米国防計画 「アジア重視」の実効性高めよ

毎日新聞 2014年03月07日

国防政策見直し 米国の存在感維持を

米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長が、やや悲壮な感じで語っている。米軍は2020年において、まだ世界最強だろうが、装備近代化を図る敵対勢力の前に米軍の戦闘システムはますます脆弱(ぜいじゃく)化するだろう−−。

米国防総省が公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)である。軍事に膨大な予算をつぎ込む中国を念頭に置いた発言だろう。このままでは、同盟国を守り世界の紛争を防ぐ「米軍特有の義務」の遂行が難しくなるとの危機感もにじむ。

大きな理由は予算不足だ。15会計年度の国防予算は前年度比約6%減の約50兆円。しかも昨年発動された歳出強制削減措置に基づき、国防予算は10年間で約50兆円削られる。デンプシー議長は報告書で、この措置の見直しを議会に求めているのだ。

イラクやアフガニスタンでの戦争で疲弊した米国の財政難は深刻だ。4年前のQDRは、アジアと中東などで起きる紛争で勝利をめざす米軍伝統の「二正面作戦」を時代遅れとみなし、2年前の「新国防戦略」には米軍縮小と「アジア太平洋重視」が盛り込まれた。「正面」の数が2から1に減ったのである。

オバマ政権で2回目のQDRは、この二つの報告書を踏まえている。日本が注目すべきは、今回QDRがアジア太平洋重視に基づき、20年までに海軍の艦船・部隊の6割を同地域に集める方針を打ち出したことだ。日本周辺の海軍力も増強される。尖閣諸島周辺で中国との摩擦が続く日本には心強い措置といえよう。

北朝鮮がミサイルの射程を伸ばすにつれて、米国が自国への脅威と明確にみなし始めたのも、日本にはプラスだ。北朝鮮や中国の脅威に加え、激化するサイバー攻撃への対処でも日米協力は欠かせない。日米防衛協力の指針(ガイドライン)再改定作業などを通じ、米軍とのより効果的な協力関係を検討すべきだろう。

ただ、米陸軍の兵員が57万人から13万人近く減らされて第二次大戦後では最低レベルとなり、11隻体制の空母が1隻減る可能性もあるというのは抑止力の点で不安が残る。ウクライナに対するロシアの露骨な介入、中国による防空識別圏の一方的な設定、不穏な中東情勢。こうした問題が生じる背景にオバマ政権の「不介入」主義を指摘する声もあるからだ。

予算削減は米国民の問題であり、他国が口を出す筋合いではなかろう。米国は「世界の警察官」ではないというオバマ政権の事情も分かる。だが、軍事力とは限るまい。外交も含めた「米国の力」が求められているのではないか。国防予算は削ろうと、世界の平和と安定のために米国のよき存在感は保ってほしい。

読売新聞 2014年03月06日

米国防計画 「アジア重視」の実効性高めよ

国防予算削減を進める米国が、「アジア重視」を堅持する国防戦略を打ち出した。中国の海洋進出への対抗姿勢を示したことを評価したい。

米国防総省が、オバマ政権で2度目の「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)を発表した。

財政難や、アフガニスタンでの戦争に区切りがつくことを踏まえ陸軍兵力を第2次大戦後の最低水準に縮小する一方、特殊部隊やサイバー対策を強化する。安全保障環境の変化に応じて機動力や技術力を重視するのは妥当だ。

アジア政策では、地域の平和と安定が、米国の「中心的な国益になりつつある」として、軍事的プレゼンス強化の方針を示した。

中でも、2020年までに海軍の装備の6割を太平洋地域に配備すると明記したのは重要である。日本における海軍力も増強するという。

在沖縄海兵隊などのグアム移転を進め、空軍の偵察能力を高めるとした点も注目される。

こうした一連の措置は、身勝手な中国の海洋進出を抑止するためには、米国の存在感を改めて示すほかないと考えたからだろう。

実際、QDRは中国について、海洋で米軍の接近を拒む戦略の展開や、軍の透明性欠如、サイバー・宇宙関連技術の向上などを指摘し、強い警戒感を示している。

北朝鮮の核・ミサイル計画を懸念して、日本に2基目の早期警戒レーダーを配備するとした。不安定な金正恩政権を「脅威」と見ているためである。

米国の「アジア重視」戦略の実効性を高める上で、日本も相応の役割を果たさねばならない。

日米同盟を強化するため、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を急ぐべきだ。

年末に予定される日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定によって、平時から自衛隊と米軍がより密接に連携する体制を構築することも必要である。

気がかりなのは、アジアにおける米軍の抑止力が将来も継続するかどうか、不透明なことだ。

米国の国防予算は10年間で約5000億ドル(約51兆円)もの削減を義務づけられている。

QDRによると、このまま削減が続けば、現在の空母11隻態勢を維持できなくなり、米軍全体の危機対応能力が低下するという。

米軍のアジアでの抑止力を将来どう維持していくのか。QDRは日本や豪州、韓国などに「補完的指導力」を期待している。同盟諸国の知恵と能力も問われる。

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