集団的自衛権 自民党は選挙公約を守れ

毎日新聞 2014年03月21日

解釈改憲論議 公明は明確に一線画せ

2014年度予算が20日成立した。1999、00年度の3月17日に次ぐ戦後3番目のスピード成立で、今後は集団的自衛権行使をめぐる憲法解釈の変更問題が焦点となる。

安倍晋三首相が目指す行使容認に与党内からやっと慎重な議論を求める声が広がり始めた。とりわけ調整の鍵を握る公明党の主体性が問われる。極めて問題の多い現在の解釈変更論議と明確に一線を画すべきだ。

野党が審議拒否戦術を行使するような場面もなく、あっけないほど与党ペースの予算審議だった。

野党側はNHKの籾井勝人会長の発言問題などで追及したものの重要なテーマで必ずしも足並みがそろわず、与党を利する構図が定着してきた。このままでは国会論戦の存在感が埋没するばかりだ。野党側に一層の工夫を求めたい。

スピード成立を受けて、安倍政権が憲法解釈の変更に踏み切るかをめぐる与党の調整が重要な局面にさしかかる。集団的自衛権の行使を禁じてきた憲法9条解釈を転換するのであれば安全保障の枠組みはもちろん、立憲主義の根幹にも関わる問題である。

自民党は安倍総裁直属の新組織を発足させ行使容認を検討する。脇雅史参院自民党幹事長が行使容認を前提としない議論を主張するなど性急な結論をけん制する声も目立ってきた。これまでのように重要な課題で首相に異を唱えず沈黙していた空気も変わりつつあるようだ。

影響が大きいのは19日から党内の議論を始めた公明党の動向である。前のめりだった首相の姿勢を漆原良夫国対委員長が手続き論の立場から批判するなど、公明党は憲法解釈変更に慎重な立場だ。だが、閣議決定には公明党から入閣した太田昭宏国土交通相ら全閣僚の署名が必要なため、安倍政権が解釈変更に踏み切った場合、実際に拒めるかを疑問視する見方は根強い。

特定秘密保護法で公明党は自民党に同調し、与党内の監視役を果たせなかった。自民党にどこまでもついていく「げたの雪」ではないかとの一部の批判に山口那津男代表は「(切れるとげたが壊れる)鼻緒だ」と反論している。

そうであれば解釈を転換するような議論とはっきり一線を画し、あるべき日米協力や自衛権のあり方について対案を示すべきだ。さもないと何のための連立参加なのかが問われよう。

そもそも問題なのは首相が「何のため」「何を想定して」9条解釈を変更しようとしているかが、いまだに判然としないことだ。国会で議論を尽くすためにも政府は首相の私的懇談会の議論を踏まえ、論点を具体的に説明すべきである。

読売新聞 2014年03月22日

集団的自衛権 解釈変更へ共通認識広げたい

日本の平和と安全を維持するため、いかに米国など関係国との連携を強化するか。現実に即した議論を深めるべきだ。

自民党が、集団的自衛権の行使を可能にする政府の憲法解釈の見直しに向けた党内論議を始めた。9年ぶりに総務懇談会を開催したのに続き、月内にも総裁直属機関を新設し、全議員を対象とする勉強会などを開く。

総務懇談会では、行使を容認する意見の一方で、「国民に分かりやすい議論が必要だ」「立法府の意見に十分に配慮すべきだ」といった慎重論が目立った。

この背景には、安倍政権の政策決定を首相官邸が主導する「政高党低」に対する自民党側の不満があるようだ。丁寧な党内調整は大切だが、感情論ではなく、冷静な議論が求められる。

まず、過去の政府見解と一定の整合性を取りつつ、時代の変化に対応して憲法解釈を変更することに問題はない。「憲法の番人」と呼ばれる内閣法制局も、解釈変更は可能との立場である。

日本の安全保障環境が悪化する中で、様々な緊急事態に対処し、日本の領土・領海を守り抜く。そのためには集団的自衛権の行使を可能にし、自衛隊と米軍の連携を強化して、日米同盟の抑止力と信頼性を高めることが不可欠だ。

日本が単独で対処するなら、今の何倍もの防衛費を要しよう。

無論、集団的自衛権の行使を容認する新解釈が将来、再び安易に変更されることは許されない。

新解釈の安定性を確保するには自民党内の議論をしっかり行い、180人以上に上る当選1回の衆参両院議員を含め、新解釈の意義や論理構成などについて、一定の共通認識を持つ必要がある。

さらに、与党内や与野党の議論を通じて、より広範な合意を形成し、国民の理解を広げる努力も重要だ。自民党議員は、こうした手続きの重要性を自覚し、党内論議に臨んでもらいたい。

一方で、いたずらに議論を重ねれば良いわけではない。自民党には既に、集団的自衛権に関する議論の積み重ねがあり、2012年衆院選の政権公約には行使を容認する方針を明記している。

政府は、4月の有識者会議の報告書、与党協議を経て、夏に新解釈を閣議決定し、年末の日米防衛協力の指針改定に反映する日程を描いている。自民党内の論議が長引けば、この日程も遅れよう。

活発な議論によって適切な時期に結論を出し、政治を前に進める。それが政権党の務めだ。

産経新聞 2014年03月20日

集団的自衛権 自民党は選挙公約を守れ

安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更をめぐり、自民党の党内調整が本格化した。

来週には、石破茂幹事長をトップとする党の協議機関が発足する。首相が「大いに自民党らしく闊達(かったつ)に」と述べたように、論議を尽くしてもらいたい。

忘れてはならないのは、自民党が長年の懸案である行使容認を国政選挙で公約し、圧倒的な議席を得て勝利したことである。

党内の慎重論には、この議論は首相の独りよがりで行われていると言わんばかりの牽制(けんせい)もある。安全保障で日本を立て直すという政党の明確な意思として、国民との約束を果たさねばならない。

17日の総務懇談会では、ベテラン議員や参院側の幹部から、「丁寧に議論を進めていくべきだ」などとする意見が出された。長年、踏襲されてきた憲法解釈の変更にあたり、与党がしっかりと議論の過程を踏むのは重要である。

集団的自衛権を行使する場合でも、「一定の限度が必要」「対外的に日本は何をしたいのか明確にすべきだ」といった問題提起には十分な検討を重ねてほしい。

だが、少数とはいえ「解釈変更ではなく憲法改正が必要」「立憲主義に反する」などと、解釈変更そのものを批判する主張もある。異論も含めて党内をまとめなければ、行使容認に慎重な公明党との協議にも響くだろう。

今後の議論にあたり、自民党議員たちが確認しておくべきなのは、平成24年12月の衆院選で行使容認を掲げ、政権に復帰したことだ。これに先立つ同年7月には、行使容認を柱とする国家安全保障基本法案を総務会で党議決定している。これは、25年7月の参院選公約にも盛り込まれた。こうした議論の積み重ねがあるのだ。

石破幹事長が「もう一回議論するのは構わないが、党としてはプロセスを正規に踏んでいる」と述べたのはもっともだ。

集団的自衛権の行使容認は、日米同盟の絆を強め、共同対処能力を高めるために重要なものだ。このことを国民に広く呼びかけるためにも、議論を経てわかりやすい説明を尽くす必要がある。

首相がいう「自民党らしさ」とは、最後はまとまるという意味でもある。基本政策で異論を残し、結論を先送りするのでは、政権与党の責任は果たせない。

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