渡辺氏の8億円 開き直りは許されない

毎日新聞 2014年04月08日

渡辺代表辞任 不信に沈んだ個人商店

改革の旗手を自任したはずのかつての姿は見るかげもない。化粧品会社会長からの8億円借入金問題をめぐり、みんなの党の渡辺喜美代表が辞任を表明した。

クリーンな党を売り物にみんなの党を旗揚げした渡辺氏だけに、政治とカネの問題で政治不信を広げた罪は大きく、引責辞任は当然だ。しかし、説明が不十分なまま問題の幕引きは許されない。政策の再点検も含め、同党は新代表の下で「渡辺党」から脱却すべきだ。

渡辺氏は記者会見で「多くのみなさんに迷惑をかけたのは事実だ」とやつれた表情で辞任を表明した。だが、借入金の発覚以来、開き直ったような一連の対応はワンマン運営でまるで「裸の王様」状態だった感覚の狂いを物語っていた。

「ディーエイチシー(DHC)」の吉田嘉明会長によると、渡辺氏は吉田氏から2010年の参院選前に3億円、12年の衆院選前に5億円を借りていた。渡辺氏は7日の辞任会見で残額全額を同日、吉田氏に返済したと説明、法的には問題がないとの認識を改めて示した。

だが、辞任に追い込まれたという現実が、渡辺氏の説明が世間の常識とかけ離れていることを何よりも物語っている。これまで8億円の使い道は党への貸し付けと「酉(とり)の市の熊手」以外、具体的でなかった。今度は党首としての情報収集などを挙げ「ポケットマネー」などと説明したがあまりに不透明だ。

かつて渡辺氏は「たった一人の反乱」とやゆされながら自民党を離党し、みんなの党結成に動いた。一時は国会議員30人を超す勢力に育ったのは「脱官僚支配」「しがらみのない改革」との主張が一定の共感を集めたためだろう。

それが猪瀬直樹前東京都知事の5000万円受領事件で政治とカネへ不信が強まる中、公にならない巨額の融資が発覚し、貸主の吉田氏は選挙資金目当てだと明言した。渡辺氏の個人商店と言われた党内からも代表辞任論が噴出した。もはや党首として改革を語る資格を失っていた。

渡辺氏の代表辞任がみんなの党に与える衝撃は計り知れず、解体の危機にすら直面している。だが、渡辺氏頼みでは展望は開けない。新代表の下で借入金問題を解明することで「脱渡辺」の証しを立てるべきだ。

構造改革が旗印のはずだった同党だが最近は渡辺氏が主導し特定秘密保護法や集団的自衛権行使問題など自民党への急接近が目立ち、与党との対立軸もぼやけていた。いわゆる第三極勢自体の存在意義が問われている。そんな自覚と危機感が無いようでは、政治不信を増幅する不毛な漂流が続くばかりだ。

読売新聞 2014年04月08日

渡辺代表辞任 8億円の使い道がまだ不明だ

みんなの党の渡辺代表が、8億円の借入金問題の責任を取って辞任を表明した。

だが、疑惑は払拭されていない。これで幕を引くことは、許されまい。

渡辺氏は記者会見で、「一連の報道で心配、迷惑をかけた。責任はすべて私にある」と語った。

党内外からの辞任圧力や批判に抗しきれなかったということだろう。「体調不良」などを理由に、説明責任を果たさず、党の混乱を自ら招いた以上、代表辞任は当然の判断である。

渡辺氏は、未返済分の約5億5000万円を化粧品製造販売会社の会長に返したと強調したが、それで済む問題ではない。

肝心なのは、資金提供を受けた趣旨と、その使途の解明だ。

会社会長は、参院選と衆院選の直前に「選挙資金として貸した」と証言した。渡辺氏から衆院選直前にメールが届き、選挙情勢に絡めて融資を依頼されたとも明らかにしている。

ところが、渡辺氏の選挙運動費用と政治資金の収支報告書に8億円の記載はなかった。会長の説明通りだとすれば、公職選挙法などに違反する可能性がある。

これに対し、渡辺氏は辞任会見でも「個人の借り入れだ」「法的な問題はない」と主張した。「ポケットマネーを使って政治活動をしている場合、その収支については、(報告すべき)収支報告書の制度がない」とも説明した。

そう言うのなら、その使い道をきちんと示すべきだ。「政策策定や情報収集、いろいろな所に出かけるための費用」とするだけでは具体性に欠ける。

言い分が大きく変化したのも、不可解である。これまで、借入金は使い切ったとしていたが、約5億円は「妻の口座に保管していた」と説明を変えた。使途を説明できないための言い逃れと見られても仕方ないのではないか。

会長が証拠として挙げたメールについて、渡辺氏が「記録が残っていないので確認ができない」と釈明したのも納得できない。

政治とカネの問題について透明性を高めることが、国民の政治への信頼につながる。その努力を渡辺氏は怠っている。

みんなの党は、渡辺氏から銀行通帳の提供を受けて、法律上の問題がないかどうか調べている。党としても十分説明責任を果たさなければならない。

渡辺氏の「個人商店」と揶揄やゆされてきたみんなの党は、存亡の危機に直面している。

産経新聞 2014年04月08日

渡辺代表辞任 疑惑への説明責任は残る

8億円の借り入れ問題が発覚したみんなの党の渡辺喜美代表が、辞任を表明した。巨額の資金の使途を十分説明できず、「酉の市で大きな熊手を買った」と国民を愚弄する発言がさらに反発を招いていた。

政治的、道義的責任の重さに加え、公職選挙法や政治資金規正法に抵触する可能性も指摘されていた。辞任は当然であり、もっと早く進退を決すべきだった。

渡辺氏は辞任会見で「法的に問題はない」と強調し、「同志につらい思いをさせるのは本意ではない」と辞任理由を述べた。借入金は全額返済したというが、これで巨額の資金疑惑に説明がついたとは到底、言い難い。

「一兵卒」として出直す前に、説明責任を果たす必要がある。

3月下旬に借入金問題が表面化すると、渡辺氏は個人的な借り入れで、選挙資金ではないと強調していた。ところが、資金を出した化粧品販売会社の会長側から、選挙資金だったとの認識が繰り返し示されたことなどから、つじつまが合わなくなり、3月末からは党の会合も欠席する状態だった。

結局、渡辺氏も個人として政党運営資金を賄おうとしたことを認めざるを得なかった。党への貸し付けや自らの借り入れの状況を、政治資金収支報告書などに正確に記録しておくべきだったのに怠ったわけで、不正な資金の流れを疑われても仕方あるまい。

渡辺氏は自民党を離党し、小人数から新党を立ち上げた。「しがらみのない政治」で政策課題を優先させる政治理念を掲げ、いったんは日本維新の会とともに第三極としての存在を確立した。

渡辺氏はかねて、政治資金の移動は銀行口座間に限り、使途も詳細に公開することを主張してきた。だが、実際の行動はそれとあまりにもかけ離れていた。有権者への重大な背信であることを認識し、自ら衆院政治倫理審査会で弁明を行うべきだ。

渡辺氏は安倍晋三首相と個人的に親しく、最近では集団的自衛権の行使容認に向けて連携を強めようとしていた。

野党の立場でも建設的提言を行う姿勢は評価できたが、借入金問題で党のイメージ低下は避けられまい。新執行部は渡辺氏にさらなる説明を促し「政治とカネ」の問題に率先して取り組み、出直しの第一歩にしてもらいたい。

毎日新聞 2014年04月03日

渡辺氏の8億円 開き直りは許されない

まるで裸の王様である。みんなの党の渡辺喜美代表が化粧品会社会長から8億円を借り入れていた問題をめぐり、与野党から批判や説明を求める声が広がっている。

巨額のカネの流れを十分説明しない段階で「一点の曇りもない」と言い切り、責任論を否定する渡辺氏の姿勢は到底、理解できない。納得がいく説明ができないようでは、政治家としてのけじめが問われる。

「理不尽なスケープゴート祭りは必ず、潮目が変わる」「騒動の本質は江田憲司氏の結いの党が仕掛けた権力抗争」。この問題があたかも謀略まがいの政争によるものだとして渡辺氏が公表したコメントからは、開き直りすら感じられる。

「ディーエイチシー(DHC)」の吉田嘉明会長が借入金を公表して以来、波紋は広がるばかりだ。吉田氏によると、同氏は渡辺氏からの申し出で、2010年の参院選前に3億円、12年の衆院選前に5億円を渡辺氏の個人口座に振り込んだ。

これまでの渡辺氏の説明はつまるところ8億円は「純粋に個人として借りた」との主張に尽きている。だが、吉田氏は先の衆院選前、渡辺氏が選挙情勢を説明しつつ融資を依頼したメールを公表、選挙資金目当ての借金だったと断言している。

渡辺氏が言う「党首が個人の活動に使った」とは何を指すのか。党への貸し付け以外、「酉(とり)の市の熊手」くらいしか具体的に言及しないようではとても疑念はぬぐえまい。

渡辺氏は「(吉田氏へのメールが)本物であったとしても法律違反は生じない」とも主張する。党首の活動に絡み、8億円ものカネが公にされず動いていたこと自体が不信を招いているのだ。公職選挙法や政治資金規正法違反にあたらないと言い張るのなら、なおのこと借入金の性格や使い道の詳細な説明が必要だ。

党の体質もますます問われる。江口克彦最高顧問が代表辞任を要求したのが目立つくらいで、渡辺氏の責任を問う声はそれほど広がっていないようだ。まともな党運営ができるとも思えない状況で「だんまり」を決め込むようでは、渡辺氏の「私党」状態を認めるようなものだ。

昨年の臨時国会で渡辺氏は特定秘密保護法をめぐり安倍晋三首相との会食の席で修正案を持ちだし合意に走るなど党の亀裂を広げ、分裂に発展した。トップダウンというより、ワンマン運営で周囲が見えなくなっているのではないか。

既成勢力と一線を引き、しがらみのない改革を実現するのが党の原点だったはずだ。これでは政治全体の信用に関わる。党として責任ある対応はもちろん、与野党も国会での実態解明に動くべきだ。

読売新聞 2014年04月05日

渡辺氏の8億円 「策略」とは論点のすり替えだ

公党の党首としての自覚を欠いているのではないか。8億円の借入金問題で責任逃れのような態度を続ける、みんなの党の渡辺代表のことだ。

化粧品製造販売会社の会長から参院選直前に3億円、衆院選の直前に5億円を借り、使途に疑惑が持たれていながら、「体調不良」を理由に国会にも姿を見せず、説明を拒んでいる。

渡辺氏が党に提出した文書で「問題の本質は権力闘争だ」と指摘し、離党した江田憲司・結いの党代表による「策略」だと主張していることも理解しがたい。

問題を歪曲わいきょくし、論点をすり替えようとする姿勢は見苦しい。

渡辺氏は、3月27日の記者会見で、借入金は選挙資金や政治資金に使わず、会議費や旅費などに充てたと弁明した。「とりの市で大きい熊手を買った」とも語った。

その後、文書で「個人の政治活動、議員活動に使った」と微妙に説明を変えたのはなぜなのか。

会社会長は、衆院選直前に渡辺氏から、選挙情勢の説明に続けて融資を求めるメールが届いた、と証言している。この点も渡辺氏は十分語っていない。

選挙に使ったのなら、公職選挙法に触れる。そのため、言い逃れを重ねているように見える。

みんなの党の江口克彦最高顧問や数人の若手議員が代表辞任を求めているのもうなずける。このままでは、来春の統一地方選を戦えないという危機感もあろう。

浅尾幹事長ら党執行部は借入金の使途について党内で調査するとしている。だが、身内による調査で、説得力のある結果が出るかどうかは疑問だ。

年間20億円余の政党交付金を受け取る公党の党首である。渡辺氏は自ら進んで衆院政治倫理審査会で弁明してはどうか。

こうした構図は、猪瀬直樹・前東京都知事の公選法違反事件と極めて似ている。猪瀬氏は、都知事選の前に「徳洲会」側から5000万円を受け取ったことに関し、「選挙資金でなく、個人的な借り入れだ」と主張していた。

ところが、東京地検の取り調べに前言を翻し、「選挙資金の側面もあった」と認めた。虚偽の説明を繰り返して、都民や都議会を欺き続けた猪瀬氏の罪は、50万円の罰金だけで済まされるのか。

略式起訴のため、法廷で公判が開かれず、事件の経緯や背景が判明しなかったのも残念だ。

政治とカネの問題で透明性をいかに高めるか。政党や政治家が真剣に取り組むべき課題である。

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