「川内」優先審査 原発を再活用する第一歩に

朝日新聞 2014年03月16日

原発優先審査 多重防護を忘れるな

原発再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が、新たな段階に入った。

九州電力の川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)に関する検討を優先し、審査書案をまとめることにした。新規制基準に照らして、現時点で適合に最も近いと判断したからだ。他の原発の審査からも職員を回して、集中的に作業する方針だ。

しかし「規制委の規制は最小限の要求」(田中俊一委員長)である。国際原子力機関(IAEA)が求める多重防護によって、大量の放射性物質をまき散らす過酷事故が起きても周辺住民を守れるようになったか。その点検が欠かせない。

川内原発は立地条件が他原発より有利だった。敷地内に問題となる断層がなく、周辺に大きな活断層は少ない。敷地は標高13メートルで、津波の心配も小さい。

九電は耐震設計の基になる基準地震動を2度にわたって引き上げた。福島第一原発の事故を踏まえ、事業者に自ら安全性を高める姿勢を求めている規制委のメガネにかなった面もある。想定地震の見直しを拒み続け、昨年9月まで動いていた大飯原発が優先審査に入らなかった関西電力と対照的である。

優先審査では、火山噴火の影響や、見直した基準地震動に照らした耐震性、過酷事故時の事業者の対応などを詳しく厳格に検討することが期待される。

だがそれだけでは不十分だ。

日本の原発規制は事故の前、「厳格な対策で、過酷事故が現実に起こるとは考えられない」と慢心していた。

IAEAが掲げる5層の多重防護のうち、外側の二つ、つまり第4層の「事故の進展防止と過酷事故の影響緩和」は事業者任せ、住民の避難計画など第5層の「放射性物質の放出による放射線影響の緩和」も名ばかりだった。

新基準で事業者の過酷事故対応は審査に組み込まれたが、事業者の枠を超える第4層と、第5層に対する規制委の取り組みは依然弱い。

朝日新聞の首長アンケートによると、川内原発30キロ圏の9市町はすべて避難計画をつくったという。だが、ほとんどの首長が「要援護者の避難支援策」や「地震、津波など複合災害時の対策」「避難時の渋滞対策」「安定ヨウ素剤の配布」などを課題に挙げている。

米原子力規制委員会のヤツコ前委員長は「避難計画が不十分ならば、米国では原発停止を指示するだろう」という。

使える避難計画をつくることは事故の最低限の教訓である。

毎日新聞 2014年03月17日

川内原発の審査 再稼働には課題山積だ

原発再稼働に向けた安全審査で、原子力規制委員会は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の審査を優先して進めることを決めた。新規制基準に適合する初の原発となることが有力になった。

新基準は世界で最も厳しい水準にあるとして、政府は審査に合格した原発の再稼働を進める考えだ。しかし、規制委の審査のみを根拠にすれば、3・11以前の原発安全神話に逆戻りしてしまう。規制委が判断するのは原発が基準に適合しているかどうかだけで、合格しても事故のリスクはゼロにはならないからだ。

事故への備えはできたのか。事故が起きた時の責任を誰がとるのか。事故のリスクを許容し、再稼働に踏み切るのはなぜか。地元の同意をどう得るのか。政府は再稼働の手順を明示し、これらの問いに対する国民への説明責任を果たす義務がある。

昨年7月に施行された原発の新規制基準では、地震や津波対策が強化され、テロも含めた過酷事故への備えが義務付けられた。8電力会社の10原発17基が安全審査を申請している。川内原発1、2号機はこれまでの審査で初めて、地震や津波の想定が妥当だと判断された。

規制委は審査担当者を川内原発に集中し、評価結果をまとめた審査書案を作成、公表する。国民からの意見公募などを経て、審査を終える。完成した審査書は他の原発審査のモデルとしても活用する。

新基準施行から8カ月が過ぎても合格原発が出ないことについては、電力会社ばかりか政府内にもいらだちがあるようだが、遅れは電力会社の準備不足も要因で、規制委は厳格な審査を徹底すべきだ。その際、自らの取り組みを国民に分かりやすく説明していくことは不可欠だ。

審査後も再稼働に向けてはまだ課題が山積している。最も重要なのは事故に備えた避難計画の整備だ。

川内原発では、昨年末までに原発30キロ圏内の9市町(人口約22万人)が避難計画を策定したものの、訓練を重ねて実効性を確認したとは言い難い。高齢者など災害弱者への対応も十分ではない。これらは他の原発にも共通する課題だ。第三者機関による避難計画の評価が必要ではないか。

政府は再稼働について「立地自治体等関係者の理解と協力を得る」とする。だが、立地自治体に限らず、避難計画策定を義務付けられた30キロ圏の周辺自治体の意見を尊重するのは当然のことだ。

安全審査に合格した原発を再稼働するばかりでは、安倍政権が掲げる「可能な限り原発依存度を低減させる」という目標は達成できない。

政府は原発再稼働に際し、脱原発の目標を示すべきである。

読売新聞 2014年03月15日

「川内」優先審査 原発を再活用する第一歩に

原子力規制委員会が、再稼働に向けて優先的に安全性を確認する原子力発電所として、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)を選んだ。

原発の長期停止を脱する一歩としなければならない。

規制委は、10原発17基の安全審査を進めている。川内原発は、その中で初の「合格」候補となった。今夏にも再稼働に向けた法的手続きが終わる見通しだ。

東日本大震災の影響で、国内の全48基の原発が停止する中、代替の火力発電用燃料費が増加し、電気料金が上がった。再値上げを検討中の電力会社もある。産業や国民生活への影響が深刻であることを軽視すべきではない。

規制委は昨年7月、東京電力福島第一原発事故を踏まえた原発の新規制基準を策定した。それによる安全審査は、「半年程度で終わる」との見通しを示していた。

しかし、規制委と電力会社の間で、必要なデータの種類や、データの解釈などを巡って見解が食い違い、審査終了の見通しが立たない状況が続いていた。

規制委が先月、優先審査の仕組みを打ち出したのは、現状打開の観点から評価できる。

想定すべき地震の規模などで電力会社の検討内容が適切と判断した原発については、優先的に審査官を配置し、「合格証」に相当する審査書作りを急ぐ。早ければ来月にも審査書案をまとめる。

規制委と九電は、効率的に審査を進めてもらいたい。

懸念されるのは、規制委が、審査書案の段階で意見公募や公聴会の実施を予定していることだ。

膨大な意見への対応に相応の人員を割くことになり、肝心の川内原発の審査が手薄にならないか。川内原発以外の原発の審査にも、しわ寄せが出るだろう。

そもそも、自らが科学的観点からまとめた審査書案に、改めて外部の意見を求めるのは、規制委の信頼を損なうものだ。

規制委の姿勢に対しては、自民党内にも批判が多い。党原子力規制プロジェクトチームからは、「裁判官が判決文の案に意見を募集するようなもの」「判断の責任から逃げている」といった疑問の声が上がっている。

規制委は、意見公募、公聴会の実施を取りやめるべきだ。

川内原発の地元では再稼働を期待する声が多い。周辺自治体では避難計画の策定も進んでいる。政府は、九電とともに再稼働の重要性について、丁寧に理解を得ていかねばならない。

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