あすから消費増税 国民が納得する成果示せ

朝日新聞 2014年04月01日

17年ぶり消費増税 改革の原点に立ち返れ

消費税率が、5%から8%に引き上げられた。

国民にとっては、つらい負担増である。だが、借金漬けの日本の現状を考えれば、やむを得ない選択だ。

問題は、その痛みに政治がきちんとこたえているかどうかである。消費増税の原点に返って考えたい。

消費増税は「社会保障と税の一体改革」の柱だ。

国の一般会計予算の3割強を占める社会保障の財源は、保険料や税金だけでは足らず、国債の発行に頼っている。つまり、今の世代への給付を維持するために、将来世代にツケを回す構図である。

それを改め、手薄な子育て支援策を充実させつつ、年金や医療・介護を安定させる。先々への安心感を高めることで消費を促し、経済の活性化にもつなげる狙いがある。

そうした考えから、国民が広く負担する消費税の税率を今回と15年10月の2段階で10%に上げ、増税分はすべて社会保障に使うことになった。

増収分がそっくりサービスの充実に充てられるのではなく、多くは国債の発行を減らすことに回される。それでも財源不足は解消せず、高齢化に従って社会保障費は増え続ける。

日本の厳しい現実である。

では、財政破綻(はたん)に陥らないために、どうすればいいのか。

経済成長によって税収が自然に増える環境を整える▼限られた金額が有効に使われるよう、予算の見直しに取り組む▼増税から逃げない――この三つが欠かせない。

とりわけカギを握るのは予算改革だろう。税金の使い道に納得感がなければ、国民は増税に反発するからだ。

ところが、政権からは緊張感が一向に伝わってこない。

消費増税をにらんだ昨年度の補正予算は5・5兆円に膨らんだ。初年度の増税分を上回る額だ。当初予算として過去最大となった今年度予算と合わせ、総額は100兆円を超す。

年度をまたぐため単純比較はできないが、自民党が「ばらまき」と批判していた民主党政権下の予算規模に肩を並べる。

所得の少ない人ほど消費税の負担が重くなる「逆進性」への配慮など、欠かせない対策は少なくない。

しかし、「増税で財源に余裕ができた」「景気の冷え込みを防ぐ」といって予算を膨らませていては、何のための一体改革なのか。

象徴は、公共事業である。

「老朽化したインフラや防災への対策は待ったなし。景気対策を兼ねて前倒しを」「民主党政権が大幅に削減したひずみをただすだけ」。こんな声が政府・与党にかまびすしい。

「防災」を錦の御旗に、費用対効果の検証をおろそかにしたまま、建設ありきの対策を続けていないか。新設から老朽化対策へと軸足を移しつつ、既存の施設を集約する試みが徹底しているとはとても思えない。

東日本大震災の復興事業に、景気対策としての公共事業の積み増しや東京五輪の準備が加わって、現場では賃金や建設資材の高騰が深刻だ。入札の不調が相次ぎ、当初の予定価格を引き上げてやっと業者が決まる例も珍しくない。その分、税金が多く費やされ、借金は増える。

財政再建のために増税と歳出削減が実施されているが、成功したケースは歳出削減に重点を置いていた――。

90年代後半、米ハーバード大のアルベルト・アレシナ教授らが60年以降の先進国の取り組みを調べ、こんな論文をまとめた。成功例では、歳出削減と増税の比率はおおむね7対3だったという。

限られた事例の分析だが、予算の見直し・削減が財政再建に欠かせないことは常識だ。先進国の中で最悪の水準に落ち込んだわが国の財政難を考えれば、増税と予算改革を同時並行で進めるしか道はない。

民主党は、政権を獲得する09年の総選挙で、新たな政策の財源として既存の予算の組み替えで十数兆円を用意すると公約したが、実現できなかった。

見直しは一朝一夕にはできない。個々の政策を一つひとつ吟味し、継続する場合もできるだけ少ない金額でまかなう。

そんな地道な作業を積み重ねるしかないのに、増税を理由に予算を膨らませるのでは、改革の方向が逆である。

90年代のバブル崩壊後、景気対策のために、毎年のように補正予算が編成された。

17年前の消費増税時と比べると、国債の発行残高は3倍の750兆円である。借り入れなどを加えた国の借金総額は1千兆円を超えた。

膨れあがった予算を抜本的に見直し、削減につなげる。それが、消費税率を10%に上げる前提である。

産経新聞 2014年03月31日

あすから消費増税 国民が納得する成果示せ

■円滑実施で早期の経済再生を

17年ぶりの消費税増税が4月1日から実施される。モノやサービスなどにかかる税率は5%から8%に引き上げられる。

消費税はその全額が社会保障に充てられている。膨張が続く社会保障費の財源を安定的に確保し、財政健全化にもつなげることが、今回の増税の目的である。この原点を忘れてはならない。

それを踏まえれば、税収増を前提に予算をばらまくといった余裕は全くない。安倍晋三政権は今後も歳出の効率化に取り組み、増税への国民の理解を得るためにも具体的な成果を示すべきだ。

≪歳出効率化が不可欠だ≫

今回は消費税分を抜いた本体価格のみの表示など、複数の価格表示が認められた。小売りの店頭では混乱も予想される。事業者は顧客への周知徹底を図り、円滑な実施に全力を尽くしてほしい。

平成9年の前回増税時には、個人消費の低迷が予想より長引き、その後の金融危機なども重なって景気が大きく落ち込んだ。だが、現在の経済環境は当時と比べて改善している。これを追い風に、政府と民間が力を合わせて増税を乗り切り、自律的な景気回復軌道にいち早く戻すことが重要だ。

安倍首相は28日の参院本会議で消費税増税について、「社会保障の持続性と安心の確保に取り組む」と強調し、増税後も歳入・歳出改革を進める考えを示した。首相はこれらを着実に実行し、増税の意義を国民に納得してもらう努力が欠かせない。

日本の財政は、少子高齢化が進んで社会保障費が急増し、国債の大量発行で帳尻を合わせているのが現状だ。国と地方の長期債務はとうに1千兆円を超え、先進国で最悪の状況にある。

アベノミクス効果で景気回復機運が高まり、幸い、税収は復調傾向にある。それでも来年度は40兆円超の国債を発行する予定だ。

これほど大量の国債を購入してもらうには、政府が歳出効率化に取り組む姿勢を明示し、財政に対する信認を確保しなければならない。消費税増税が国際公約であることも忘れてはなるまい。

ただ、財政健全化は増税だけでは達成できない。経済成長の同時実現が不可欠だ。その意味で、安倍政権が来年度予算などで増税に伴う景気の落ち込みを抑制する対策を講じ、その前倒し執行で景気の下支えを図るのは当然だ。

気がかりなのは、最近、人手不足などで公共事業の執行が遅れていることだ。優先順位を定め、景気浮揚効果の高い事業から発注するなどの工夫を求めたい。

産経新聞の主要企業アンケートによると、増税が来年度業績に与える影響について、「まったくない」「軽微」とした回答が7割超を占めた。増税後の景気の先行きに自信をみせたものだが、一方で中小・零細企業による増税分の円滑な価格転嫁も必要だ。大手による買いたたきを防ぐため、政府の厳しい監視が求められる。

≪国は家計の痛み認識を≫

今の価格表示は、消費税込みの総額方式が原則だが、1日からの増税では税抜きなどの価格表示も容認された。消費税率10%への引き上げが予定される来年10月に、再び値札をはり替える事業者の負担を軽減するため、3年の時限措置で認められたものだ。

これにより複数の価格表示が混在する形になり、消費者が戸惑うことも予想される。小売り事業者は混乱を避けるため、何よりも丁寧な説明を心がけてほしい。

鉄道などの交通機関では、乗車券の種類によって同じ区間の料金が異なってくる地域もあるので、注意が必要だ。「スイカ」などIC乗車券は1円単位、切符は10円単位で消費税を転嫁するからだ。こうした二重運賃には、乗客から苦情が寄せられる恐れもあり、注意喚起を徹底してほしい。

民間調査によると、8%への増税で家庭の税負担は標準世帯で年7万円超増える。日本経済がデフレからの脱却をいまだ果たしていない中で、政府はこうした家計の痛みを強く認識してほしい。

10%への再増税については、首相が今年7~9月期の国内総生産(GDP)などを勘案して年末に判断することになっている。

しかし、まずは今回の増税を混乱なく実施し、経済再生に向けた足取りを早期に取り戻すことが先決だ。それがなければ、増税に対する国民の理解は到底獲得できないと銘記すべきである。

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