアを持つ豪州産を約3割の米国産が追い上げている事情がある。

豪州は米国との競争を有利にしようと、関税撤廃は日本に求めず、長期間での引き下げも容認した。合意を優先したのだろう。

日本の消費者はより安価な豪州産牛肉を購入できるようになる。豪州は米国に次ぐ日本車の輸出先であり、車の関税撤廃は日本メーカーに追い風と言える。

焦点は、今回の合意が、難航している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉にどんな影響を与えるかである。強硬姿勢を続ける米国との交渉を加速し、膠着こうちゃく状態を打破するきっかけにすべきだ。

今月下旬のオバマ大統領来日に向けて、日米協議が再開した。甘利TPP相とフロマン米通商代表が9日から東京で協議する。

自民党がコメ、牛肉・豚肉など重要5項目を関税撤廃の例外扱いとするよう求めている問題では、米国は撤廃を主張して強硬だ。

TPPは自由貿易推進でアジアの成長に弾みを付ける狙いがある。日本は日豪合意に安堵あんどせず、一層の市場開放へ、米国と現実的な妥協点を探らねばならない。

日豪両首脳は、防衛装備品の共同開発について交渉を開始することで合意した。まずは、船舶の流体力学分野に関して共同研究を進めることになった。

ともに米国を同盟国とする両国が安全保障分野で協力を深めることは、アジア太平洋地域全体の安定にも寄与すると評価できる。

新しい「防衛装備移転3原則」を踏まえ、防衛技術の向上や開発費の抑制にもつなげたい。

安倍首相は今回、国家安全保障会議(日本版NSC)の特別会合にアボット首相を招いた。首脳同士の信頼関係を醸成することは、日豪や日米豪の安保協力をより強固なものにするだろう。

産経新聞 2014年04月08日

日豪EPA合意 TPP前進につなげたい

安倍晋三首相はオーストラリアのアボット首相との会談で、経済連携協定(EPA)に大筋合意した。安倍首相は共同記者発表で「貿易、投資を促進する極めて重要な枠組みだ」と強調した。

日本にとり豪州は経済のみならず外交・安全保障上も重要な国だ。合意を踏まえ、日豪関係の一層の緊密化を期待したい。

豪州は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉にも参加する。米国と同じ牛肉輸出国の豪州が関税分野で歩調を合わせたのをテコに、日米対立で膠着(こうちゃく)状態のTPP交渉も前進させてほしい。

焦点だった豪州産牛肉に対する関税率は、冷凍牛肉について、協定発効後18年目に19・5%とするなど、現在の38・5%から大幅に引き下げられることになった。

牛肉は、TPP交渉で日本が関税維持を目指す重要5分野のひとつだ。しかし、米国は重要5分野で関税ゼロを求める姿勢を崩そうとせず、それが交渉全体を停滞させる原因となっている。

そんな中で日本が、米国より先に豪州との関税引き下げで折り合いをつけた戦略は理解できる。高いレベルでの自由化を目指すTPP交渉で、例外ばかりを求めるのは難しく、日本も一定の譲歩は避けられないからだ。強硬一辺倒の米国の軟化を促すには、やむを得ない政治判断でもあった。

もちろん、日本の畜産農家が受ける打撃への配慮は必要だ。経営基盤強化につながる官民を挙げた対策が求められることは当然であり、国産牛肉の品質に対する消費者の信頼をさらに高める取り組みを急いでもらいたい。

牛肉関税引き下げに伴い豪州の自動車関税は撤廃される。自動車は日本から豪州への輸出の半分を占める。韓国製自動車の対豪輸出では関税撤廃が決まっており、韓国と同じ競争条件にする日豪EPAは欠かせなかった。自動車業界はこれを追い風にしてほしい。

首脳会談では、防衛装備品の共同開発など安保分野の協力強化で一致し、アボット首相は国家安全保障会議(NSC)特別会合にも出席した。アジアで台頭する中国を牽制(けんせい)するには、同じ米同盟国の豪州との連携が欠かせない。

中国抜きの経済的な枠組みをつくるTPPの隠された狙いもそこにある。安倍首相が「歴史的意義がある」とした日豪EPA合意はその流れをさらに強めよう。

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