朝日新聞 2014年03月20日
ネット託児 切実なニーズ、直視を
ベビーシッターが、預かった子どもの死体遺棄容疑で逮捕された事件。ネットを通じた託児の広がりがあぶり出したのは、仕事と子育ての両立に悪戦苦闘する親たちの姿だ。
社会はどう応えるのか。公的な支援策の改善、職場の理解など多面的な対応が必要だ。
緊急の場合の公的な託児は今でもある。「一時預かり」、宿泊を伴う「ショートステイ」、夜間に預かる「トワイライトステイ」といった事業を市区町村が行っている。
ただ、利用実績は低い。一人親世帯を対象に「公的制度等の利用状況」を聞いた厚生労働省の調査では、母子世帯のショートステイの利用経験者は1・2%だけ。未利用者の54・6%が制度を知らなかった。
制度を周知させる努力は必要だが、もし本当に頼れる制度なら親の間で口コミで評判になっているはずだ。病気の子どもは対象外だったり、年齢制限があったり、預ける場所が遠かったりと、使い勝手の悪さがネックになっている。
厚労省によると、母子家庭の母自身の平均年収は223万円。お金も時間も余裕がない中で、託児ニーズは切実である。
公的な制度の改善に時間がかかる現状を考えれば、ネットで仲介されるサービスを制限するだけでは解決にはなるまい。まず託児業者に対する安全確保のガイドラインや情報開示の仕組みづくりを進めるべきだ。
さらに、必要性の高い病児保育を含め、金額的に利用しやすく、質も向上させるには、公費の投入が必要になる。
だが、財源は十分か。15年度のスタートを目指している新しい子育て支援制度は、検討中の充実策をすべて実施する場合、年間約1・1兆円が必要となるが、消費増税で確保されるのは7千億円だけだ。
自民、公明、民主3党は一昨年6月、子育ての財源確保をめぐって、「政府は最大限努力する」とうたった。どう賄うか、早く議論を深めて欲しい。
子育てには、個々の職場での理解と支援も大切だ。05年の改正育児・介護休業法により、就学前の子どもが病気やけがをした際、非正社員を含めて、看護休暇が1年間に5日とれる制度が導入されている。
実際にとれるかどうかは職場の雰囲気が影響する。上司や同僚の冷たい視線を浴びながら休んだり、早退したりするのはつらい。子育て支援は、自分が直接かかわっていなくても、職場や地域での助け合いを通じ、誰もが貢献できる。
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毎日新聞 2014年03月19日
2歳児死亡 放置できぬネット託児
埼玉県内で17日、ベビーシッターに預けられていた2歳児が遺体で見つかった。シングルマザーの女性が、インターネットのサイトを通じて、託児を頼んでいたという。
ベビーシッターには公的資格は必要なく、国・自治体への届け出義務もない。一方で、ネット上にはベビーシッターを探す人となり手の情報交換サイトが複数あり、サイトによっては探し手・なり手とも数千人規模の登録がある。利用者の裾野の広さに驚く。事件はそうしたネット利用の危険性を浮き彫りにした。
田村憲久厚生労働相は18日、ネット上のベビーシッター仲介サイトの実態調査を行う方針を明らかにした。行政の目が届かない中で生まれた悲劇であり、当然の対応だ。このまま放置はできない。利用の仕組みや質の確保について調査し、必要な措置を検討してもらいたい。
神奈川県警は、ベビーシッターをしていた26歳の容疑者の男を死体遺棄容疑で逮捕した。容疑者は保育園の勤務経験があり、看板を掲げないままマンションの一室でベビーシッターをしていたようだ。
母親は今月14日夜、2歳児と8カ月の乳児を2泊3日の予定で預けたが、15日以後容疑者との連絡が途絶えた。なぜ、2歳児が死亡したのか。死亡の経緯がまずは焦点だ。
こうしたネット託児は、日時や引き渡し場所、報酬などを当事者が掲示板に書き込み、サイトを通じて連絡を取り合う。アドレスを書き込めば、直接交渉も可能だ。手軽さや託児料の安さが利用の増加を生む。
ただし、親が子供の安全に最大の注意を払うのは当然だ。顔合わせして信頼できる人物か確認したり、自宅にまず呼んで保育してもらったりといった手順を踏むべきだろう。利便性を優先するあまり、見ず知らずの人に乳幼児を預けるのは危険だ。
厚労省の調査では、シングルマザーは全国で124万人に上り、その約6割が同居する家族のいない母子世帯である。年齢は20代後半から40代が多く、働き盛りだ。
就労形態も多様化している。昼間の保育や、短時間の一時的な託児とは別の需要が増えていることは想像に難くない。ベビーシッターは、そうした隙間(すきま)を埋めている。
ベビーシッターの信頼性を担保するため、厚労省が認可する公益社団法人が「認証ベビーシッター」の資格を出している。厚労省も2015年から、研修を受けたベビーシッターを市町村が認定し、優良事業者を国が財政支援する制度を始める。
こうした仕組みをさらに充実させ、ネットを含めた既存の事業者を制度に導くことも、積極的に検討すべきではないか。
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読売新聞 2014年03月21日
ネット託児事件 ベビーシッターの質も確保を
インターネットのベビーシッター紹介サイトに潜む危険な一面が、浮き彫りになった。
神奈川県警が、ベビーシッターの男を、預かった男児の死体遺棄容疑で逮捕した。
横浜市に住む男児の母親は、以前にも紹介サイトを通じて男にシッターを依頼し、トラブルになった。しかし、メールのやりとりで男が偽名を使い、待ち合わせ場所には代理人が現れたため、同一人物と気づかずに預けたという。
男児は、男が保育室として使っていた埼玉県内のマンションの一室で3日後、遺体で発見された。事件の全容解明と、再発防止に向けた対策が急がれる。
紹介サイトが広がっている背景には、派遣事業者を通すよりも低料金で、すぐにシッターを確保できるという利便性がある。経済的な事情から、個人シッターに頼らざるを得ない親も少なくない。
しかし、サイト側がシッターの本人確認をしないなど、信頼性に欠ける面が指摘されている。
田村厚生労働相が、「どういう仕組みなのか、状況を調査してみたい」と語ったように、まずは実態把握が重要だ。
紹介サイトに限らず、ベビーシッター業界全体にも、改善すべき点がある。ベビーシッターには公的資格がなく、行政への届け出も必要ない。子どもの命を預かるシッターの仕事に、行政のチェックが及んでいないのが実情だ。
一方で、親の働き方が多様化したことに加え、ひとり親家庭も増えている。夜間や休日も対応してくれるベビーシッターの需要は近年、高まっている。
シッターの質の確保が、大きな課題である。
事業者100社が加盟する「全国保育サービス協会」では、独自の資格制度を設けている。業界の自主的な取り組みをさらに強化してもらいたい。
2015年度に始まる政府の子育て支援の新制度では、シッター業務の一部を市町村の認可制とする。所定の研修を受ければ、シッター側に補助金を支給する。
補助金の分、利用者負担が軽減され、安さを売り物にした悪質業者の排除につながると期待される。こうした仕組みを拡充し、全体の質を高めたい。
どのシッターを選ぶかは、利用者側の責任だ。厚労省は事件を受け、シッター利用時の注意事項を示した。事前に面接し、信頼できる人物かどうか確かめる。こうした点に留意する必要がある。
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