アジア太平洋で覇権を握ろうと、中国の習近平政権が急速な軍備増強を進めている。中国脅威論にも拍車がかかろう。
北京で全国人民代表大会が開幕した。中国政府が公表した今年の国防予算は、前年実績比12・2%増の約8082億元(約13兆円)となった。4年連続2桁の伸びで、日本の防衛費の3倍近くに膨れあがった。
今回は、習国家主席と李克強首相が主導する初めての全人代だ。軍備増強への意思を露骨なまでに示したと言える。
中国の国防費は、一段と不透明になった。昨年まで含まれていた地方分予算が、今年は除外されたためだ。研究開発費などを含めた実際の国防予算は、公表分の2倍程度に上るとの見方が強い。
菅官房長官が、「国際社会の懸念事項になっている」として、中国に透明性の向上を働きかける意向を示したのは当然である。
李首相は、施政方針演説にあたる政府活動報告で、「海洋強国の建設に大いに力を入れる」と強調した。「平時における戦闘への備えと、国境・領海・領空防衛の管理を強化する」とも宣言した。
東シナ海や南シナ海で、権益拡大を図る意図が読み取れる。
日本は、尖閣諸島周辺での領海侵入といった、中国の力による現状変更の試みが長期化することを覚悟せねばなるまい。同時に、艦船や航空機の偶発的衝突を避けるための対話も必要となろう。
一方、李首相は、「中国は、戦後の国際秩序を守り抜く。歴史の流れを逆行させることは、決して許さない」と述べた。
安倍首相の靖国神社参拝を念頭に置いた日本批判だとしたら、見当違いだ。一方的な防空識別圏設定などで、戦後秩序を揺さぶっているのは、むしろ中国である。
首相報告は、難しい内政運営も浮き彫りにした。今年の経済成長率の目標を、3年連続で7・5%に据え置いたのは、景気の先行きに不安が広がる中で、安定成長を維持したい姿勢の表れだ。
国民の反感が強い汚職について「いかなる腐敗分子も容赦しない」と断じ、大気汚染対策では石炭ボイラー廃棄などの数値目標を示した。具体的成果が問われよう。
雲南省で無差別大量殺人事件が起こるなど、社会に動揺が広がっている。李首相は、治安対策をさらに強める考えを示した。
国内での引き締めは、国民の不満をそらすための対外強硬姿勢につながりやすい。日本も、その動きを注視しなければならない。
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