G7とロシア 世界の漂流を止めよ

朝日新聞 2014年03月26日

G7の役割 普遍の価値観を説け

これは21世紀の新しい冷戦なのだろうか。

これまでG8と呼ばれてきた主要8カ国の枠組みから、ロシアが外される。米欧日など7カ国がウクライナ情勢を理由に、ロシアの参加停止を決めた。

ロシアは「(G8に)しがみつきはしない」と対抗心をむき出しにしている。さながら東西分断の時代に時計の針が戻ってしまったかのようだ。

米欧の経済制裁にもロシアは動じる気配はない。クリミア半島の併合はほぼ完了した。

情勢は依然、緊迫している。主要7カ国は、いっそう結束を固めてロシアへの圧力をかけ続け、再考を促すほかない。

ロシアがG8に正式に参加したのは1997年だった。政治と経済の両面でロシアを民主主義と市場経済のブロックに組み込み、冷戦構造への後戻りを防ぐねらいがあった。

だが実際は、経済が力をつけるにつれ、プーチン氏は強権姿勢を強めてきた。米欧型の人権や自由の価値観を認めない点では中国も同じであり、今の世界は一見、米欧と中ロの陣営に分極化しているようにもみえる。

だが前世紀の冷戦時代と違うのは、どの国も地域も、切っても切れない相互依存の関係にあることだ。貿易、投資、エネルギー、そして文化。あらゆるものが国境を超えて行き交う。

もはやイデオロギーで世界が分断される時代でもない。それどころか、テロや核問題、環境問題など、国々が共通した利害をもつ課題が山積している。

そんなグローバル化世界の難題として浮上したのは、新たな安定役の模索であろう。「世界の警察官」を任じてきた米国の力が後退し、「Gゼロ」すら叫ばれるいま、どうやって世界の秩序を守ればいいのか。

中ロを含む大国が拒否権をもつ国連安保理は機能不全がいわれて久しい。先進国と新興国でつくるG20は主に経済を論じる枠組みであり、政治や安保を語る場としては機能しにくい。

だからこそG7にとって本当の正念場ではないか。近年形骸化が指摘されてきたものの、価値観を共有する首脳が一堂に会し、自由と民主主義という普遍の原則を再確認し、アピールできる数少ない枠組みである。

力や脅しで国境を変えようとする行為を既成事実化させてはならない。それは尖閣問題を含むアジアなど各地に波及しかねない世界秩序への挑戦である。

「法の支配」を強めるためにG7がどんな役割を果たせるか。欧米と日本は今こそ知恵をしぼるときである。

毎日新聞 2014年03月26日

G7とロシア 世界の漂流を止めよ

恐るべき光景と言うしかない。ウクライナ領であるはずのクリミア半島に進駐したロシア部隊が、ウクライナ軍の基地を次々に制圧していく。抵抗する兵士は拘束され、青と黄のウクライナ国旗に代わって白青赤のロシア国旗が空に高く翻る。国際法に照らせば主権侵害であり、侵略や占領ともいえる行為だ。

そうではない、とロシアのプーチン政権は反論する。住民投票でクリミアが選択した。ロシアへの編入はロシア系住民が多いクリミア自身の意思なのだと。だが、ウクライナ政府の意向を無視した住民投票や編入手続きは、同国とロシアの条約にも国連憲章にも反する。武力を背景とした国境線の変更は許されないと私たちは再三指摘してきた。

情勢の深刻さを再認識すべきである。過去には類似の事件もある。ナチスドイツのチェコスロバキア・ズデーテン地方併合(1938年)、ソ連のチェコスロバキア侵攻(68年)やアフガニスタン侵攻(79年)、イラクのクウェート侵攻(90年)などだ。だが、89年の米ソの冷戦終結後に限れば、今回の事件は特異である。第二次大戦と冷戦の教訓を踏まえて形成された国際秩序を、ロシアは簡単に踏み越えた。帝国主義的な領土拡張主義が、まるで亡霊のようによみがえった印象もあるからだ。

オランダで24日に開かれた主要7カ国(G7)首脳会議が、ロシアを当面G8から排除することを決めたのは当然である。6月にロシア南部ソチで開催するはずのG8首脳会議は中止された。G7は「ハーグ宣言」を発表し、ロシアが事態をエスカレートさせた場合は「経済に重大な影響を与える」制裁をさらに実施することも申し合わせた。

ロシアは現実を直視してほしい。ソチ五輪とクリミア編入宣言でロシアはユーフォリア(陶酔)状態にある。91年に崩壊したソ連を継承したロシアは、かつての友邦が次々に西側の軍事組織・北大西洋条約機構(NATO)に加わるのを見てきた。クリミア情勢で快哉(かいさい)を叫びたい気持ちも分からないではないが、制裁に直面している現実は甘くない。旧ソ連圏での国境変更という「パンドラの箱」を開けたロシアに、旧ソ連諸国が警戒感を強めているのも確かだ。ロシアが柔軟姿勢に転じ、G8復帰への道を歩むことを望みたい。

だが、プーチン大統領はG8より新興経済国を含めたG20の枠組みを重視し、中国やインドと手を組んで米欧とは別のグループを形成することも考えているようだ。ロシア軍のウクライナ東部侵攻の可能性も消えていない。G8はもはや崩壊したとの見方が強まるのも無理はない。

読売新聞 2014年03月26日

G7VSロシア クリミア編入を前例にするな

ロシアによるクリミア半島編入が、他国の領土を力で奪うあしき前例とならぬよう、国際社会は一層結束すべきだ。

日米欧の先進7か国(G7)は、ウクライナ情勢を巡りハーグで首脳会議を開き、編入を「国際法違反」と改めて非難した。ロシアが方向転換するまで、G8サミット(主要国首脳会議)への参加を停止すると決めた。

ロシアが状況を悪化させるなら、現在の制裁に加え、厳しい経済制裁を科すとも警告した。

G7が団結して強い意思を示したことは、ロシアに対するさらなる圧力となろう。

首脳会議で日本は、ウクライナに対して、最大約1500億円の支援を表明した。ウクライナ経済は債務不履行(デフォルト)も懸念される事態だ。情勢安定化のためにも、米国や欧州と共に支援を行うことが不可欠である。

G7の決定に対し、ロシアのラブロフ外相は、「G8に固執しない」と述べ、国連安全保障理事会や、主要20か国・地域によるサミットを重視する意向を示した。

外相が強気の姿勢を崩さない背景には、クリミア編入に対するロシア国民の圧倒的支持がある。

プーチン大統領は、自らの編入戦略が奏功したと受け止め、国際的に多少非難されても、クリミアを手放さないつもりなのだろう。クリミアでは、ウクライナ軍の撤収が決まり、ルーブルが流通し始めるなど「ロシア化」が進む。

懸念されるのは、ロシアがウクライナの東部や南部の国境周辺に軍を集結させていることだ。

ロシアが、クリミア以外のウクライナ国内に軍事的に介入した場合、米国始めG7各国は本格的な経済制裁に乗り出すに違いない。ロシアだけでなく、世界経済に甚大な影響が及ぶのは確実だ。

ロシア系住民の動揺を防ぎ、ロシアに介入の口実を与えないためにも、全欧安保協力機構(OSCE)による国際監視団が一刻も早く、ウクライナに赴き、治安情勢の監視を始めることが必要だ。

クリミア問題は、沖縄県・尖閣諸島周辺で中国による領海侵入を繰り返し受けている日本にとっても重要な意味を持つ。

今回のG7首脳会議で安倍首相が、力を背景とした現状変更は許せない、と踏み込んだ上で、「アジアなど国際社会全体の問題だ」と指摘したところ、複数の国から賛同意見が寄せられたという。

尖閣諸島についても、日本の立場の正当性を主張し、国際的理解を得ていくことが肝要である。

産経新聞 2014年03月26日

クリミア併合 G8からの排除 露は事態重く受け止めよ

日米など先進7カ国(G7)緊急首脳会議が、ロシアを加えた主要国(G8)の枠組みを停止し、6月にロシアのソチで予定された首脳会議(サミット)もボイコットすることを決めた。

ウクライナ南部クリミア半島を武力を背景に併合したロシアに、G8の一員たる資格はない。

G8は、米国が北大西洋条約機構(NATO)の旧東側への拡大をのませる代わりに、ロシアを旧西側のG7に組み入れてできた枠組みだ。主権や領土の不可侵を柱とする冷戦後の世界秩序の象徴ともいえる。

それらを侵犯した以上、排除は当然であり、ロシアはG7決定を重く受け止めなければならない。

クリミア併合を「違法な試み」と非難した、G7緊急首脳会議の「ハーグ宣言」は、ロシアが「方向を変更する」までG8への参加を停止する、としている。

ロシアを永久追放したわけではなく、復帰の機会を与えたということだ。その場合、併合の撤回を条件とし、ロシア側が部隊を撤収しクリミアを旧状に復することを最終目標に置くべきだろう。

逆に、仮にロシアが東部へも軍事介入を拡大するなどウクライナ情勢を悪化させたら、G7はロシアの復帰を認めてはならない。

G7が今回、ソチ・サミットのボイコットにとどめたのは、今後さらに強い制裁措置に出るとの警告の意味がある。

制裁は、こうした国際的孤立化との両輪を成す。米国は米渡航禁止、在米資産凍結の対象をプーチン露政権側近、エネルギー、基幹産業トップに広げ、「プーチン氏の銀行」とされる金融機関にも制裁を科している。

これに比べれば欧州の制裁は不十分だ。欧州は、需要の3割をロシアの天然ガスに依存し、対露貿易、進出企業も米国より格段に多い。それだけに、欧州が米国と共同歩調を取らない限り制裁の実は上がらない。欧州諸国には、さらなる制裁に踏み切ってほしい。

G8に新興国などを加えた20カ国・地域(G20)も、議長国オーストラリアがロシアの参加拒否の検討を表明した。国際社会には、ロシアを孤立させ、「クリミア放棄」へ追い込んでもらいたい。

ロシアはウクライナ軍基地を制圧しクリミアを完全支配した。それを覆す長い戦いとなる。

産経新聞 2014年03月26日

クリミア併合 日本の制裁 配慮せずに厳しい姿勢を

ロシアによるクリミア併合は、北方領土問題を抱える日本を苦しい立場に追い込んでいる。

北方領土の不法占拠や中国による尖閣諸島奪取の動きを念頭に、安倍晋三首相は「力による現状変更は認めない」との立場を貫いてきた。25日のハーグでの記者会見では、「国際法違反だ」と改めてロシアを非難した。

しかし、事態発生以来、日本の対露制裁は抑制的で、極めて不十分と言わざるを得ない。

安倍首相は、プーチン大統領との個人的信頼関係を構築し、領土交渉の加速を目指していた。その努力は評価できるが、クリミア併合により状況は一変した。

ロシアは4日にクリミアの実効支配を完了したが、首相が「非難」の言葉を用いたのは約2週間たった併合後だ。制裁の度合いも、査証発給要件の緩和交渉の停止などにとどまり、米欧が取ったロシア政府高官の資産凍結などに比べてはるかに軽い。

領土交渉を抱え、首相に厳しいロシア批判へのためらいがあったとすれば、この際、捨て去るべきだ。クリミア問題への対応を最優先することが日本の国益だ。

価値観を共有する欧米諸国と足並みをそろえ、ロシアの行動を決して容認しない姿勢を明確に打ち出さなければならない。この機会にこそ、北方領土が不法占拠されている現状を改めて各国に強く訴えるべきだ。

ロシアの前身のソ連は、第二次大戦末期の混乱に乗じ、日本がポツダム宣言を受諾した後に北方領土を侵略し、日本の住民を力ずくで追い出した。ロシアとなっても不法占拠を続けている。

クリミアの併合も、ウクライナ国内情勢の混乱に乗じ、ロシアが軍事力を背景に行った。北方領土侵略から69年を経て、その間に国家体制が変わってもロシアが国際法上の非道を重ねていることは、日本が強く指摘すべき点だ。

首相が先進7カ国(G7)緊急首脳会議の場で、東、南両シナ海で挑発行動を繰り返す中国を念頭に「アジアなど国際社会全体の問題だ」とクリミア問題で発言したのは大きな意味があった。

当面、ロシアを除くG7に、日本はアジアを代表して臨むことになる。力による現状変更を認めない立場を唱える諸国の先頭に立つべきである。

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