毎日新聞 2014年03月24日
国民投票法改正 「宿題」の決着を焦るな
憲法改正の手続きを定める国民投票法の改正問題に動きがあった。与党と民主党、みんなの党が18歳への投票年齢引き下げを4年後に先送りすることなどで大筋で歩み寄り、今国会成立の可能性が出てきた。
現行法で積み残された課題への取り組み自体は必要だが合意内容をみる限り、選挙権年齢の引き下げなど「宿題」が解決したかは疑問がある。改憲への地ならし優先で決着を急ぐべきではない。
国民投票法は(1)投票できる年齢の確定(2)公務員による賛否をめぐる勧誘の扱い(3)投票の対象を改憲以外に認めるか−−が3課題とされる。
投票年齢を現行法は「18歳以上」とする一方で、成人、選挙権年齢を18歳へ引き下げるまでは「20歳以上」だと付則で定める。このため、投票を行った場合に解釈が混乱を来しかねない。また、投票への賛否を勧誘するような運動が地方公務員は法律で禁じられていることなども課題となっている。
大筋合意は投票年齢について与党案に沿い当面は20歳とし、改正法施行から4年後に18歳に引き下げるものだ。その代わりに早期の引き下げを求める民主党に配慮し、通常の選挙権の引き下げと併せた「18歳投票」の2年以内の実施もなお目指し、各党で調整する。
公務員の投票勧誘は組織的な運動を禁止した与党案を削除し、付則に「検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」とするにとどめる。
民主党が歩み寄ったのは禁止規定をめぐる与党の譲歩を高く評価した点が大きいという。だが、規制強化はもともと「宿題」とすら認識されていなかったはずだ。
最大のポイントは国民投票とともに18歳への引き下げを本来、公職選挙法改正で実現すべきだった選挙権年齢の扱いである。2年以内の「18歳選挙権」実施を目指すというのであれば国民投票法もそれを待って改正し、「18歳投票」と同時に実施するというのが筋ではないか。
自民党に国民投票の「18歳」即時実施に強い異論が出た背景には選挙権や成人年齢見直しに連動することへの根強い警戒がある。「18歳選挙権」を努力目標として合意するだけでは口約束に終わり、結局はお蔵入りしてしまう懸念は否定できない。実現をしっかりと裏打ちすべきだ。
投票法改正を与党が急ぐのは安倍晋三首相が改憲実現の重要なステップと位置づけているためだ。国会で与党案のまま押し切られる警戒が野党側にあるからといって、合意を焦るテーマではない。改憲以前に国民の意見を聞く予備的投票を認めるかなどの点も含め、与野党はじっくり「宿題」解決を議論すべきだ。
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産経新聞 2014年03月25日
国民投票法改正 労組勧誘容認は禍根残す
憲法改正手続きを定めた国民投票法改正案をめぐり、与野党間で合意が整いつつある。
今国会成立を目指す各党の姿勢は評価するが、協議中の改正案は大きな問題をはらんでいる。
一般の選挙の選挙運動に当たる「国民投票運動」への公務員の関わり方に関し、組織的に改憲案の賛否を働きかける「勧誘運動」を当面の間、認めようとしていることである。
公務員労組などが組織的な政治運動を行うのを容認するものだ。これでは公務員に求められる政治的中立性は損なわれ、国民投票の公正さを失いかねない。自民党など各党は再考すべきだ。
国民投票運動への公務員の関与は、4年後に「18歳以上」へ引き下げようとしている投票権年齢と並ぶ、改正案の重要争点だ。
これまでの協議で、自民党は自治労や日教組の支持を受ける民主党に譲歩し、与党案から公務員の組織的な「勧誘運動」の禁止条項を削除した。今後の検討課題とする付則は設けるが、結論が出るまでは容認される。
だが、公務員労組などが活発な勧誘運動の実績を積んだ後になって、再改正で禁止しようとしても、現実的に可能だろうか。日本維新の会は慎重論を唱えた。与党案が禁止条項を盛り込んだのも、公務員には政治的に高い中立性が求められるからだろう。
憲法改正の是非を判断する国民投票は、国民による重要な主権行使となる。公務員団体による国民投票運動という名の政治活動によって行政が混乱し、中立性への国民の信頼が損なわれては、将来に大きな禍根を残す。
そもそも公務員は、公職選挙法などで選挙運動を厳しく制限されている。それでも選挙活動は活発に行われている。北海道教組が公職選挙法に違反し、教組に推されて当選した衆院議員が辞職した例も記憶に新しい。
国民投票は国政選挙との同日投票が可能とされ、2つの運動期間が重なることも考えられる。また、国民投票運動の期間は最長で6カ月とされる。
これでは、長期にわたる公務員労組の勧誘活動が国民投票運動としてのものなのか、国政の選挙活動なのか見分けがつかなくなることが容易に想像される。運用上も大きな支障を生じるおそれのある制度づくりはおかしい。
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