クリミア危機 住民投票は新たな混乱を呼ぶ

朝日新聞 2014年03月19日

クリミア危機 編入は最悪の選択だ

米欧の制裁に対するロシアの返答は明確だった。一切の譲歩を拒む強硬策である。

プーチン大統領は、クリミア自治共和国のロシア編入で共和国指導者たちと合意した。ロシアの議会に対しても、承認の手続きに入るよう求めた。

編入の是非を問う住民投票からわずか2日後の出来事だ。

ロシア議会では、全会派が大統領の決定を支持している。手続きが済めば、ロシアはソ連崩壊後初めて領土を拡大する。

それはロシアにとって最悪の選択である。経済とともに、大国としての地位と信頼を決定的に傷つけることになろう。

プーチン氏は、ロシアが過去に結んだ約束の重みを考えるべきだ。

ウクライナはソ連の崩壊後に独立したあと、ロシアおよび米英と覚書を交わした。国内の核兵器の撤去と引きかえに、主権や国境を尊重することを保証した内容だった。

さらにロシアは、黒海艦隊の駐留継続を事実上の条件に、クリミア半島をウクライナ領と認める条約も結んでいる。

こうした約束を公然とほごにし、不当な手続きでクリミアを併合すれば、自国の利益本位に他国の主権や領土を侵したソ連の行動と違いはない。

米欧はロシア高官らの資産凍結などを決めた。それでもプーチン氏が強気を崩さないのは、今の米欧には荷の重い軍事対応などに踏み込む力はないと見限っているからだろう。

だが、足元のロシア経済は、米欧との対立激化に耐えるほどの体力があるとはいえない。

もともと不安な投資環境から外国資本の流出が加速する。資源依存からの脱却は遅れる。成長が鈍った経済に、さらに打撃を与えることは間違いない。

クリミア危機を平和的に対話で打開することが、ロシア自身と周辺地域に最も大きな利益となるのは明らかだ。

危機はさらにウクライナ東南部へ広がる恐れもある。ロシア系住民の保護を理由に、プーチン氏が東南部にも武力介入する選択肢を残しているからだ。

そうなれば、ウクライナ軍も対抗措置に動かざるを得まい。新たな戦争がそこに生まれる。プーチン氏がいま突き進めている領土拡張の動きは、21世紀の国際社会に対する深刻な挑戦なのである。

軍事衝突の防止に向け、欧州安保協力機構(OSCE)は監視団の派遣を急ぐべきだ。日本を含む主要国グループは、プーチン氏に対する有効な説得策を早急に見いださねばならない。

毎日新聞 2014年03月20日

露クリミア編入 国際秩序踏みにじった

ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ南部クリミア半島のクリミア自治共和国とセバストポリ特別市をロシアに編入する方針を表明した。今後ロシア下院による憲法改正手続きなどを経て、両地域がロシアに組み込まれることは確実だ。

日本を含む国際社会は、武力を背景にした国境線の変更は認められないと強く自制を求めてきたが、聞き入れられなかった。他国の領土の一方的な併合は、国際秩序を踏みにじる行為である。いかなる理由でも許されない。

プーチン大統領は18日の演説で、ウクライナ新政権には正統性や統治能力がないと主張し、クリミアが歴史的にロシア固有の領土であったこと、国連憲章で民族自決権が保障されていることなどを列挙したうえ、米国の独立宣言やドイツ統一の例まで持ち出し、住民の意思を尊重した結果だと決定の正当性を訴えた。

こうした論理はロシア国民の圧倒的支持を得たが、国際社会では受け入れられない。住民投票を無効とする国連安保理決議に反対したのはロシアだけだった。ウクライナの主権は一顧だにされなかった。

プーチン大統領はクリミアに軍を派遣していないと改めて主張した。だが、ウクライナの政変後、国境地帯にロシア軍部隊が集結し、直後に親露武装勢力がクリミアの主要施設を掌握している。ロシアの関与なしにこの作戦は説明できない。

ロシアはまた、欧米が支持した旧ユーゴスラビアのセルビアからのコソボの独立宣言(2008年)を引き合いに、クリミア住民投票の正当性を主張する。だがコソボでは前段として、セルビアとの民族紛争がもたらした人道危機を食い止めるため国連による暫定統治が導入されていた経緯があり、国際司法裁判所も合法性を認めた。今回のクリミア危機では国際社会の関与は許されず、ロシアが一方的に編入へのレールを敷いた点で決定的に違う。

欧米によるロシアへの追加制裁は当然だ。6月にロシアで予定される主要8カ国(G8)首脳会議の見送り案も浮上している。ロシアでは今後、外国資本の引き揚げなど経済への打撃も予想される。

日本は、ロシアとの査証(ビザ)発給緩和協議停止で欧米の制裁に同調した一方、19日に予定通り東京で「日露投資フォーラム」を開いた。4月には岸田文雄外相の訪露が計画されている。積み上げてきたロシアとの関係は重要だが、深刻な懸念はしっかり伝えていく必要がある。

一方で、ウクライナではなお政治混乱が続いている。国際社会の分断による新たな衝突を回避するために早急な取り組みが求められる。

読売新聞 2014年03月20日

クリミア「併合」 露の領土強奪は代償も大きい

ロシアのプーチン大統領が、武力をてこに、強引なクリミア併合に踏み切った。国際規範に反する暴挙であり、到底容認できない。

プーチン氏は、住民投票の結果に基づいてウクライナからの「独立」を宣言したクリミア自治共和国とセバストポリ特別市について、ロシアに編入する方針を表明した。

「クリミアは、強く揺るぎないロシアの主権下になければならない」と主張して、クリミア側代表と編入条約に署名した。

条約は、議会の批准同意などを経て発効する。年末までの移行期間に通貨ルーブルなどが導入されて、併合は完了する予定だ。

クリミアはロシアによって軍事的に掌握されている。併合が、領土保全の重要性をうたった国連憲章に反するのは明らかだ。

ロシアと米英は、ソ連解体後、ウクライナとの間で、ウクライナが旧ソ連製核兵器を廃棄するのと引き換えに、領土の一体性や政治的独立を武力で脅かさないとの覚書を交わした経緯がある。

冷戦終結に伴うこうした取り決めは今回、完全に無視された。編入強行は、冷戦後の国際秩序に対する挑戦とも言えよう。

国際社会が、クリミア併合に猛反発しているのは当然だ。バイデン米副大統領は、「領土の強奪」と非難した。欧州連合(EU)も声明を出し、併合を承認しない態度を改めて示した。

安倍首相は参院予算委員会で、編入決定について、ロシアを「非難する」と初めて明言し、「力を背景とする現状変更の試みを決して看過できない」と述べた。

沖縄県・尖閣諸島周辺で、公船による領海侵犯などを繰り返す中国も念頭にあるのだろう。

今後、国際社会が、ロシアに対してどのような厳しい追加制裁措置を科すかが焦点になる。

米国は、既に追加制裁実施の方針を決めた。EUも20日からの首脳会議で制裁強化を話し合う。

オランダ・ハーグで来週開催される核安全サミットでは、日米英仏独伊加の先進7か国(G7)首脳が、ウクライナ問題で協議する見通しだ。G7が結束してロシアに圧力をかけることが肝要だ。

ウクライナ情勢が緊迫して以来、ロシアの株価やルーブルは下落した。クリミア併合により、インフラ整備などに巨額の財政支出が必要だとも言われている。

併合に踏み出したロシアは、国際的孤立と経済悪化という大きな代償を支払うことになろう。

産経新聞 2014年03月19日

クリミア併合 国際社会挙げて阻止せよ

旧ソ連と東欧の盟主だった超大国の復活を夢見ているのだろうか。ロシアのプーチン大統領が、「クリミア(半島)はロシアの一部だ」と演説し、自国に編入する手続きを始めた。

ロシア編入への圧倒的な支持が示されたクリミアでの住民投票は、主権国家であるウクライナの憲法に反し、ロシアの軍事支配下で、しかもロシア系住民を主体に行われた。

そんな見せかけの民意を踏まえた編入受け入れであり、実体は武力による併合にほかならない。

主権と領土の不可侵という、第二次大戦後、特に冷戦終結後の国際秩序への重大な挑戦であり、断じて許してはならない。

米国と欧州は住民投票実施を機に、クリミア介入などに関わったプーチン体制中枢に対し、米欧への渡航禁止、在米欧資産の凍結に踏み切っている。さらに制裁を強化する必要があろう。

住民投票結果を受けクリミア議会は独立を宣言してロシア編入決議を採択し、プーチン氏は独立承認の大統領令に署名していた。

ソ連解体後に独立したウクライナは、国内に配備されていたソ連製の核兵器を放棄するのと引き換えに、ロシアから主権の不可侵と領土の保全を約束されている。

今回のロシアの行為は、それをうたったブダペスト覚書(1994年)という国際的な取り決めに対する明確な違反である。

覚書は、ソ連邦崩壊後に連邦構成諸国に残置された核兵器を、継承国ロシアに一元管理させて核不拡散体制を維持する、米主導の取り組みの一環だった。併合は、核を手放したがゆえに領土を侵されたとの誤った教訓を一部の国に与えかねず、その面でも国際秩序を揺るがしかねない。

クリミアは、電気、ガス、水などの大半を依存するウクライナ本体から切り離されては、存続が困難だとされる。懸念されるのは、同様にロシア系が多いウクライナ東部でもロシアの介入などを求めるデモが激化していることだ。それを口実にしたロシアの介入は絶対に阻まなければならない。

米欧は今後、対イランで効果が実証済みの金融制裁などの検討に入り、ロシアを併合プロセスの停止、外交交渉へと導かなければならない。日本も査証協議の停止などを実施したが、もっとやれることがあるはずだ。

朝日新聞 2014年03月18日

クリミア投票 ゆがめられた民族自決

ロシアのプーチン大統領は今のところ、米欧の説得を聞き入れるつもりはないようだ。

ウクライナのクリミア自治共和国をロシアに編入するかどうかを問うた住民投票は、国際的な反対に抗して強行された。

編入に9割超が賛成したというが、その結果は開票するまでもなく明らかだった。ロシアが武力で掌握し、異論を封じた中での手続きだから当然だ。

反対派を銃口で沈黙させたうえでの投票は、国際法が定める「人民の自決の権利」とかけ離れているのは明白である。

このままロシアがクリミア半島の併合に進めば、武力による領土拡張に等しい。国際社会の秩序を揺るがす暴挙から、プーチン氏は手を引くべきだ。

そもそも、独立や併合といった国境線の変更は、過去どのように認められてきたのか。

近代に勢いを得た民族自決の権利は、植民支配からの解放を求める権利として、1960年代以降のアフリカ諸国などの独立を後押ししたものだ。

冷戦後は、弾圧や内戦で民族の共存ができなくなった結果として、国際社会が独立を認めるケースが生まれた。旧ユーゴスラビアのコソボや、アフリカの南スーダンがその例だ。

それ以外では、当事者の間で分離独立の合意を平和的に築いている。チェコとスロバキアは93年に連邦を解体した。英国では、スコットランドの独立を問う住民投票が秋にある。

クリミアの事態は、そのいずれにも当てはまらない。

最近まで半島ではロシア系、タタール系、ウクライナ系の人びとが平穏に暮らしていた。

ところがウクライナの政変時に、親ロシア派の党首が軍の後押しで自治政府首相に就き、一方的にロシア編入を掲げた。

地元ではロシアのテレビだけ視聴可能にし、反ウクライナ感情をあおっている。人為的に対立をつくり、民族自決の論理をふりかざしているのが実態だ。

国連安保理では、事前に住民投票を無効とする決議案を採決したが、ロシアが拒否権を行使した。だが、いつもはロシアに同調する中国は棄権した。ロシアの孤立は深い。

幸いプーチン政権も、米欧との対話まで拒んでいるわけではない。大国の身勝手さが過ぎるとしても、クリミア半島の代償としてウクライナを欧米側に追いやる事態は望むまい。

欧米が制裁を強めるのは当然だが、同時に外交交渉の歯車も加速させるべきだ。ウクライナの新政権もまじえ、対話を尽くすほかあるまい。

毎日新聞 2014年03月18日

クリミア住民投票 ロシア編入は許されぬ

ウクライナ南部のクリミア半島で住民投票が行われ、地元選管の暫定集計では投票総数の9割以上がロシアへの編入に賛成した。これを受けてロシア下院は編入手続きの審議を進めようとしている。しかし、この住民投票はロシアの軍事的圧力の下で行われたもので正当性を欠く。ロシアには強く自制を求めたい。

クリミアでロシア編入への動きが急進展したのは、ウクライナの首都キエフで2月に政変が起き、親欧州・反ロシア勢力が権力を握ったためだ。「ウクライナ民族主義過激派による攻撃の恐れ」を理由に、親ロシア系武装勢力がクリミアの空港や主要道路、議会などを占拠し、住民投票の実施を決めた。ロシア軍部隊の関与が強く疑われる中、全欧安保協力機構(OSCE)の軍事監視団が派遣されたが、入域を拒否された。

投票に先立ち、クリミア自治共和国の議会はウクライナ新政権の承認なしにロシアへの編入手続きを進められるよう一方的に独立を宣言。一時はクリミアに隣接するウクライナ天然ガス施設をロシア軍部隊が制圧したとも伝えられた。投票は、ロシア系勢力が投票所周辺で目を光らせる異常な状況の下で行われた。

住民投票を認めないウクライナ政権は有権者名簿の提供を拒否した。地元選管は投票率が8割を超えたと主張しているが、透明性を欠くと言わざるをえない。

クリミア半島はソ連時代にロシアからウクライナに移管され、ソ連崩壊後もウクライナ領となったが、ロシア系住民が6割を占め、ロシアへの帰属意識が強い。1994年にも住民投票が行われ、ウクライナからの独立支持が約8割を占めた。その後、ロシアとウクライナの友好協力条約が調印され、クリミアは自治権を得てウクライナに帰属することが確定した。ロシアは今回、ウクライナの政変でこの条約が無効になったと主張しているが、一方的で国際社会の理解は得られていない。

ウクライナは94年、旧ソ連時代の核兵器を放棄し、非核保有国として核拡散防止条約(NPT)に加盟した。見返りに主権と領土保全を保障する覚書を米、英、ロシアと締結した。ロシアの軍事介入はこの覚書にも違反しており、NPT体制を揺るがす危険性もはらむ。

欧米は住民投票を認めず、ロシア高官への査証(ビザ)発給停止や資産凍結など新たな制裁に踏み切る構えだ。日本も菅義偉官房長官が住民投票の結果を認めないと明言した。ロシアの国際的孤立は、北方領土問題解決のため信頼関係構築を進めてきた日本にとって残念だが、武力を背景にした国境線の変更が許されないことは明確に伝えるべきだ。

読売新聞 2014年03月19日

パラリンピック アスリートの活躍に感動した

ソチ冬季パラリンピックが閉幕した。

ソチ五輪に続き、テロの発生が懸念された。ウクライナ情勢が緊迫化する中、開催国ロシアに抗議し、ウクライナ選手団がボイコットを示唆した。

こうした問題を抱えた大会だったが、無事、全競技が実施されたことは喜ばしい。ウクライナ選手団も参加し、25個のメダルを獲得する活躍を見せた。

今大会で改めて目を見張ったのは、選手の競技力の向上である。元々、パラリンピックは障害者のリハビリの延長として始まった。それが近年は、冬季、夏季とも、より高いレベルで競うスポーツとしての性格が強まっている。

出場する選手は、障害者というより、アスリートそのものだ。

日本選手は6個のメダルを手にした。前回より5個減ったとはいえ、金メダル3個は立派である。選手たちの健闘をたたえたい。

男子アルペンスキーの狩野亮選手は、2種目で金メダルに輝いた。スーパー大回転座位では、日本選手として初の連覇を成し遂げた。男子回転座位で金メダルの鈴木猛史選手とともに、アルペン競技での日本の強さを印象づけた。

メダル争いとともに、感動を呼んだのは、障害を乗り越え、懸命に戦う選手たちの姿だ。

男子アルペンスキーで3大会連続のメダルを獲得した森井大輝選手は、高校2年の時、バイク事故で車いすの生活になった。

失意の中、長野パラリンピックでの日本選手の活躍をテレビで見て、パラリンピック出場を志し、チェアスキーを始めたという。

鍛錬を積み重ねた森井選手の精神力に拍手を送りたい。

人々に希望と力をもたらしてくれる選手たちの競技レベルが向上するよう、政府は可能な限り支援を拡充していくべきだ。

選手たちは、バリアフリー化された練習場の確保が難しい。高額な専用の用具の購入費や、海外遠征の費用を自分で用立てる選手も少なくない。

パラリンピックの選手強化は4月に、従来の厚生労働省から、五輪を担当する文部科学省に移管される。指導者の層が厚い五輪の競技と一体的にレベルアップを図る狙いは理解できる。問われるのは、その実効性だ。

パラリンピック用ナショナルトレーニングセンター新設の調査費も文科省予算に計上された。

2020年には東京パラリンピックが開かれる。障害者スポーツへの理解を広げたい。

産経新聞 2014年03月16日

露のクリミア支配 武力下の住民投票許せぬ

ウクライナ南部クリミア自治共和国で、ロシアへの編入の是非などを問う住民投票が16日に実施される。住民の約6割はロシア系が占め、承認は確実視されている。

軍事介入したロシアの支配下で、主権国家ウクライナの反対を押し切っての投票である。ロシアによるクリミア併合に民意の装いを与え、その布石となりかねず、絶対に容認できない。

併合への歯車がこれ以上回らないように、米欧などは住民投票後直ちにロシアに対する制裁を発動・強化しなければならない。

ウクライナ憲法は、国民投票による承認でのみ国境変更は可能とうたう。住民投票は違憲であり、しかもロシア系が求めている。主要国(G8)のうちロシアを除くG7の首脳声明が、投票結果を認めないとしたのは当然だ。

米側が土壇場で住民投票回避を目指した、14日の米露外相会談は物別れに終わった。ラブロフ露外相は会談で、プーチン露大統領は投票まで対応を決めない、とケリー米国務長官に述べたという。

住民投票に先立ち、クリミア議会は「独立宣言」を採択し、ロシア下院は編入手続き簡素化法案の審議も予定している。予想される編入承認という結果を踏まえて、プーチン氏はどう出るか。

併合への道に踏み出せば、やはりロシア系住民が多い東部にもロシア介入の懸念が拡大し、ウクライナをはじめとする地域の情勢は一段と不安定化しよう。

もとより、武力による主権国領土の併合が許されれば、国際秩序の重大な一角も崩れてしまう。

ここは、米欧が結束して厳しい制裁で併合阻止に動くときだ。米国はクリミア介入に関わったプーチン氏側近らの米渡航禁止措置を取り、その在米資産の凍結、広範な金融制裁も検討している。欧州も足並みをそろえてほしい。

国際社会が住民投票への対応に追われる間も、クリミアへのロシア軍増強は続く。露軍を全面撤収させない限り事態収拾はない。クリミアから手を引けと粘り強い対露圧力をかける長期戦への覚悟が国際社会には求められている。

日本もG7での共同歩調や欧米諸国との協議はしている。これでは不十分だ。安倍晋三首相が個人的関係を築くプーチン氏に直接、撤収を働きかけるよう改めて求めたい。自ら掲げる「積極的平和主義」実行の好機ではないか。

読売新聞 2014年03月18日

クリミア危機 住民投票結果は認められない

ロシアによる事実上の軍事支配下で行われた不法な住民投票だ。国際社会が投票結果は受け入れられないと表明しているのは、当然である。

ウクライナ南部クリミア自治共和国とセバストポリ特別市で、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票が行われた。自治共和国の選挙管理委員会によると、編入への賛成票が96・77%に達した。

親露派のアクショーノフ自治共和国首相は「皆でロシアへ行こう」と勝利を誇った。自治共和国議会は「独立」を宣言し、ロシアに編入を要請する決議も採択した。

これを受け、ロシアのプーチン大統領が、クリミアについて、ロシアへの編入に踏み切るのか、当面編入せずに実質的な支配を一層強めるのか、予断を許さない。

今回の住民投票の投票率は80%を上回ったが、投票で問われたのは、ロシア編入と、自治権の一層の拡大との二者択一だった。現状維持を望む声を最初から無視したのは、問題である。

国際社会は、住民投票の実施を厳しく批判している。

オバマ米大統領は、プーチン氏との電話会談で、住民投票はウクライナ憲法に違反しており、「決して認めない」と伝えた。欧州連合(EU)や日本も、結果を受け入れないと表明した。

国連安全保障理事会でも、米国などが、住民投票を無効とする決議案を提出した。ロシアの拒否権行使で否決されたものの、15理事国中、ロシアと、棄権した中国を除く、すべての国が賛成した。

プーチン氏は、住民投票は「国際法の規範と国連憲章に完全に合致したものだ」と強弁している。だが、ロシアは、このままでは、国際社会で一層孤立していくことを覚悟すべきだろう。

住民投票の強行を受け、米国とEUは足並みをそろえてロシアへの制裁強化を発表した。米国は、プーチン氏の側近や政府高官らを対象に、資産凍結や米国への渡航禁止措置を取った。EUも同様の措置で合意した。

ロシアが対抗措置を取れば、ロシアや米欧に限らず、世界規模の経済悪化を招く恐れもある。

ロシアが「ロシア系住民保護」を口実に、ウクライナ東部への軍事介入をちらつかせているのも懸念材料だ。ロシアは、ウクライナ国境近くで軍事演習を繰り返しており、緊張が高まっている。

米欧は、ロシアに対して、制裁圧力を継続する一方で、外交努力を重ね、平和的な解決への糸口を模索せねばならない。

読売新聞 2014年03月14日

クリミア危機 住民投票は新たな混乱を呼ぶ

実質的にロシアの軍事支配下にあるウクライナ南部クリミア自治共和国が、住民投票によってロシアへの編入を進めようとしている。

実施されれば、ロシアと米国・欧州との対立は決定的だ。ロシアは、ウクライナへの対処方針を見直すべきである。

クリミア自治共和国とセバストポリ特別市は、編入の是非を問う住民投票を16日に行う予定だ。住民の多数はロシア系のため、承認されるのは確実と見られる。

自治共和国議会は既に、編入の前提となる「独立宣言」を採択しロシア政府は宣言を支持した。

これに対して、日米欧などの主要7か国(G7)首脳は、共同声明で、住民投票はウクライナ憲法違反であり、投票結果を認めないとの方針を示した。

ウクライナ憲法は、領土変更には国民投票による承認が必要だと定めている。自治共和国だけの決定が無効なのは明らかだ。G7の主張は当然である。

声明が、クリミアのロシアへの編入を、他国領土の一体性を武力で脅かすことを禁じている国連憲章などの国際法に違反するとしたのも、もっともだ。

今回の問題の背景に、クリミアをウクライナから切り離すためには軍事力行使をためらわないロシアの強硬姿勢があるからだ。

ロシアは、「ロシア系住民の保護」を名目に、ウクライナ東部での軍事介入の可能性も示唆している。ロシア系といえどもウクライナ国民であり、派兵のための口実と取られても仕方ないだろう。

G7は、ロシアに対して、軍部隊の撤収と、ウクライナへの国際監視団の受け入れ、ウクライナ暫定政府との直接協議の3点に応じるよう提案している。ロシアは速やかに受け入れるべきだ。

このまま住民投票が実施され、編入へと発展すれば、米欧がロシアに対し、要人の渡航禁止や資産凍結などの制裁措置を実際に発動するのは避けられまい。

オバマ米大統領は、ロシアが態度を変えない限り、「国際法違反とウクライナ侵犯の代償を払わせる」と強く警告している。

ロシアも対抗措置を取るとしており、制裁合戦になることが懸念される。世界経済にも悪い影響が及ぶのは必至だ。

事態打開を目指す米露外相会談が14日に予定される。日本政府は谷内正太郎国家安全保障局長をロシアに派遣した。日本は、米欧と共に外交努力を続け、解決策を模索することが肝要である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1747/