中国の賠償訴訟 許されない政治的判断だ

朝日新聞 2014年03月20日

強制連行訴訟 日中の遠い「戦後」解決

さきの戦争被害の償いを求める問題が、また新たに中国から投げかけられた。

戦中に日本へ強制連行されて働かされたとして、中国の元労働者や遺族が北京で提訴し、裁判所が初めて受理した。

同様の訴訟はすでに韓国で広がっていたが、中国では政府が水面下で封印してきた。

中国では事実上、司法は共産党政権の指揮下にある。今回の受理の背景には政権の意図があったはずだ。訴訟にあえて干渉せず、市民の対日要求を黙認したのだろう。

習近平(シーチンピン)政権は世界で対日批判を続けている。その一環として賠償問題のカードを切ったとすれば、歴史問題をさらに政治化させ、解決を遠ざける。

むろん、歴史問題をときほぐす責任は、安倍政権にもある。戦争指導者が合祀(ごうし)されている靖国神社への参拝を強行したことが事態をこじらせた。

歴史に背を向ける者には歴史を突きつけよ。中国側に言わせれば、そうなるのだろう。

だが、両国の政権が背を向け合ったまま、問題解決でなく、悪化を招く言動を繰り返すことは、いい加減にやめてもらいたい。

戦争の償いをめぐっては、52年の日華平和条約締結時に台湾の介石政権が権利を放棄し、72年の日中共同声明で改めて中国政府が放棄を明確にした。

そこには「戦争の指導者と違い、日本国民も戦争の被害者」だから、賠償を求めないとする中国側の理由づけがあった。

一方で80年代以降、日本は中国に多額の支援を出した。これが実質的に賠償の代わりである点には暗黙の了解があった。

その流れを考えれば、戦中の行為の賠償請求権問題は解決済み、とする日本政府の主張には当然、理がある。

だが、現実的に、その主張一辺倒で問題の解決に向かうだろうか。

今回のような訴訟が広がれば、日本企業の対中投資を萎縮させかねない。それは日本のみならず中国にとっても不利益となり、両国経済を傷つける。

そもそも、これは人権問題である。中国では政権の思惑とは無関係に、国民の権利意識は高まっている。個々人が当局や企業など相手を問わず、償いを求める動きは止めようがない。

過去にふたをしてきたという意味では日中両政府とも立場は同じだ。歴史の禍根を超えて互恵の関係を築くには、どうしたらよいのか。その難題を考える出発点に立つためにも、両政府は対話を始めるしかない。

産経新聞 2014年03月20日

中国の賠償訴訟 許されない政治的判断だ

国際合意に反し、決着済みの補償問題を反日圧力に利用する暴挙は認められない。

さきの大戦中、「強制連行」されたとして中国人元労働者らが、日本企業2社に損害賠償などを求めた訴えを北京市の裁判所が受理した。

中国の司法機関は、実質的に共産党の指導下にあり、訴状受理は賠償請求が容認されたことを意味する。原告が勝訴する公算が大きい。

賠償問題は、昭和47(1972)年の日中共同声明で決着済みだ。過去にも中国の裁判所へ提訴はあったが受理されなかった。

今回初めて受理されたのは、尖閣諸島周辺での海洋活動など、中国側の挑発で悪化した日中関係が背景にあるのではないか。習近平国家主席ら対日強硬派が、歴史カードで対日圧力を強める意図があろう。訴訟を利用し、日本の戦争責任を国際社会に印象付ける狙いがあるのは明白だ。こうした動きは断じて容認できない。

菅義偉官房長官が会見で「日中間の請求権問題は、日中共同声明の後は存在していない」と語ったのは当然だ。

中国側は「個人の請求権は放棄されていない」と主張する。しかし、日中共同声明で中国政府は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」としている。同種の訴訟に対し、日本の最高裁は平成19年、日中共同声明が、個人の請求権を含め放棄することを定めたサンフランシスコ平和条約の枠組みに沿ったものであることを明示している。

懸念されるのは、日本企業を相手にした訴訟が広がりかねないことだ。企業が中国で事業展開する上でのマイナスを恐れ、決着を急いで和解に応じたりすれば、中国側を利するだけだ。

日本政府は責任を持った断固たる態度で、日本企業を支援すべきだ。中国国内の保有資産の差し押さえなど、判決により不当な扱いを受けないよう、中国当局に強く働きかけていかねばならない。

中国は、国際法や条約を反故(ほご)にし、政治的思惑を優先させるなら、東シナ海に一方的に設定した防空識別圏と同様、自ら国際ルールを無視した無法国家だと宣言しているようなものだ。

政治的理由や要請から、恣意(しい)的に法解釈を変える中国の乱暴な行動は、国際社会での信用を貶(おとし)めていることを知るべきだ。

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