JR北海道の新社長に、元常務の島田修氏(56)が就くことが固まった。事実上の国有企業ではあるが、政府主導によるトップ人事は異例のことだ。
2年前まで経営陣にいた島田氏の起用を疑問視する声もある。会長に就く予定のJR東日本元常務の須田征男氏(70)は技術経験が豊富だが、会社再建の手腕は未知数だ。
しかし事態は急を要する。2人を中心に、改革を断行するほかない。安全と信頼を取り戻すため、経営刷新に全力をあげてもらいたい。
泥沼はあまりに深い。線路の点検データの改ざん問題では、北海道警が強制捜査に入った。運輸安全委員会によると、貨物列車が脱線した現場では少なくとも3年にわたって線路の補修がなく、基準を大幅に上回るずれも放置されていた。
鉄道のプロの現場がなぜこれほど荒廃したのか。徹底的にメスを入れなければならない。
現経営陣も現場社員との「ひざ詰め対話」を進めてきたが、結実しなかった。島田氏は就任後、安全を一から見直すべきだ。そのためには外部専門家の視点が不可欠で、国も1月、第三者委員会の設置を求めた。早急に発足させる必要がある。
JR北には四つの組合がある。社員のほぼ9割が所属する最大労組と他の労組の対立が職場に深刻な影を落としているとの見方は根強い。
島田氏は元労務担当で、交渉で見せた強い態度から、労組側には警戒感も見える。ただ、JR北の安全確保と信頼回復は、労使共通の願いだろう。建設的な議論ができるよう、島田氏に主導的な役割を望みたい。
JR北が異常事態に陥った根本原因にも目を向けてみたい。いびつな経営基盤の問題だ。
国鉄の分割民営化にあたり、北海道、四国、九州のJR3社は鉄道事業での赤字が確実だった。そこで国は計1兆円余りを基金に出し、高利回りで赤字を穴埋めする仕組みを作った。
ただバブル崩壊後、金利が下がり、運用益は激減した。鉄道収入も伸び悩み、JR北は行き過ぎた合理化にひた走った。
国は追加支援を小出しにしてきたが、分割民営化からまもなく27年たつ。抜本的な見直しが必要だろう。
黒字かどうかは金利次第という経営は不安定だし、そこを直さずに、「地域の足を守る」との使命感の維持と言っても容易ではない。公共交通としてどのように支えるのが適切なのか。国はJR各社や専門家を集め、検討を始めるべきだ。
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