公示地価 都市圏の回復を地方にも

毎日新聞 2014年03月19日

都市圏の地価上昇 緩和マネーが演出した

今年の公示地価は、2008年のリーマン・ショック後に下落が続いていた東京、大阪、名古屋の3大都市圏の平均が住宅地、商業地とも6年ぶりに上昇に転じ、地方中核都市でも上昇に転換したところが出てきた。景気が回復に向かい、住宅需要やマンション用地の売買が活発になってきた。だが、異次元の金融緩和で日銀が大量に供給した資金の一部が土地投資に回ったことも大きい。

現時点では収益性を無視した高値での取引や、値上がりを期待した短期転売は見られず、バブルは起きていないという。しかし、油断は禁物だ。現に都市部では10%を超す上昇が見られる。政府や自治体は、十分な監視が必要だ。

アベノミクスで日銀は国債を大量に購入し、金融機関に資金を流している。「緩和マネー」と呼ばれ、一部が不動産市場に流れ込んでいる。とくに、不動産投資信託(REIT)と呼ばれる金融商品を通じた土地売買が活発になっている。REITの主要な投資家は金融緩和の恩恵を受けた地域金融機関や、その動きに敏感な外国人投資家だ。REITが13年に新たに購入した不動産は、総額2兆3000億円にのぼり、過去最高になった。

緩和マネーの投資が、塩漬け状態にあった土地を動かすきっかけとなり、実需を伴った売買が活性化していけば景気回復を支える力になる。ただ、これは「非常時の金融政策」であり、いつかは資金が回収されることを忘れてはならない。

6年後の東京五輪を当て込んだ土地投機も懸念される。東京の臨海都市部の中央区、江東区周辺では、再開発用地や、大規模マンション用地の需要が高まり、昨年夏の五輪開催決定後、半年足らずで10%強の地価上昇を示している。

一定の面積以上の土地売買を行うと、国土利用計画法に基づき自治体に届け出ることになっている。投機の動きがあれば、事前届け出が必要な「注視区域」や、さらに厳しい「監視区域」への指定ができる。バブルの芽が生じれば、行政は早めに監視体制を強化すべきだ。

今後、都市と地方との格差が一段と広がる可能性が大きいことにも注意を払わなければならない。人口減、高齢化が進む地域は、地価下落が続いている。ただ、その中でも地価が安定している地域がある。先端医療の研究拠点の誘致や、子供に対する医療補助の充実など、医療・福祉分野に力を入れている地域が多い。

住民が「住みたい」と思える魅力がある街づくりが地価にも反映する。他の自治体もそうした政策を学ぶべきだ。政府も自治体の取り組みを後押しすることが必要だ。

読売新聞 2014年03月23日

公示地価 アベノミクス効果で底入れか

安倍政権の経済政策、アベノミクスの効果で大都市圏の地価がようやく上昇に転じた。不動産市場を活性化し、デフレ克服に弾みをつけたい。

国土交通省が発表した1月1日の公示地価は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏で、住宅地、商業地がともに6年ぶりに前年比プラスとなった。

特に2020年に東京五輪・パラリンピックが開催される都の湾岸地区は10%前後も上昇した。

全国平均の公示地価は住宅地、商業地とも6年連続のマイナスだったが、下落幅は縮小した。

08年のリーマン・ショック後の景気悪化で落ち込んだ地価は、大都市圏が先行する形で底入れしつつあると言えよう。

アベノミクスによる景気回復と日銀による大胆な金融緩和を背景に、都市再開発の機運が高まり、地価の回復を後押しした。日本経済の成長を期待し、海外の投機マネーも不動産市場に流入した。

投資家から集めた資金で不動産を購入し、賃料収入などを配当として分配する不動産投資信託(REIT)の資産総額が昨年、過去最高となったのは象徴的だ。

低金利や住宅ローン減税などの政策効果に加え、4月の消費税率の引き上げを控えて、住宅の駆け込み需要も旺盛だった。

だが、今後の地価動向には、注意が必要である。

駆け込み需要の反動減が心配されるほか、建材値上げや人手不足による建設費高騰で住宅市場が冷え込み、地価の底入れ傾向に水を差す恐れがあるからだ。

政府は消費増税後の景気対策として拡充する住宅ローン減税などの効果を見極めるべきだろう。

特に懸念されるのが、回復が遅れている地方の動きだ。札幌や仙台、福岡など中核都市の地価は上昇したが、下落を続ける地方も目立つ。都市部と取り残された地方との格差が広がりかねない。

過疎化などの地方経済の構造問題だけでなく、アベノミクスの恩恵が及ばず、景気回復が遅れている事情がうかがえる。

政府は規制改革などの成長戦略を進めて、地方景気の回復につなげ、全国的な地価の持ち直しを実現しなければならない。

全国の住宅地の上昇率上位10か所のうち8か所を宮城、福島県の高台などが占めた。東日本大震災の被災者による住宅再建の需要が多いためである。

転売目的の投機で地価が急騰して復興に支障が生じぬよう政府と自治体は監視を強めるべきだ。

産経新聞 2014年03月19日

公示地価 都市圏の回復を地方にも

都市部を中心に、地価の回復基調が強まってきている。

国土交通省による1月1日時点の公示地価は、全国平均で住宅地、商業地とも6年連続で下落したが、三大都市圏では住宅地、商業地とも6年ぶりにプラスに転じた。

デフレ克服を目指す安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」効果の表れとみていいだろう。日本経済が資産デフレから脱し、安定的な経済成長軌道に乗るためにも、緩やかな地価の上昇に期待がかかる。

地価は、経済の活力を示すバロメーターともいう。その動向は資産効果によって個人消費や企業の設備投資に影響を与える。成長戦略の着実な実行とともに、地価を確実に底入れさせ、不動産市場の活性化を進める必要がある。

懸念されるのは、地価についても大都市と地方で格差が開いていることだ。地方圏は下落率こそ縮小しているが、調査地点の4分の3がマイナスのままだ。

安倍首相は「景気回復の実感を全国津々浦々に届ける」と明言している。都市圏の順調な回復傾向を、人口減や商店街の空洞化が進む地方にもいかに広げていくか、首相の指導力が問われている。

6年後には東京オリンピックが控えている。政府は五輪効果についても、地方に等しく波及するよう知恵を絞るべきだ。

大都市圏で地価が上昇している要因のひとつは金融緩和だ。円安・株高で景況感が回復し、行き場を探す資金が土地取引に流入している。海外からの不動産投資も活発化している。

Jリート(上場不動産投資信託)の昨年1年間の投資額は、約2兆2200億円と前年の3倍近くに達し、リーマン・ショック前の水準を超えた。

ただ、投資マネーによる思惑的な値上がりには監視が必要だ。東日本大震災の被災地では、高台への移転需要などから地価が急上昇している地点がある。住宅再建に支障が出ぬよう政府や自治体は監視を強めるべきだ。

4月の消費税増税による影響も気がかりだ。3%から5%にした前回(平成9年4月)は、住宅の駆け込み需要後の反動が景気悪化や地価下落につながった。

政府は増税に向け、住宅ローン減税や現金給付で景気の腰折れの回避を図るが、必要なら追加施策も躊躇(ちゅうちょ)すべきではない。

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