東芝の最先端の半導体技術が、ライバルの韓国企業に流出していた。
日本のもの作りを支える“虎の子技術”をいかに守るか。海外流出を防ぐ対策の強化が求められよう。
東芝の提携先企業の元従業員が2008年、研究データを記録媒体で無断に持ち出し、韓国半導体大手「SKハイニックス」に提供した疑いが持たれている。不正競争防止法違反(営業秘密開示)容疑で警視庁に逮捕された。
狙われた技術は、デジタルカメラやスマートフォンなどに搭載されている主力半導体「NAND型フラッシュメモリー」の研究データである。
元従業員は持ち出し後、SK社に入社した。データ提供と引き換えの転職だったのか。警視庁は事件の背景、SK社の関与などを徹底的に究明してもらいたい。
NAND型フラッシュメモリー市場は急成長している。韓国サムスン電子が首位、東芝が2位、SK社は4位で、中国企業も追い上げており、競争が激しい。
そんな中、提携企業の元従業員が最先端技術を不正に持ち出し、ライバル企業に漏えいしたとすれば、日本企業の国際競争力の基盤を揺るがす事態と言える。
東芝は、被害は少なくとも1000億円に上るとして、元従業員とSK社に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴訟に持ち込めば、企業秘密が公になるリスクもある。だが、被害の甚大さや産業界に与える影響を考慮し、裁判所に厳正な判断を求めたのだろう。
新日鉄住金も、退職した元社員が高性能鋼板の最先端技術を韓国鉄鋼最大手ポスコに流出させたとして、巨額の賠償を求めて法廷で争っている。
中国、韓国企業などでは、技術者の引き抜きが過熱しており、日本企業の社員や退職者から情報を得ようとする動きが目立つ。
経済産業省が行った調査では、回答した3000社のうち、約1割の企業が「営業秘密の漏えいを経験した」とした。従業員に退職後の秘密保持を義務づけていた企業は半数にとどまり、企業の防衛策の甘さもうかがえる。
企業各社は改めて、最先端技術など営業秘密の社内管理体制を総点検するとともに、従業員のコンプライアンス(法令順守)の徹底を図らねばならない。
不正競争防止法の罰則が欧米などに比べて軽い点も課題だ。他国並みの重罰によって、犯罪を抑止する方策を検討すべきだろう。
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