NHK経営委 監督責任を果たせ

朝日新聞 2014年04月04日

NHK経営委 監督責任を果たせ

「たった1人の行為がNHKに対する信頼のすべてを崩壊させることもある」「自らの行為の影響や責任の重さは昨日までとは全く違う」

NHKの入局式で籾井勝人会長はそう語り、新人の職員らに自覚を求めた。

1月の就任以来、まさにその自覚を問われてきたのは会長自身である。その言葉は職員や視聴者にどう響いただろう。

2014年度NHK予算案が3月末に国会で承認された。

会長が視聴者への説明責任を果たしたかどうかは、国会承認が一つの目安になる。会長を任命した経営委員会はそんな見解を示してきた。

だが、国会での会長の言動は信頼を取り戻したとは、到底言えないものだった。

「政府が右ということを左というわけにはいかない」「(特定秘密保護法は)通っちゃったんで言ってもしょうがない」

就任会見での政府に寄り添うような発言については国会で、「会見の場で個人的な見解を言ってしまった」と陳謝した。だが、それ以外は「放送法に基づいてやっていく」とメモを棒読みするような答弁を繰り返すばかり。真摯(しんし)な反省は伝わってこなかった。

議員は再三、理事全員に書かせた日付なしの辞表を返すよう促した。強権的な経営手法と財界も疑問視する問題だ。だが会長は「人事権の乱用はしない」と言い張り、拒んだ。

辞表を出させるというのは、それ自体が人を萎縮させる行為である。それをとがめられても改めないトップのもとで、伸び伸びした番組づくりができるのか、健全なジャーナリズム精神は守られるのか。そう心配するのは当然だ。

広く集める受信料でまかなうNHK予算は、与野党の理解を得て承認されるのが原則だ。しかし今回は野党6党が反対し、8年ぶりに全会一致が崩れた。

付帯決議には「役員の言動に厳しい批判が寄せられていることから、信頼の回復に努めること」という注文までついた。異常な形での予算承認だ。

経営委はこれまで会長に2回注意し、さらに「2度も注意せざるを得なかったのは遺憾」との文書を発表した。それらを会長が真剣に受けとめているかどうか、心もとない。

会長の罷免(ひめん)権を持つ監督機関である経営委は、辞表を返還させ、厳しく向き合うべきだ。自らの任命責任を問われることを恐れ、会長を律する手を緩めるようであれば、責務を果たしているとはいえない。

毎日新聞 2014年04月05日

NHK 政治と距離保つ改革を

NHKの2014年度予算案が国会で承認された。籾井(もみい)勝人会長、経営委員の長谷川三千子氏、百田尚樹氏の問題発言や偏った行動に批判が集中し、野党のうち民主など6党が反対した。NHK予算案は公共放送の性格から全会一致で承認してきたが、8年ぶりに慣例が破られた。

承認にあたっては付帯決議が採択され、信頼の回復に努めることや、自律性、不偏不党性を確保して国民の意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすることが求められた。

籾井会長は連日、国会に呼ばれ、姿勢をただされた。そのたびに「放送法を順守する」と答え、放送法の条文を棒読みした。批判を浴びた就任会見での発言は「個人的な考え」として取り消した。

言葉通り、表現の自由や政治的公平をうたい、健全な民主主義の発達に資することを求めた放送法の精神を実現し、信頼を取り戻すことが急務だ。籾井会長の責任は重い。

一方、籾井会長は就任会見で「ボルトとナットを締め直す」と述べた通り、組織を引き締め始めている。就任直後に10人の理事全員に日付を空欄にした辞表を提出させていたのはその一例だ。理事たちの生殺与奪の権を握り、いうことをきかせようとしたのだと思われても仕方ない。多様な声に耳を傾けるべき公共放送の理念に反するやり方だ。

NHKと政権の距離が議論されるたびに、現行制度が問題になる。経営委員を国会の同意を得て首相が任命すること、その経営委員会が会長を選ぶこと、予算に国会の承認が必要なこと。この3点がいつも問題になる。

今国会に提出された民主党などの放送法改正案では、総務省にNHK経営委員の候補を選ぶ第三者委員会を設置することが盛り込まれている。経営委員を選ぶ過程が透明になるという意味では、検討に値する考えだ。第三者委員会のメンバーをどう選ぶかが問題だが、推薦や公募などの方法もありえるだろう。

現行法を前提とするなら、会長の選び方を変える考え方もある。「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表の醍醐聡・東大名誉教授は、NHKと関係が深い文化団体やメディア団体、メディア関連学会、日本弁護士連合会などが会長の候補を推薦することを提案する。同じ経営委員が選ぶにしても、現在の方法では委員や政権幹部と個人的なつながりのある経済人などが選ばれがちだという認識からだ。

大切なのはNHKの現場が会長や経営委員たちの「個人的な考え」にとらわれず、自由に勇気をもって取材や放送を貫くことだ。

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