東芝のデータ漏洩 日本の技術守る法整備を

朝日新聞 2014年03月19日

技術流出 「やり得」の流れを断て

東芝の最先端技術が、韓国の半導体大手SKハイニックスに流出した疑いが強まり、警視庁が強制捜査に入った。

対象となったのは、スマートフォンなどに多用されるデータ記録用の半導体「フラッシュメモリー」の研究データだ。東芝の提携先である米サンディスク日本法人の元技術者が在職中に東芝のサーバーからコピーし、転職先のSK社に提供したとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕された。

並行して、東芝は容疑者とSK社を相手取り、民事訴訟も起こした。損害額は1千億円規模とみられる。

容疑者は犯行を認めているという。有罪になれば、民事訴訟でも強力な追い風になる。

大事なのは、事実の解明と不当利得の回収である。秘密を盗むことも、盗まれた秘密を買うことも、損得勘定で割に合わない。「やり得」は通じない――という教訓を残さなければならない。

不正競争防止法は、利益を得るために盗まれた技術を使っていたなら、外国企業でも処罰の対象になる。不正を顧みず、カネにあかせて技術を買い集める風土があるなら、日本の官民が連携して是正を求めていく必要もあろう。

ましてやSK社は、次世代メモリーの開発では東芝と提携しており、パートナーの関係でもある。容疑者を厚遇で迎え、「訳あり」データを利用した経緯について、きちんと説明責任を果たすべきだ。

産業競争力を支える独自開発の技術が、退職者や転職者を介して韓国や中国に流出していることは、日本メーカーの地盤沈下の一因とされてきた。

そこに犯罪捜査のメスが入るのは極めてまれで、今回の事件も氷山の一角に過ぎない。

技術流出をとめるには、不正競争防止法の要件の緩和や厳罰化だけでは限界がある。

なにより、企業側が社内態勢を見直していかなければならない。技術者が目先の誘惑に流されないよう、やりがいを持ってもらう工夫とともに、不正の「やり得」を許さない自衛策の徹底が不可欠だ。

社員やOBと守秘義務契約を結んで情報の管理を厳重にし、コンピューターの操作履歴など証拠の保存も図る。そうした基本的な対策すら手が回らない企業がまだ多い。問題が起きても会社の世評を気にして泣き寝入りする例も少なくない。

ちぐはぐで及び腰な姿勢が不正を助長する。そんな認識を持ち、流れの根を断ち切る時だ。

読売新聞 2014年03月16日

東芝技術流出 日本のもの作りが脅かされる

東芝の最先端の半導体技術が、ライバルの韓国企業に流出していた。

日本のもの作りを支える“虎の子技術”をいかに守るか。海外流出を防ぐ対策の強化が求められよう。

東芝の提携先企業の元従業員が2008年、研究データを記録媒体で無断に持ち出し、韓国半導体大手「SKハイニックス」に提供した疑いが持たれている。不正競争防止法違反(営業秘密開示)容疑で警視庁に逮捕された。

狙われた技術は、デジタルカメラやスマートフォンなどに搭載されている主力半導体「NAND型フラッシュメモリー」の研究データである。

元従業員は持ち出し後、SK社に入社した。データ提供と引き換えの転職だったのか。警視庁は事件の背景、SK社の関与などを徹底的に究明してもらいたい。

NAND型フラッシュメモリー市場は急成長している。韓国サムスン電子が首位、東芝が2位、SK社は4位で、中国企業も追い上げており、競争が激しい。

そんな中、提携企業の元従業員が最先端技術を不正に持ち出し、ライバル企業に漏えいしたとすれば、日本企業の国際競争力の基盤を揺るがす事態と言える。

東芝は、被害は少なくとも1000億円に上るとして、元従業員とSK社に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

訴訟に持ち込めば、企業秘密が公になるリスクもある。だが、被害の甚大さや産業界に与える影響を考慮し、裁判所に厳正な判断を求めたのだろう。

新日鉄住金も、退職した元社員が高性能鋼板の最先端技術を韓国鉄鋼最大手ポスコに流出させたとして、巨額の賠償を求めて法廷で争っている。

中国、韓国企業などでは、技術者の引き抜きが過熱しており、日本企業の社員や退職者から情報を得ようとする動きが目立つ。

経済産業省が行った調査では、回答した3000社のうち、約1割の企業が「営業秘密の漏えいを経験した」とした。従業員に退職後の秘密保持を義務づけていた企業は半数にとどまり、企業の防衛策の甘さもうかがえる。

企業各社は改めて、最先端技術など営業秘密の社内管理体制を総点検するとともに、従業員のコンプライアンス(法令順守)の徹底を図らねばならない。

不正競争防止法の罰則が欧米などに比べて軽い点も課題だ。他国並みの重罰によって、犯罪を抑止する方策を検討すべきだろう。

産経新聞 2014年03月16日

東芝のデータ漏洩 日本の技術守る法整備を

技術立国である日本の将来を左右しかねない。この機に日本企業の先端技術を徹底して守る姿勢を示さねばならない。

東芝の提携企業の元技術者が、韓国企業に半導体データを不正に供与したとして、不正競争防止法違反(営業秘密開示)の疑いで逮捕された。

これまでも、日本企業の先端技術が海外に流出し、国際競争力の低下を招いていることが指摘されてきた。まず再発防止に向けて、関連法の整備、厳罰化に取り組む必要がある。

事件では、韓国SKハイニックスに転職した元技術者が、東芝が独自開発した「NAND型」と呼ばれるフラッシュメモリーの技術を流出させたとされる。

この半導体はスマートフォンなどに幅広く使われ、今や東芝の営業利益の多くを稼ぎ出す主力製品だ。東芝は元技術者の逮捕を受け、SK社に損害賠償請求も起こした。損害の総額は1千億円を下らないという。

経済産業省は日本企業の「虎の子」技術を守るため、不正競争防止法を段階的に強化してきた。しかし、企業に対する罰金は最高で3億円と、米国の3割強にとどまる。個人の罰金も最高1千万円で、上限がない米国などと比べて抑止が働きにくい。

とくに問題なのは、現行法では国外への不正持ち出しと国内流出の罰則に差がないことだ。米国やドイツ、韓国では、海外企業に秘密を漏らした場合のほうが罰金や懲役が重い。海外への不正な技術移転を防ぐため、国外流出に対する罰則強化が欠かせない。

産業界も技術漏洩(ろうえい)に厳しく対峙(たいじ)する姿勢を強めている。新日鉄住金が、韓国鉄鋼最大手ポスコに同社の電磁鋼板技術が不正に渡ったとして、1千億円の賠償請求を起こしたのもこの一環だ。

日本からの技術流出をこのまま放置すれば、国際競争力の低下に加え、産業空洞化の加速にもつながる恐れがある。

こうした技術流出は、日本企業を定年や中途で辞めた元社員が関与する場合が多い。退社時に秘密保持契約を義務づけるなど企業側も自社の技術・情報の管理を徹底しなければならない。

一方で、実績を挙げた技術者への待遇改善も検討すべきだ。そして技術者には、海外への技術流出は、日本そのものの衰退を招くことの自覚を強く促したい。

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