中国の習近平国家主席が、日中で見解の異なる歴史問題を巡り、自らの一方的主張を客観的事実であるかのように第三国で訴えた。看過できない行為である。
習氏はドイツでの講演で、旧日本軍による1937年の南京事件について、「30万人以上が虐殺された」と述べた。中国政府の主張する数字だけを示して、中国の「被害者」としての立場を国際社会に強調したものだ。
日本政府は、南京事件で非戦闘員の殺害などがあったことを認めている。だが、犠牲者数の確定は難しいとしている。
習氏の発言は、こうした日本の立場を無視しており、日本のイメージダウンを狙ったプロパガンダと言われても仕方あるまい。
菅官房長官が「(南京事件の)犠牲者数などで意見が分かれている中、中国の指導者が第三国で、あのような発言をしたことは極めて非生産的だ」と批判したのは、当然である。
日本では、中国政府の言う「30万人以上」は、当時の南京の人口動態などから、実際の犠牲者数とはかけ離れているのではないかとの見方が支配的だ。
日中両政府の合意で発足した日中歴史共同研究委員会が2010年に発表した報告書でも、日本側は「20万人を上限として、4万人、2万人などの様々な推計がなされている」と指摘している。
南京事件当時、避難民を保護したとして、習氏から称賛されたドイツ人ジョン・ラーベ氏も、ヒトラーへの上申書に、犠牲者は「5万~6万人」と記している。
習氏は「日本軍国主義による侵略戦争で中国人3500万人以上が死傷した」とも述べたが、明確な拠り所は示されていない。
習氏の強硬姿勢は、反日的言動を繰り返し、対日関係を悪化させた、かつての江沢民国家主席を上回るものと言えよう。
今回、ドイツ政府は、習氏のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑への訪問を断ったと伝えられている。日中間の対立に巻き込まれることを警戒したのだろう。
歴史認識に関する誤った情報が国際社会に流布するのは阻止せねばならない。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は最近、安倍首相が南京事件は起きなかったと主張しているとの社説を掲載した。
こうした誤解を広めないためにも、日本政府は、歴史認識問題への真摯な姿勢をアピールするとともに、中国の反日宣伝に毅然と反論し続けることが肝要だ。
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