横田夫妻と日朝 北朝鮮は拉致再調査を

朝日新聞 2014年03月18日

日朝関係 懸案解決へ一歩ずつ

さまざまな思いが行き交った時間だったに違いない。

北朝鮮による拉致事件の被害者・横田めぐみさんの両親が、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんやその家族と、モンゴルで面会した。

ウンギョンさんの存在が明らかになってから12年近く。会いたい気持ちと、「北朝鮮で会えば拉致問題の幕引きに利用される」という心配との間で揺れた夫妻の心情を察し、面会実現を喜び合いたい。

日朝両政府は、19日から再び外務省課長級の協議のテーブルにつく。北朝鮮の真意を見極めつつ、交渉レベルを上げていくことができるかどうか。拉致事件にとどまらず、核・ミサイル問題も含めて粘り強く、したたかな交渉が求められる。

最近の北朝鮮の対日重視の背景にあるのは何か。もちろん、崩壊した経済の立て直しのために日本から支援を得る狙いがあるのだろう。

加えて、金正恩(キムジョンウン)政権になってから滞っている中国や米国との関係を改める環境づくりの思惑もあるはずだ。

正恩氏が権力を継承して2年がたつが、まだ一度も中国を訪問できていない。一方、中国の習近平(シーチンピン)国家主席は数カ月のうちに訪韓し、朴槿恵(パククネ)大統領と会談するとみられている。

北朝鮮の思惑がどうであろうと、日本はこの機会を逃すべきではない。同時に、留意しなければならない点もある。

北朝鮮の核開発に関する6者協議は、08年12月に中断したまま再開のめどはたっていない。それを尻目に北朝鮮は昨年2月に3度目の核実験に踏み切り、国連安保理の決議にもとづく制裁を受けている。

日朝の当局者が水面下で交渉を重ね、首脳会談で故・金正日(キムジョンイル)総書記に拉致を認めさせた02年とは、国際的な環境が決定的に異なるのだ。

「拉致問題は、私の内閣で解決に向け全力を尽くす」

安倍首相はこう繰り返している。横田さんはじめ被害者家族の高齢化が進んでいることを考えれば、当然の姿勢だろう。

同時に、何をもって解決とするのか、核をめぐる6者協議にどうつなげていくのか、難しいかじ取りを迫られる。目先の結果を求めて焦るのは禁物だ。

この点で、中韓と足並みをそろえられる関係にないのは、つらいところだ。

日本政府は、24日からオランダで開かれる核保安サミットで日米韓の首脳会談を模索する。北朝鮮問題を話し合う好機である。無駄にする手はない。

毎日新聞 2014年03月18日

横田夫妻と日朝 北朝鮮は拉致再調査を

北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの両親の滋さん(81)と早紀江さん(78)夫妻が10~14日、モンゴルのウランバートルで、めぐみさんの娘のキム・ウンギョンさん(26)と初めて面会した。ウンギョンさんの夫と生後10カ月の娘も一緒だった。

孫娘やひ孫の赤ちゃんと過ごした様子を語る横田夫妻は喜びにあふれていた。面会できてよかった。ただそこにめぐみさんの姿はなく、拉致問題は解決とはほど遠い状態だ。

日朝両政府は、19、20両日の日朝赤十字協議に合わせて、非公式協議を行う予定だ。2012年11月を最後に途絶えている公式協議も近く再開される見通しが高まっている。

北朝鮮はまず「拉致問題は解決ずみ」との立場を改め、08年に両政府間で合意しながら一方的に延期したままの拉致問題の再調査に応じるべきだ。そのうえで、全生存者の即時帰国、安否不明者の真相究明、実行犯の引き渡しを実現し、拉致問題を解決しなければならない。

横田夫妻とウンギョンさんの面会は、これまで北朝鮮側が夫妻の訪朝による面会を提案したのに対し、日本側が拉致問題の幕引きを警戒して慎重姿勢を示し、実現しなかった。今回は、日本側が第三国での面会を提案し、北朝鮮側も受け入れた。

これは日朝双方に両国関係を動かしたい政治的思惑があるためだ。

安倍晋三首相は、対北強硬姿勢で名をあげた経緯などから、拉致問題に思い入れが強く、第2次政権発足後は、任期中に拉致問題を必ず解決すると語っている。歴史認識をめぐって中国、韓国などと関係が悪化する中、拉致問題の進展に外交成果を求めようとしている可能性もある。

一方、北朝鮮は米国との関係改善が進んでいない。米国が非核化への具体的行動を求めているからだ。このため、北朝鮮は南北離散家族の再会に約3年ぶりに応じるなど韓国との関係を進めようとしている。

拉致問題解決に意欲を示す安倍政権とならば交渉を有利に運べると見て、次は日本との関係を動かそうとしているとみられる。経済状況の厳しさから、日本から経済支援を引き出したい考えもあるだろう。

国連で、北朝鮮の人権侵害を国際刑事裁判所に付託するよう安保理に勧告する調査報告書が公表されたのを受け、拉致問題への取り組みを強調する狙いもありそうだ。

安倍首相の拉致問題解決への意欲は評価するが、北朝鮮に足元を見られては困る。性急に外交成果を求めず、着実な進展を目指してほしい。

6カ国協議は再開の見通しが立っていない。日朝平壌宣言に基づいて拉致、核、ミサイル問題を包括的に解決することも忘れてはならない。

読売新聞 2014年03月18日

横田夫妻と孫娘 対面にめぐみさん不在の重み

「夢のようなことが実現した」「若い時のめぐみによく似ている」

孫娘とようやく出会えたことは、やはり望外の喜びだっただろう。

北朝鮮による拉致被害者・横田めぐみさんの両親の横田滋さん、早紀江さん夫妻が、めぐみさんの娘、キム・ウンギョンさんとモンゴルのウランバートルで、初めて対面した。生後10か月のひ孫にも会えたという。

夫妻は、孫娘の存在が判明した2002年から、会いたいとの意向を示していた。だが、訪朝すれば、拉致問題の幕引きに利用されかねないと見送ってきた。

夫妻が高齢であることなど、「人道的な見地」を重視して、政府が北朝鮮と交渉し、面会実現に尽力したことは評価したい。

外務省の幹部は今年1月下旬以降、ベトナム・ハノイや香港で北朝鮮の当局者と極秘に接触し、第三国での対面の実現に向けて調整したという。拉致問題の解決を前面に掲げる安倍首相にとって、具体的な一歩だと言える。

ただ、その場にめぐみさんの姿はなく、安否に関する情報は得られなかった。その重みもまた、かみしめなければならない。

北朝鮮は、めぐみさんが「死亡した」と主張し、日本に遺骨を提供したが、別人のものだった。その後も、拉致問題の再調査を約束しながら、一方的にこれを見送った。極めて不誠実な態度だ。

第三国でのウンギョンさんとの対面を受け入れた北朝鮮側の意図を十分見極めたい。

昨年12月、金正恩政権は中国とのパイプ役だった張成沢氏を粛清し、中国との関係が冷え込んだ。経済は一層困窮している。国民の不満をかわそうと拉致問題で駆け引きし、見返りに日本に経済制裁の緩和を求めてくるだろう。

背景には、拉致問題を巡る北朝鮮包囲網の強まりもある。

国連の調査委員会が、北朝鮮は国家ぐるみで拉致など人権侵害を行っていると糾弾した報告書をまとめた。北朝鮮は、対日関係の改善を図ることで、国際的な批判を和らげたいのではないか。

日本は、拉致問題に真剣に取り組まねばならない。同時に、国際社会を脅かす核・ミサイル問題の包括的な解決も求めていく必要がある。北朝鮮への「対話と圧力」を堅持していくべきだ。

日朝両政府は19、20の両日に中国・瀋陽で外務省課長級による非公式協議を行う。これを正式な協議に格上げするとともに、北朝鮮の出方を探ることが肝要だ。

産経新聞 2014年03月18日

横田夫妻と孫面会 全員帰国へ圧力緩めるな

北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの両親が、めぐみさんの娘のキム・ウンギョンさんとモンゴルで面会した。母親の早紀江さんは「普通のおばあちゃんとして話せて楽しかった」と語った。

父親の滋さんは81歳、早紀江さんも78歳になる。高齢の夫妻が初めて孫に会えた喜びは、どれほどだったろう。だが拉致事件の解決に向けて、事態は何も進展していない。日本政府は拉致被害者の全員帰国へ向け、北朝鮮への圧力を緩めてはならない。

夫妻の当然で普通の喜びの場を奪ったのは、北朝鮮である。昭和52年11月、13歳だっためぐみさんを拉致して北朝鮮に連れ去った。夫妻はめぐみさんを捜し続け、日本政府はようやく平成9年5月、めぐみさんらの行方不明事案を北朝鮮による拉致と認定した。

14年9月の日朝首脳会談で北朝鮮は「めぐみさんは死亡した」と伝えたが、夫妻はこれを信じず、帰国を求め続けた。

ウンギョンさんの存在が明らかになっても、平壌での面会は「拉致問題は解決済み」とする北朝鮮の思惑に利用されるとして、会いたい気持ちを抑えてきた。何と残酷な年月だったろう。

ウンギョンさんの手料理も食べたという早紀江さんが「夢のようだった」と話すのも無理はない。一方で早紀江さんは気丈に「めぐみや他の被害者も、きっと頑張っていると思った。希望が持てた」とも語った。

「一つのことをきっかけに、日朝会談が何とか良く進められ、全被害者救出のためになることを切望します」と記した夫妻の思いに日本政府は応える責務がある。

面会の場では、めぐみさんに関する新たな情報は、何ももたらされなかった。20年6月に北朝鮮が約束した拉致被害者の再調査も実施されないままだ。現状で制裁の一部解除や経済的な見返りを求められても応じられない。

核やミサイル開発についても、北朝鮮は放棄への具体的行動をみせていない。

国連人権理事会の調査委は拉致を含む北朝鮮の人権侵害を「人道に対する罪」と断じたばかりだ。日本政府は国際社会とともに、北朝鮮への圧力を強めるべきだ。

まず24年11月以来途絶えている日朝局長級協議を再開させ、拉致事件の再調査を強く求め、実現させてほしい。

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