猪瀬氏の処分 これで幕は引けない

朝日新聞 2014年03月29日

猪瀬氏の処分 これで幕は引けない

政治とカネをめぐる重大な問題である。公開の法廷で真実を究明すべきではなかったか。

徳洲会グループから5千万円を受けとった猪瀬前都知事に対し、東京簡裁がきのう罰金50万円を命じた。

知事選を目前に控えた時期の金銭授受である。都議会や記者会見で猪瀬氏が繰り返してきた「選挙に関係ない」「個人的な借り入れ」という釈明では、およそ国民の理解は得られなかった。刑事処分は当然だろう。

政治腐敗への不信を背景に、政治家のカネの流れの透明化が本格的に進んで20年になる。その後、政治家個人は企業献金を受けられず、政党だけに絞る法改正もされた。

だが、政治家による企業からの「個人的な借り入れ」がまかり通るようでは、政治資金をただす制度は意味がなくなる。

今週も、みんなの党の渡辺喜美代表に8億円を貸した、と化粧品大手の会長が明かした。

こうして表沙汰になる闇のカネは、氷山の一角にすぎないとみるべきだろう。「個人的」という名目で政治につきまとうカネの横行を見過ごすことはできない。

猪瀬氏に対し、書面審理の簡単な手続きで罰金刑が宣告されたのは、東京地検が略式起訴を選んだためだ。

一応の刑事責任を問う処分ではあるが、事件の社会的な波紋を考えれば、あまりに中途半端ではないか。

金銭授受が何であったのか、国民が公開審理で知る機会は失われた。

授受の趣旨について、猪瀬氏と徳洲会側の主張には食い違いが大きかった。きのう会見した猪瀬氏は、これまでの釈明を修正し、「選挙に使う可能性があったのも事実」と認めた。

それでもなお不明朗なことが多すぎる。

徳洲会側は見返りに何を期待し、猪瀬氏はどんな形でこたえたのか。謝礼を受けた仲介役はどんな役割をしていたのか。そもそも、なぜ猪瀬氏は選挙前に見知らぬ人間とこんな関係を結ぶに至ったのか。

裁判になれば、当事者たちが証言し、そうした問題がただされる可能性もあったはずだ。

略式起訴は、容疑者の同意なしにはできない。猪瀬氏は有罪を認めることと引きかえに、自分のふるまいが精査される局面を免れた。

本当に罪を認めるならば、やるべきことが残っている。自らが深みにはまった政治にまつわる利権の構造を、できる限り明らかにすることだ。

毎日新聞 2014年03月29日

猪瀬氏略式起訴 都民を欺いた罪は重い

東京都の猪瀬直樹前知事が、医療法人徳洲会グループから5000万円を受け取っていた問題で、東京地検特捜部が、公職選挙法違反で猪瀬氏を略式起訴した。選挙資金を選挙運動費用収支報告書に記載しなかった虚偽記載の罪だ。

昨年12月の退任表明の記者会見で、猪瀬氏は「個人的に借りた」との釈明を貫き、選挙資金であることを否定していた。だが、特捜部の取り調べに対し猪瀬氏は違反を認め、東京簡裁の略式命令に応じて罰金50万円を支払った。

28日会見した猪瀬氏は、選挙資金だったことや、徳田虎雄・徳洲会前理事長に対し、自ら1億円の資金提供を要請したことを認め、そうした事実を否定してきた発言を「おごりがあったゆえに述べた」として撤回し、謝罪した。

記者会見や都議会の審議で、虚偽の弁明を重ねた罪は、法令違反の資金提供で政治不信を招いたことと同様に重い。猪瀬氏はそう肝に銘じるべきだ。

猪瀬氏は都知事選を前にした2012年11月、徳田虎雄氏の次男である徳田毅前衆院議員から5000万円を受け取った。特捜部が公選法違反容疑で徳洲会に強制捜査に入った後の昨年9月、徳洲会側に5000万円を返却した。

5000万円の提供を決めた徳田虎雄氏は、特捜部の調べに「選挙に使ってもらうため提供した」と供述したとされる。猪瀬氏は、28日の記者会見でも、昨年末時点の記憶のあいまいさを強調したが、提供側の証言に言い逃れがきかなくなったのが現実ではないのか。

それにしても、現金で渡された5000万円は、選挙応援目的だけだったのか。徳田虎雄氏は、東京電力病院取得の方針について猪瀬氏と会話を交わしたというが、特捜部は、告発されていた贈収賄容疑については、容疑不十分で不起訴の結論を出した。だとしても、現金の授受にはいまだ不透明さがつきまとう。

特捜部は、5000万円が実際に選挙に使われた形跡がなく、知事を辞めたことなどの事情を考慮し、公判請求しなかったようだ。だが、この判断には疑問が残る。

公判が開かれれば、検察側が提示する証拠、さらに検察、被告側双方の陳述などを通じ、事件の動機や背景が公開の法廷で明らかにされる。

略式起訴では、こうした手続きが割愛される。裁判を通じ、真相の一端を知る機会が失われた。

選挙資金や政治資金に関するこうしたケースが略式起訴で済まされれば、政治家の金に対するけじめが甘くなり、結果的に政治不信を拡大させるのではないか。

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