裁判員2年目 課題克服し制度の定着を

毎日新聞 2010年01月12日

裁判員2年目 プロの力量問われる番

昨年8月に始まった裁判員裁判は、昨年末までに全国で138件が審理された。順調なスタートとの評価が裁判官、検察官、弁護士ら法曹三者の間で定着している。

ただし、制度開始の昨年5月21日以後に起訴された対象事件のうち、裁判が始まったのは1割強にすぎない。被告が起訴内容を争う事件は、当事者が公判前に争点を整理する手続きに時間がかかり、多くが今年に持ち越された。裁判員裁判の真価が問われるのはこれからである。

裁判員の負担感が大きいのは、複数の殺人被害者がおり被告に死刑が求刑されることが予想される事件、殺人などの重大事件で被告が否認する事件などだろう。

法曹三者に、これらの裁判での万全の態勢を改めて望みたい。

最高裁が昨年、裁判員経験者を対象に行ったアンケートでは、被告が否認する事件は、認めている事件に比べ、審理が理解しにくいと感じた人の割合が高かった。評議時間が「足りなかった」との意見もあった。

迅速な審理はもちろん大切だ。だが、否認事件では丁寧な審理を心掛け、評議時間も十分に確保するよう裁判所は徹底してほしい。

今年は、メディアで大きく報道された事件の裁判員裁判も始まるとみられる。英国人女性の殺人と強姦(ごうかん)致死の罪などで起訴された市橋達也被告の裁判もその一つである。

市橋被告は、殺意を否認しているという。密室の事件であり、殺意の認定は難しい。予断は禁物だ。裁判員には、報道と法廷の審理を区別してほしいとまず呼びかけたい。

その上で、裁判所に注文したい。裁判員が法廷に出された証拠だけに向き合い、審理に臨むよう導くのは裁判所の役割だ。その点の説明を尽くしてほしい。制度上、先入観が強い候補者を裁判員に選任しないこともできる。場合によっては活用し、公平な審理を実現したい。

裁判で被告の有罪を立証する検察の役割も重要だ。昨年、足利事件と布川事件の2件の再審開始決定があったことを忘れてはならない。

布川事件では、検察が被告に有利な証拠を当初開示せず、再審決定が遅れた。証拠開示前の裁判などにかかわった裁判官は「開示されていれば結論は変わった」と述べたという。

裁判員が結果的にも冤罪(えんざい)に加担することがあれば、制度の信頼は根幹から崩れる。検察は心してほしい。

弁護士の役割も大きい。昨年起訴された事件の公判前整理手続きが終わり、今春以後、裁判のラッシュが始まるといわれる。後手にまわってはならない。検察の組織力に対抗し、法廷で充実した立証活動ができるよう研さんも積んでほしい。

読売新聞 2010年01月13日

裁判員裁判 今年が制度定着への正念場だ

6人の裁判員が裁判官とともに審理する裁判員裁判の今年の公判が、12日から始まった。

各地裁では、昨年以上のペースで公判日程が組まれる見通しだ。有罪か無罪か、死刑か無期懲役か、といった難事件の公判も予想される。今年は、制度が定着するかどうかの正念場の年となるだろう。

昨年8月に東京地裁で初めて裁判員裁判が開かれて以来、読売新聞の集計では、昨年末までに828人が裁判員を務めた。出された判決は138件に上る。

「一般市民には非常に重い作業だった」。裁判員を務めた男性がこう語ったように、人を裁くことに心理的な重圧を感じながらも、裁判員たちは、被告に法廷で積極的に質問するなどして、選ばれた責任を果たした。

制度1年目としては、まずは順調な滑り出しだったといえる。

刑事裁判の量刑は、「検察の求刑の8掛け」が多いと言われてきた。求刑が懲役10年ならば、判決は懲役8年前後というわけだ。この“相場”は、裁判員裁判でも大きくは変わっていない。

ただ、性犯罪の刑は概して重くなっている。卑劣な犯罪への裁判員の厳しい姿勢がうかがえる。

裁判官と裁判員が刑を決める際に、参考とするのが過去の同種犯罪の量刑だ。その照会に用いる最高裁の量刑検索システムのデータに誤りがあることが発覚した。量刑への不信を招く失態である。

仙台地裁では、裁判員が被告に向かって「むかつく」と発言するケースがあった。

事件と真剣に向き合うことで、裁判員に様々な思いが生じるのは当然のことといえる。だが、感情的な発言は、裁判員の判断への疑念につながりかねないだけに、慎むべきだ。

裁判員の8割近くが、判決後の記者会見に応じているのは、歓迎すべきことである。裁判員の生の声ほど、いつ裁判員に選ばれるか分からない国民にとって参考になるものはないからだ。

裁判員には評議の内容を漏らしてはならないという守秘義務が課されているが、許される範囲内で今後も体験談を語ってほしい。

これまでの多くの公判は、3~4日間で終了したが、難事件になれば、判決までにより多くの日数を要するだろう。

拙速な審理は避けつつ、裁判員への過度な負担にも配慮することが欠かせない。制度の運用を担う裁判官の手腕が問われるのも、これからである。

産経新聞 2010年01月09日

裁判員2年目 課題克服し制度の定着を

昨年5月にスタートした裁判員制度は、2年目を迎えた。今年は検察側の死刑求刑が予想される重大事件なども出てきそうで、制度が根付くかどうかを占う正念場の年になる。

一般の国民が1審の重要事件の刑事裁判に参加する裁判員制度は、昨年の5月21日以降起訴された事件が対象となった。実際に公判が開かれたのは、8月3日の東京地裁での裁判が第1号で、この後全国の各地裁で次々と始まり、計138件を数えた。

今年は1年を通じて開かれるため、当然のように裁判件数は増える。裁判員の数も増加し、負担はより重くなることを覚悟しなくてはならない。

昨年の裁判員裁判では、検察側の死刑求刑は1件もなかった。被告側が起訴事実を認めていて、量刑のみを争う事件が大半でもあった。裁判員にとっては比較的審理しやすい裁判だったわけである。公判回数もおおむね3~4回と、短期間で終わった。

しかし、今年は死刑求刑事件とともに、被告側が無罪を主張して徹底的に争い長期化するケースも増えるだろう。たとえば鳥取地裁では、鳥取県米子市で税理士ら2人を殺害し、現金を奪ったなどとして強盗殺人罪に問われた男性被告の審理が2月23日から始まる。犠牲者が2人のため、死刑が求刑される可能性が高い。

さらに、マスメディアが大きく報道した社会的に関心が高い事件も審理の対象となってくる。千葉県市川市で起きた英国人女性、リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件なども、年内に初公判が開かれるだろう。

昨年の裁判員裁判は、予想以上に順調に滑り出した。裁判員を経験した人の大半は、「貴重な経験をし、有益だった」との好意的な感想を語っている。選ばれれば、裁判員をつとめることは国民の義務であるという風潮が定着しつつあるといっていい。

しかし一方で、裁判員には評議の内容や評決の結果を漏らしてはならないという厳しい「守秘義務」が課せられ、その重圧に対する苦情も出てきている。もっと柔軟な対応が必要であろう。

裁判員制度は、施行から3年後に見直すことが定められている。検証作業を常に怠らず、課題や問題点が出てくればそのつど議論する努力を続け、制度の定着につなげたい。

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