朝日新聞 2014年04月03日
武器輸出緩和 平和主義が崩れていく
歴代内閣が、曲がりなりにも50年近く掲げてきた武器輸出三原則。これに代わる新たな原則を安倍内閣が決定した。
「死の商人」との連想を避けるためだろうか。新原則は「防衛装備移転三原則」という。だがその実体は、武器輸出の原則禁止から、条件を満たせば認める百八十度の方針転換だ。
これで日本は、国際的な武器ビジネスの戦列に加わることができるようになる。
旧原則は、憲法の理念に基づく日本の平和主義の柱のひとつだった。極めて拙速な決定と言わざるをえない。
新しい原則は次の三つだ。
①条約や国連安保理決議に違反する国には輸出しない。
②輸出は、平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する。
③原則として、日本の同意なしの目的外使用や第三国移転がないよう管理する。
新原則は前文で、「我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会も我が国が積極的な役割を果たすことを期待している」とうたう。
安倍首相が唱える「積極的平和主義」の具体化であり、首相がめざす集団的自衛権の行使容認と同じ文脈にある。
政府が新原則で主に想定しているのは、ハイテク化と高額化が進む最新鋭兵器の国際的な共同開発への参加だ。
安倍内閣はすでに旧原則の例外として、米英など9カ国が共同開発したF35戦闘機の部品輸出を認めているが、今後はこうしたケースに開発段階から加わりたい考えだ。
背景には、コスト削減と防衛産業の育成がある。国内の企業には、旧原則が足かせとなって最先端の技術開発から取り残され、ビジネスチャンスを失っているという不満がある。
しかし、国民の多くの支持のもと、日本が選んできた道である。産業界の論理で割り切っていいはずがない。
新原則では、国連安保理が紛争当事国と認めない限り、禁輸の対象にはならない。歯止めとしては極めて緩く、限定的だ。輸出内容の情報公開の指針も、抽象的すぎる。
これでは国民が知らぬ間に、国際紛争を助長するような事態がおきかねない。
安倍政権は、民生分野に限っていた途上国援助(ODA)の軍事利用の検討も始めた。これもまた、平和主義の大転換である。その先に控えるのが集団的自衛権の容認だ。
こんな「なし崩し」を、認めるわけにはいかない。
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毎日新聞 2014年04月03日
武器三原則転換 紛争の助長を憂慮する
日本が輸出した武器が国際紛争に使われ、紛争を助長しかねない。
安倍政権が武器輸出三原則を全面的に見直して閣議決定した新たな「防衛装備移転三原則」は、そんな懸念を抱かせる内容だ。
新三原則の名称は、ソフトイメージを重視して「武器」から「防衛装備」に変わった。だが内容は、これまでの原則禁輸を撤廃し、一定の要件を満たせば審査を経て輸出を認める方式への転換だ。輸出対象となり得る国も武器の種類も拡大する。基本理念は「国際紛争の助長回避」から「国連憲章の順守」に変わった。
具体的には、原則1で、武器輸出を禁止する場合を「国連安保理決議や国際条約に違反する場合や、紛争当事国へは輸出しない」と定める。
その上で原則2で、輸出を認め得る場合として「平和貢献や日本の安全保障に資する場合に限定し、透明性を確保し厳格審査する」とする。
原則3では、輸出の際に「原則として目的外使用と第三国移転について日本の事前同意を相手国政府に義務付ける」というものだ。
原則1の禁輸対象の国連決議違反に該当するのは、現在は北朝鮮、イランなど12カ国に過ぎない。紛争当事国は「武力攻撃が発生し、国連安保理がとっている措置の対象国」と狭く定義され、現在該当国はない。
つまり、ほとんどは原則2のもとで国家安全保障会議(NSC)などが「厳格審査」して輸出の可否を判断する仕組みだ。
旧三原則が国際紛争当事国に加えて紛争の「おそれのある国」への武器輸出も禁止していたのに比べると、武器輸出が歯止めなく拡大し、日本の武器が結果的に紛争に使われ、平和国家としての歩みを変えてしまう可能性をはらんでいる。
新三原則の狙いは、戦闘機など最新鋭兵器の国際共同開発・生産に参画しやすくし、国内防衛産業の技術や生産基盤を強化することだ。
シーレーン(海上交通路)沿岸国などを念頭に他国へ武器輸出もできるようになり、国際的影響力や中国への抑止力につなげる思惑もある。
また新三原則は、NSCの閣僚会議で審議された重要案件は「情報公開を図る」と定め、その他は年次報告書を公表するというが、どこまで透明性が確保できるか保証はない。
安倍政権は積極的平和主義のもと、特定秘密保護法を制定し、武器輸出三原則を転換し、集団的自衛権の行使容認に踏み切ろうとしている。政府開発援助(ODA)を軍事面でも使えるよう見直すことも検討しているようだ。戦後日本の平和主義を支えてきた基本政策が、議論が尽くされないまま次々と塗り替えられようとしていることを懸念する。
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読売新聞 2014年04月02日
防衛装備3原則 移転の透明性確保が重要だ
新しい原則に基づき、武器や関連技術といった防衛装備品の共同開発・生産などの国際協力を積極的に推進すべきだ。
政府が、武器輸出3原則に代わる「防衛装備移転3原則」を閣議決定した。
国連決議による禁輸対象国や紛争当事国への禁輸は継続する一方で、平和貢献や日本の安全保障に資する場合は厳格な審査を条件に輸出や移転を認める。武器輸出を事実上、全面的に禁じた1976年の原則の抜本見直しとなる。
武器の輸出や関連技術の提供がすべて悪いかのような発想を改めて、安全保障の観点を重視し、装備面の協力を進める新方針を打ち出した意義は大きい。
武器の全面禁輸という長年にわたる日本独自の過剰な規制は、国内産の武器の納入先を自衛隊にほぼ限定し、少量生産による高価格化という弊害を招いた。日本の安全保障を支える防衛生産・技術基盤を揺るがす要因でもあった。
今回、救難・輸送・警戒などの安保協力として、装備の完成品や部品の輸出も可能になった。量産効果による国内製品の低価格化や日本企業の競争力の強化につながることが期待されよう。
新原則は、輸出製品の目的外使用や第三国移転に関する日本政府の事前同意を義務づけた。ただ、対象がごく一部の部品にすぎない場合などは、相手国の管理体制の確認といった簡便な措置で代替する。現実的で妥当な内容だ。
移転の可否は通常、経済産業省が判断するが、重要案件は国家安全保障会議(日本版NSC)が審査する。NSCが移転を認めた場合、その内容を公表するほか、経産省は年次報告書も作成する。
新たな移転を可能にする以上、透明性の確保が欠かせない。
今後、重要なのは、国際協力を着実に拡大することだ。
2011年12月に国際共同開発・生産が原則解禁されたが、具体的な成果は、英国との化学防護服の共同開発などに限られる。
近年、戦闘機などの最新鋭装備は共同開発が主流だ。防衛技術の向上や開発費の抑制のため、日本は米国や欧州との共同事業に前向きに取り組む必要がある。
関係国からの情報収集や装備協力の体制を拡充し、専門的人材を育成することが大切だ。
東南アジアや中東への巡視船や救難機の輸出も促進したい。相手国の海上保安能力を高めることは日本の海上交通路の安全に直結する。日本と相手国の双方にプラスとなる協力を追求すべきだ。
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産経新聞 2014年04月03日
武器輸出新原則 積極平和に資する活用を
武器や関連技術の輸出などをめぐる新ルール、防衛装備移転三原則が閣議決定された。
新原則は、平和貢献・国際協力や日本の安全保障に資するなど、一定の条件を満たせば輸出、海外移転を認める大きな方針転換である。
昭和42年に制定された武器輸出三原則(旧原則)はその後運用が拡大され、事実上の「禁輸政策」となっていた。国際的な武器共同開発から取り残され、武器購入価格が増大するなどの弊害が生じてきた。
安保環境も激変するなかで抜本的見直しは急務だった。新原則の意義は大きく、積極的平和主義に資するよう活用すべきだ。
新原則の最大のポイントは、同盟国である米国や友好国との間で防衛装備の国際共同開発、生産を進めやすくした点にある。
旧原則の下でも、米国とのミサイル防衛(MD)開発や第5世代戦闘機であるF35の共同生産参加を決めている。だが、これらは例外措置と位置付けられ、常に政治問題化したり、迅速な決定が妨げられたりする懸念があった。
軍事技術の高度化や開発費の高騰に対応し、国際共同開発は世界の潮流だ。自主開発能力の維持は重要だが、それだけでは済まない時代になっている。
すでに日本の主権を脅かしている中国は、最新鋭の武器の開発を進めている。日本が国際共同開発に乗り遅れて自衛隊の主要装備が時代遅れとなれば、抑止力が損なわれる事態を招きかねない。
新原則は、米国などとの安全保障協力の強化にもつながる。海上自衛隊が装備する救難飛行艇US2のインドへの輸出も注目されている。日印両国には中国の軍事的台頭を懸念する共通点があり、インドは日本のシーレーンの沿岸国でもある。関係強化は国益にも合致するだろう。
国連平和維持活動(PKO)などを念頭に、国連などの国際機関も輸出や移転の対象に加えた。平和構築への日本の積極的関与に必要なものだ。重要案件は国家安全保障会議(NSC)が審議して年次報告書で情報を公開する。透明性の維持は重要だ。
一方で直接戦闘に使う戦車、戦闘機など完成品の輸出は想定外とされた。戦闘機の部品は良くて完成品を排除するのは整合性に欠けないか。将来に向けての大きな検討課題となるだろう。
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