春闘相場に影響を与える製造業大手は、久しぶりに大幅な賃上げを労働組合に回答した。
家計への恩恵を大きくするには、非製造業などに賃上げをいかに波及させるかが課題となる。
トヨタ自動車をはじめ自動車大手と、日立製作所など電機10社は、2008年秋のリーマン・ショック以来、6年ぶりに基本給を底上げするベースアップ(ベア)の実施に踏み切った。
日産自動車は満額回答の3500円、トヨタは2000年以降で最高の2700円だった。鉄鋼大手の新日鉄住金やJFEスチールのベア回答も14年ぶりである。
今春闘は、デフレ脱却を目指す安倍首相が主導して、初めての政労使協議が行われ、政府が経営側に賃上げを要請するという異例の展開になった。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円安の追い風などで輸出企業の業績は軒並み、V字回復している。
各社は長年、厳しい経営環境を理由に賃金を抑制してきたが、好業績を賃上げに反映させることが適切と判断したのだろう。
企業収益拡大を賃上げにつなげて個人消費をテコ入れし、景気拡大を図る。各社が賃上げで足並みをそろえたのは、「経済の好循環」の実現に向け、政府と連携する姿勢を明確にしたとも言える。
4月1日には消費税率が引き上げられ、景気腰折れが懸念される。賃上げが消費増税後の景気を下支えする効果に期待したい。
ただ、景気回復傾向が、ようやく鮮明になってきたとはいえ、課題は山積している。デフレ脱却の道はなお険しい。賃上げの裾野を中小企業や地方にも拡大させる必要がある。
政府は法人税減税や大胆な規制緩和の実施など、アベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略をさらに具体化し、企業経営を後押しすべきだ。成長分野へ労働力を移動させることも大切である。
日本経済再生に向け、企業各社の「攻めの経営」も問われる。
デフレが深刻化したのは、企業各社の労働生産性が向上し、収益が上がっても、内部留保をため込みがちで、賃上げや積極的な設備投資を行わなかったからだ。
日本経済が低迷する中、正社員が減り、賃金の安い非正規労働者が増加していることも看過できない。労使は非正規社員の待遇改善や、正社員への転換、さらなる雇用拡大などに連携して取り組むことが求められよう。
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