橋下市長再選 市政、空転させただけだ

朝日新聞 2014年03月24日

大阪市長選 「信任」からはほど遠い

とても「信任された」とは言えない結果だ。

議会の抵抗で行き詰まった大阪都構想を前に進めようと、大阪市長だった橋下徹氏が出直し市長選挙を仕掛け、再選を果たした。主要政党は「市長に独り相撲を取らせる」などとして候補者を立てなかった。論戦は停滞し、投票率は歴史的な低さとなった。

橋下氏は選挙戦で「都構想に反対する政党に僕を落とすチャンスを与えた」「落ちなければ粛々と手続きを進める」と主張した。選挙で勝ったものこそ民意――以前からの持論である。だが、今回の選挙で浮き彫りになったのは、そうした考え方や手法の限界である。

4分の3を超える有権者が棄権に回ったのはなぜか。告示後の朝日新聞・朝日放送の共同世論調査から、市民の悩みがうかがえる。都構想への賛否は割れたが、出直し選には55%が反対と答え、賛成の27%を大きく上回った。議会が思うように動かぬからと、話し合いを放棄して「民意」とりつけに走る橋下氏の手法が支持されたとは、とても言い難い。

方針変更が不可欠である。橋下氏は都構想の設計図をつくる協議会から反対議員を外すことを公約に掲げた。だが、この選挙結果をたてに公約にこだわれば、議会との対立が深まるだけだろう。そもそも、反対派を押しのけるような議論を市民が支持するだろうか。まずはこの公約を撤回し、ノーサイドで話し合いを再開すべきである。

橋下氏に反対しながら対立候補も立てなかった野党の姿勢にも、市民の厳しい目が向けられていることを忘れてはならない。急速な高齢化が進む巨大都市で、将来の財政破綻(はたん)をどう回避し、発展していくのか。野党側も説得力あるビジョンを示して議論を挑む責任がある。

都構想実現に向けた政治日程の見直しも避けられないだろう。橋下氏は、夏までに都構想の設計図をつくるという。来春の統一地方選までに構想を実現させる目標を前提に、逆算した日程である。

だが構想の是非を問う住民投票の実現には、市議会に加えて大阪府議会の承認も必要だ。橋下氏は「住民投票が議会でつぶされたら、統一地方選で過半数を取れるようがんばりたい」というが、いま必要なのは正面衝突でなく幅広い合意形成だ。

改革を進めるには、結局は市民の理解と納得が欠かせない。日程は白紙に戻し、市長も野党も時間をかけてわかりやすい論戦を繰り広げてほしい。

毎日新聞 2014年03月24日

橋下市長再選 市政、空転させただけだ

23日に投開票された出直し大阪市長選で、橋下徹前市長が再選を決めた。投票率は23.59%で、橋下改革への期待から60%に達した2011年11月の前回選を大きく下回り、大阪市長選として過去最低となった。

議会の抵抗で行き詰まった「大阪都」構想実現の手続きを進めようと橋下氏が仕掛けた選挙だが、低調な投票率は、有権者が冷ややかに受け止めた表れだ。

世論調査では、出直し選に6割が反対だった。都構想への賛否は拮抗(きっこう)し、多数が慎重な議論を望んでいる。拙速を避けて、内容を充実してほしいというのが民意だろう。

唐突で乱暴な手法に市議会野党が反発し、有力な対立候補は出なかった。選挙で都構想に市民の関心や期待が高まったと言えず、再選されたからといって、橋下氏が野党多数の議会を動かせるわけでもない。約6億円の選挙費用を使いながら市政を空転させただけではないか。

大阪府と大阪市を統合再編し、二重行政を解消するという都構想は、橋下氏の最大の公約で、来春の移行を目指している。その中身を定める協定書を作成する協議会で、橋下氏は再編案を一つに絞り込むよう提案したが、市議会野党の公明、自民、民主、共産が「議論が不十分」と反対した。選挙で民意を得て、それを後ろ盾にして議会に同意を迫る手法を選び、選挙戦では、協議会から反対派議員を外す考えも示した。

「大阪都」を実現するには、協定書を完成したとしても、府・市議会の承認を得たうえで、大阪市民を対象にした住民投票で賛否を決める必要がある。橋下氏は住民投票まで手続きを進めたい考えだが、自ら代表を務める大阪維新の会は両議会とも少数与党だ。橋下氏の主張を議会が認める保証はなく壁は高い。

橋下氏は既得権益層を敵に見立てて攻撃することで支持を得てきたが、この政治手法も限界にきたのではないか。来春は府・市議選が予定されている。選挙をにらんで議会との対立が続けば、市民不在の空虚な政争と受け取られてしまうだろう。

出直し選で野党は候補擁立を見送ったが、候補を立てて都構想の是非を争うべきではなかったか。政策論争のない選挙戦となり、有権者に選択肢を与えられなかったのは残念だ。

市長と議会はいずれも選挙による民意を代表する。市長は議会の反対意見にも耳を傾け、協議を尽くして合意形成を図らねばならない。

「大阪都」になれば住民にどんなメリットがあるのかなど具体的にわからないことは多い。構想を練り上げるためには期限を切らず、議論を積み重ねるしかない。橋下氏に求められるのは議会との丁寧な対話だ。

読売新聞 2014年03月24日

大阪市長再選 議会と調整問われる「都」構想

これで「大阪都」構想が前進するのか。効果の疑わしい出直し選挙だったと言うほかない。

日本維新の会共同代表である橋下徹氏が、大阪市長選で圧勝し、再選された。

「看板政策」の都構想が大阪府と市の議会の抵抗で行き詰まったため、橋下氏は自ら辞職し、民意を問う戦略に出た。選挙戦では、両議会の代表らで作る法定協議会から反対派の委員を外し、構想を前に進めたいと公約した。

ただし、都構想に反対する自民、民主、共産などの主要政党は「選挙に大義はない」との理由で、候補を擁立しなかった。

事実上の無風選挙である。

投票率は20%台にとどまり、橋下氏が初当選した2011年の前回選挙を大きく下回った。

選挙結果が橋下氏にプラスに働くのかどうかは疑問だ。

出直し市長選を断行し、議会との対立が深まったため、むしろ都構想の前途は以前にも増して厳しくなったように見える。

協力関係にあった公明党などの理解を得ない限り、構想の実現は見通せない。そもそも法定協の委員差し替えは議会の決定事項だ。構想の可否を決める住民投票の実施にも、議会の承認が要る。

橋下氏には、都構想実現の合意形成に向けて、他党との協力体制を構築する努力が欠けている。有権者が再び市政を託した意味は軽くない。まずは市議会との不毛な対立に終止符を打つべきだ。

橋下氏は選挙前、「今年は2回市長選をさせてもらいたい」とも語った。構想が行き詰まるたびに選挙を繰り返すなら、税金の無駄遣いと批判を浴びよう。

一方、自民、民主両党などの姿勢にも問題がある。

府と政令市の二重行政を改め、「時代にふさわしい役所を一から作り直す」という橋下氏の問題提起は悪くない。これを否定し、現状でも改革可能というなら、説得力のある処方箋を示すべきだ。

橋下氏は再選により、維新の会の共同代表を続けるだろう。だが、当面は、都構想の実現に集中せざるを得ないとみられる。

維新の会は、原子力政策などで本拠地の大阪と石原共同代表ら東京の国会議員団のミゾは広がっている。党内の内紛も響いて支持率は低迷したままだ。

維新の会は、個別の政策で安倍政権と協力する「責任野党」を自任しているが、その役割を果たせるだろうか。橋下氏のリーダーシップが問われるのは、大阪都構想だけではあるまい。

産経新聞 2014年03月24日

橋下氏再選 やはり「大義」はなかった

この選挙は意味があったのだろうか。

出直し大阪市長選で橋下徹氏が再選された。しかし、過去最低の投票率では、大義とした大阪都構想への「民意」が得られたとはいえない。

大阪維新の会以外の政党が候補者を立てなかったことも大きいが、そもそも都構想に議会の賛同が得られないから“ちゃぶ台返し”のように辞職-出直し選挙に持ち込むのは乱暴すぎた。

有権者の関心が低かっただけでなく、予算編成の大事な時期に市政を停滞させ、約6億円もの選挙経費を支出することに批判が大きかった。それが棄権、あるいは白票となって表れたと、橋下氏は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

“不戦敗”を選択した各党にも反省を求めたい。橋下氏の挑発に乗るのは得策ではないと考えたようだが、傍観はあまりに消極的だ。市議会は野党が多数である。むしろ市長不信任案を可決して都構想の是非を問うたなら、これほど市民不在の無意味な選挙にはならなかったのではないか。

橋下氏は都構想の制度設計を話し合う法定協議会から反対派の府議を外し、議論を加速させる考えだが、府議会でも維新は4人を除名したため過半数を割っている。秋に住民投票を行い、来春には大阪都に移行するというスケジュールはほぼ不可能だろう。

となると、再び辞職、統一地方選とダブルで再度出直し市長選に挑むことが予想される。が、強引な策は信を失うだけである。もはや一時の橋下ブームはない。

出直し選挙で本人が再選されても任期は延びない。来年12月までの残りの任期は、市営地下鉄などの民営化、市政改革、財政再建など喫緊の課題に取り組み、ゴールとしての都構想を目指す方が、遠回りのようで近道になる。

今回の市長選は「大阪の問題」だったが、選挙結果が国政に与える影響も小さくない。

日本維新の会は憲法改正や慰安婦をめぐる河野談話見直しなどで独自の存在感を示してきた。ただ、当初から聞かれる旧太陽の党系と大阪維新の会系との東西の不協和音は強まっている。

その接着剤の役割を果たしてきたのが、集票力を発揮する橋下氏の個人人気だった。求心力を保てるかは、党の行方、野党再編にもつながる。橋下氏にも、日本維新の会にも、正念場である。

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