オウム真理教が引き起こした凶悪犯罪を、裁判員が厳しく指弾した。
17年近くの逃亡生活の末に出頭し、逮捕された教団元幹部・平田信被告の裁判で、東京地裁は懲役9年の判決を言い渡した。
オウム事件の裁判で裁判員が審理に加わったのは初めてだ。
1995年に起きた目黒公証役場事務長の仮谷清志さん拉致事件や都内のマンション入り口爆破事件など、起訴された3事件すべてに被告が関与したと認定した。
事件から既に19年が経過した。証人が当時の記憶を喚起するのが難しい中、裁判員が多くの証言を照らし合わせ、その一つひとつの信用性を慎重に吟味した結果と言えるだろう。
平田被告は「事件の計画を知らされていなかった」と起訴事実の一部を否認していた。
判決は、被告への指示を具体的に語った教団元幹部の法廷証言などを根拠に、「被告の弁解は信用できない」と結論づけた。
犯行は組織的かつ計画的で、被告の長期の逃亡は社会に不安を与えた。懲役9年の重い刑を選択したのは、こうした点を重視したからだ。うなずける判断である。
公判で、事件に関与した死刑囚3人の証人尋問が行われたのは、極めて異例だった。
中川智正死刑囚は仮谷さんを拉致した状況を詳述した。事件の全体像を解明する観点から、公開の法廷における死刑囚の証言は一定の意味があったのではないか。
オウム裁判では初めて被害者参加制度も利用された。仮谷さんの長男は、平田被告に直接質問したことで、「被告の気持ちを感じ取れた」と語っている。2008年に導入された制度の意義が再確認されたと評価できよう。
地下鉄サリンなど一連のオウム事件では29人もの命が奪われ、6000人を超える負傷者が出た。平田被告のように、多くの信者が教祖の松本智津夫死刑囚の指示に従って、犯罪に手を染めた。
教団は今も「アレフ」「ひかりの輪」と名称を変えて、活動を続けている。事件を直接知らない若い世代が入信していると指摘される。引き続き、公安調査庁などによる厳しい監視が必要だ。
判決後の記者会見で、裁判員の一人は、法廷で元信者らに接した感想として、「思考が停止していた感じがした。オウムは本当に恐ろしいと思った」と語った。
一連の事件を風化させてはならない。今回の裁判をオウム事件を問い直す契機としたい。
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