中国の習政権 改革の名に値するか

朝日新聞 2014年03月07日

中国の習政権 改革の名に値するか

「凝り固まった既得権益の垣根を突き破る」。中国の李克強(リーコーチアン)首相が、そう意気込んだ。

北京で開かれている全国人民代表大会の主題は「改革」だ。 市場と政府の関係を見直し、市場の役割を強めるという。

だが、中国指導部が迫られている改革は、経済運営や行政の仕組みだけで済むのか。一党支配の権威主義体制そのものを変革する覚悟を持たない限り、いずれ矛盾の拡大は抑えきれなくなるのではないか。

李首相は「背水の陣で一戦を交える気概」を強調した。改革の方向性は正しいにせよ、中身は遅ればせながらの民間活力の再導入にすぎない。

わかりやすい例が銀行業だ。「民間資本による銀行の設立を着実に進める」と語った。

確かにこれまで民間銀行の新設は認められていなかった。効率的な金融市場が育たず、規制の外でシャドーバンキング(影の銀行)が肥大化した。

民間銀行設立案は10年前からあった。前政権が何もできなかったのは、国有銀行を中心とする既得権益層の抵抗が大きかったからだ。

一党支配体制は意思決定と実行力で自由民主主義体制より優れているという説がある。だが現実には、共産党政権も、大きくかじを切る難しさは変わらない。党を分裂させるわけにいかない力学が強く働くからだ。

習近平(シーチンピン)政権下では、前政権まで首相に任せていた経済改革の責任を習氏自身が背負い、指導チームのトップに就いた。

その手法は強権的だ。公務員のぜいたくな宴会を禁じ、「反腐敗闘争」で多くの党・政府幹部を追い落としている。

各政府部門の予算公開も進めるという。行政の透明化は一歩前進だが、それは納税者の見地よりも、むしろ、上から役人を監視するためだ。

根底にある発想は、あくまで一党支配を延命させるねらいだ。メディアの統制と政治活動家への弾圧を厳しくしているのはその証左だろう。

市場経済化とともに思想の幅も広がっている国民が、そんな党優先の政治にいつまで黙っているだろうか。

昨年、市民の権利を主張する「新公民運動」の主導者の一人として弾圧された王功権氏は、投資家として名をはせていた。国民の願いはもはや小手先の制度変更ではなく、政治改革だ。

李首相は「我々は人民の政府だ」とも語った。ならば、国民の自由な発言と政治参加を本気で考えたらどうか。それこそ、改革の名にふさわしい。

毎日新聞 2014年03月06日

中国全人代 改革すたれ軍拡栄える

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が開幕した。李克強首相が政府活動報告を行った。首相は、7.5%という成長率を目標として示す一方、軍備増強を強調した。

世界の関心は中国経済が安定成長を続けるか、失速するかに集まっている。楽観論は多いが、前提は中国が大胆な経済改革を実行することだ。改革なくして中国の安定なしだ。だが改革の実権が昨年、李首相から習近平国家主席に移った。

昨年の全人代では、首相に就任したばかりの李氏が国有企業改革などの改革に「壮士断腕」の決意を語った。毒蛇にかまれた指は自ら腕ごと切り落とす。李首相の改革姿勢は「リコノミクス」と称賛された。ところが中国共産党は昨年11月、党中央委員会総会で総書記の習主席を組長にした全面深化改革指導小組(深改組)を新設した。改革政策の立案権限は党に移り、2人の副組長には保守派が任命された。同時に、安全保障と治安を統括する国家安全委員会という新組織を設立した。

今年1月、李首相も深改組副組長に加わったが、実権は習主席にある。習主席は最近「改革でおいしい肉は食べ尽くした。あとは硬い骨ばかり」「ひっくり返るようなことは避ける」と語った。

中国の改革派は、市場経済化を進め、民間企業の雇用を増やし、社会保障制度を作ろうとしている。保守派は、共産党幹部やその子女が経営する大型国有企業の市場独占体制を守りたい。この勢力が「権益集団」だ。中国の改革は権益集団の抵抗を排除できるかどうかにかかっている。たしかに習政権は石油系の大型国有企業出身幹部を次々に汚職容疑で逮捕したが、勝負はその先の制度改革にある。

国家安全委員会を作ったのは、経済の先行きに危惧があるからではないか。「内憂」が危険水域に達したとき、国民の目を「外患」に向けるのは珍しくない。今年の全人代には、12月13日を南京大虐殺公式追悼の日に、9月3日を抗日戦勝記念日にする法制化案が出ている。毎年、柳条湖事件の9月18日に国恥記念日の行事がある。今年からは秋冬、反日行事が続く。

すべて中華民国の時代に起きた事件だ。中華民国を武力で倒した中国共産党が、なぜ中華民国時代を記念するのか。歴史認識だけではあるまい。ナショナリズムを利用した国内引き締めの意図を疑う。経済成長が鈍っているのに、国防費は12%増と群を抜く。習政権は「富国強軍」を掲げ、李首相も報告に日本の歴史認識批判を入れた。改革の本道は富を社会保障に回し強い民をつくる「富国強民」だ。中国の改革の先行きを危惧する。

産経新聞 2014年03月09日

中国国有企業 既得権益の「岩盤」を崩せ

中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で、李克強首相は国有企業改革を強く打ち出した。

失速懸念すらある中国経済を安定成長に導くのであれば、市場を独占する計画経済時代さながらの国有企業を、どんな痛みを伴おうと改革していかなければならない。

「国進民退(国有企業ばかりが前進し民間企業は後退する)」構造は経済の活力を奪う。メスを入れるのは当然だ。

問題は、その最大の障害が当の共産党内に潜んでいることだ。

有力国有企業のトップの大半は党幹部やその子弟、親類縁者が占める。民間資本の参入を認めるといった改革を断行するには、既得権益にしがみつく抵抗勢力との戦いを避けて通れない。

李氏は、全人代冒頭の「政府活動報告」で、「現代企業制度と企業統治を確立して健全なものにする」と改革意思を強調し、金融、石油、電力、鉄道、電信、資源開発の各分野を挙げた。

このうち、まずは、汚職容疑で調査中とされる党最高指導部元メンバーの周永康氏と、氏が率いた「石油閥」の利権構造を暴き、石油関連市場を独占する国有企業の改革に手を付けることだ。

国有の石油大手は例えば、排ガス規制の一環としてガソリン品質基準を強める規制を、設備投資の負担増が収益を圧迫するとして、何度も骨抜きにしてきた。

それも原因で、PM2・5などによる深刻な大気汚染を招いてきた。環境悪化は操業短縮・停止や物流の妨げなどにつながり、経済成長の足も引っ張っている。

「石油閥」の抵抗を排除できるかどうかが、国有企業の「岩盤」崩しの試金石となろう。

それには、経済担当の李氏だけでなく、習近平国家主席が党総書記として改革の先頭に立つ必要がある。昨秋の党中央委員会第3回総会(3中総会)で国有企業改革を掲げたのは習氏ではないか。

改革による安定成長には時間もかかる。成長率目標の7・5%を達成しようと、再び公共投資などのカンフル剤に手を出せば、30兆元(約500兆円)余りに膨れ上がった「影の銀行(シャドーバンキング)」の灰色融資を一段と悪化させないかも心配だ。

習-李体制は安定成長を確保すると同時に、改革でも従来のブレーキからアクセルに踏み替えるという難題を迫られている。

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