調査捕鯨で敗訴 南極海から撤退決断を

朝日新聞 2014年04月02日

調査捕鯨中止 政策を転換する時だ

南極海での日本の調査捕鯨について、厳しい決定が出た。国際司法裁判所(ICJ)が中止を命じた判決である。

捕獲数が多く、肉を販売しており、実質的に商業捕鯨にあたる――。反捕鯨国オーストラリアの訴えに、日本は国際条約に沿った科学的研究だと反論したが、ICJは「現状は科学目的とはいえない」と断じた。

ICJの判決には拘束力があり、控訴できない。日本は世界に「法の支配」の大切さを訴えてもいる。政府が南極海での現行の調査捕鯨を中止すると決めたのは当然だろう。

今後は頭数などを見直して再開を目指すか、完全に中止するか、検討するという。北西太平洋での調査捕鯨は裁判の対象ではなく、継続する構えだ。

ただ、今回の判決は世界でただ一国、調査捕鯨を続ける日本に対し、国際社会の視線が極めて厳しいことを改めて突きつけた。北西太平洋での捕鯨も、ICJへの提訴が予想される。

ここは、政策を転換すべきではないか。

調査捕鯨は、事業としても行き詰まっている。

捕獲事業を担うのは、一般財団法人「日本鯨類研究所」で、調査捕鯨で捕った鯨の肉の売り上げを活動資金に充ててきた。しかし、鯨肉の消費が低迷しているうえ、近年は反捕鯨団体シー・シェパードの妨害行為の影響もあって、運営が一気に悪化した。

東日本大震災の被災地支援を名目に、復興予算約22億円が財団などに拠出され、厳しい批判を浴びたことは記憶に新しい。現在は、漁業への補助金を特例的に出してしのいでいるが、毎年数十億円の予算を使い続けるのは妥当だろうか。

ICJは調査捕鯨自体は認めており、鯨が増えすぎると生態系を崩す恐れもある。国際的な共同事業として調査捕鯨に取り組むよう、政府は粘り強く呼びかけていくべきだ。

一方、和歌山県太地町など全国数カ所で行われている「沿岸小型捕鯨」は、国際捕鯨委員会(IWC)が規制していない鯨種を捕っている。地域の文化や経済と深く結びついており、今回の判決と混同されないよう、国際社会に説明していく必要がある。

IWCは米国やロシアなどの先住民を対象に「先住民生存捕鯨」の枠を認めている。日本は「沿岸小型捕鯨も同様に位置づけてほしい」と訴えているが、なかなか認められない。調査捕鯨を見直しつつ、働きかけを強めたい。

毎日新聞 2014年04月02日

調査捕鯨で敗訴 南極海から撤退決断を

南極海での日本の調査捕鯨が、商業捕鯨を禁じている国際捕鯨取締条約に違反するとして国際司法裁判所(ICJ)から中止命令を受けた。消費量の激減で商業捕鯨の必要性が低下する中、調査捕鯨は本来の目的を失っていたともいえる。

一方、「科学調査」の手法が否定された痛手は大きい。科学的な資源管理の信頼性が失われるとマグロなど他の水産資源を持続的に利用していくのも難しくなるからだ。

条約は科学的研究のための捕鯨を例外的に認めている。しかしICJは「調査捕鯨に名を借りた商業捕鯨だ」という豪州の主張を認め、「科学目的だ」という日本の反論を退けた。科学的に850頭前後必要だとして捕獲枠を確保しながら100頭余りしか捕獲していない点などが合理性に欠けると認定された。

南極海の調査捕鯨は、国際捕鯨委員会(IWC)が1982年に決定した商業捕鯨の一時停止を解除するのに必要な科学的データを収集するために実施している。しかしIWCは捕鯨国と反捕鯨国の対立で機能不全に陥っており、一時停止解除は極めて困難な状況だ。一方で国内の鯨肉流通は年間約5000トンで最も多かった62年の2%程度にとどまる。

鯨食は、「日本の食文化」の一つだ。しかし、IWCの管理対象になっていない沿岸捕鯨を中心にした伝統的な鯨食文化と、戦後の食糧難に伴ってたんぱく源として全国的に拡大した鯨食とは分けて考える必要がある。

商業捕鯨停止による価格高騰で鯨離れに拍車がかかった面もあろうが、食糧難解消で需要がはげ落ちた効果も大きい。守るべきは沿岸捕鯨を中心に、なお残る鯨食文化だ。

そのために南極海で商業捕鯨を再開する必要はあるのか。国内では沿岸捕鯨の鯨肉のほかアイスランドなどからの輸入品も流通し、南極海の調査捕鯨は全体の2割にとどまる。それでも供給はだぶつき、調査頭数抑制には需給調整の意味もある。

食文化を守るために南極海で商業捕鯨を再開する必要性は乏しい。そのために年間数十億円の国費を使って調査を続ける意味はないだろう。政府は今回の判決を受け入れるとしながらも撤退の意思を明確にしていないが、もう決断すべきだ。

今回ICJに日本の主張が受け入れられなかったダメージは大きい。日本の資源管理への不信が、マグロなど国際的に漁獲規制の動きが強まっている他の魚介類に波及するおそれがあるからだ。

政府は今回の敗訴の原因をしっかり検証した上で、資源管理について国際的な信頼を得るよう体制を立て直す必要がある。

読売新聞 2014年04月03日

調査捕鯨敗訴 水産資源の管理を戦略的に

限られた水産資源を有効利用するには、国際社会の理解を広げる努力が欠かせない。

南極海における日本の調査捕鯨の合法性が争われた裁判で、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は、国際捕鯨取締条約に違反すると判断し、中止を言い渡した。

豪州が「調査捕鯨の実態は鯨肉を売って利益を得る商業捕鯨だ」と訴えたのに対し、日本は条約が認める「科学的研究」であり、鯨の分布や増減など実態を調査する必要があると反論していた。

日本の主張の正当性が認められなかったのは、残念である。

日本は「法の支配」の重要性を唱えてきた。韓国には、島根県・竹島の領有問題のICJ付託を呼び掛けている。政府がICJの判決を受け入れ、現行の調査中止を決定したのは、やむを得ない。

判決は、日本がクロミンククジラの年間捕獲枠を約850頭に設定しながら100頭ほどしか捕っていないため、研究という目的は満たされていないと指摘した。

反捕鯨団体「シー・シェパード」の違法な妨害が原因なのに、それを考慮しないのは疑問だ。

反捕鯨国出身の裁判官が多いことが判決に影響した、との見方もある。国際政治の冷徹な現実を浮き彫りにしたと言えよう。

今後、日本が北西太平洋で実施している調査捕鯨についても、反捕鯨国から中止を求める圧力が強まる可能性がある。

ICJの判決内容についての検証を踏まえ、捕獲頭数や調査手法などを見直す必要がある。国際世論対策も講じねばなるまい。

政府は、1988年に中断を余儀なくされた商業捕鯨の再開を目指している。そのために調査捕鯨が必要という面も否めない。

ただ、鯨肉の国内消費量が低迷する中、数十億円もの国費をかけた調査捕鯨を続けることを疑問視する声は、国内にもある。

調査捕鯨の意義が薄れたわけではないが、捕鯨政策を総点検する必要もあるのではないか。

無論、和歌山県太地町などで行われている、沿岸の小型捕鯨は、国際規制の対象外だ。ICJの判決の効力はまったく及ばない。日本固有の伝統的な食文化は、後世に継承していきたい。

一方で懸念されるのは、今回の判決が、日本で高級魚として好まれるクロマグロなどの漁獲規制の強化につながりかねないことである。政府は、国際社会の動向を見極めつつ、水産資源の維持・管理を戦略的に進めるべきだ。

産経新聞 2014年04月02日

国際捕鯨裁判 生態把握の手段が消える

明らかに公平さと合理性を欠いた結論だ。

日本が国際捕鯨取締条約に基づいて南極海で行ってきた調査捕鯨に対し豪州が中止を求めて国際司法裁判所(ICJ)に提訴していた裁判で、日本の活動を条約違反とする判決が下された。

ICJの判決には上訴の手段がなく、日本政府は従わざるを得ないが、鯨類の生態解明などに貢献してきた調査捕鯨の科学性が十分に理解されなかったことは、極めて遺憾だ。

日本は世界に向けて、これまで以上に調査捕鯨の意義を明確に説明しなければならない。そうしなければ「科学を装った商業捕鯨」という豪州や反捕鯨団体による不当な誹謗(ひぼう)が定着してしまう。

日本の敗訴理由のひとつは、調査捕鯨の捕獲目標数と実際の捕獲頭数の開きである。

南極海での調査捕鯨の主な対象はクロミンククジラで、日本は約800頭の捕獲枠を持っているが、実際の捕獲は昨漁期の場合、約100頭に減っている。

これは調査計画がずさんであったためではなく、反捕鯨団体の執拗(しつよう)で悪質な妨害があったからである。あえて強硬策を避けた日本の配慮が裏目に出た形だ。判決を機に、鯨を神聖視して感情に訴える反捕鯨団体の活動が、北西太平洋での調査捕鯨に対してもエスカレートすることが危惧される。

国際捕鯨委員会(IWC)が、各種の鯨の生息数についての科学的データの不足を理由に商業捕鯨を一時凍結したのは1982年のことだ。日本はこれを受け入れ、87年から開始した調査捕鯨でデータの補充に貢献してきた。

最大種のシロナガスクジラの個体数の伸び悩みは、食性で競合するクロミンククジラの急増に圧迫されて生じていることなども明らかになっている。近年はザトウクジラやナガスクジラの増加傾向がうかがえるものの、正確に推定するには捕獲し、年齢や栄養状態などを調べる研究が欠かせない。

日本が南極海の調査捕鯨から撤退すれば、主要鯨種の生息数や鯨種間の競合状況など資源管理の基本データが不足していく。日本の鯨食文化にも影が差す。

世界の人口増加で、遠くない将来、動物性タンパク源として鯨類の本格利用が始まるだろう。そのとき正確な資源情報がなければ、強国による乱獲が起こり得る。継続性のある科学調査が必要だ。

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