日朝協議 「対話と圧力」を緩めるな

朝日新聞 2014年03月05日

日朝協議 したたかに対話重ねよ

日本人の遺骨返還問題を話し合う日本と北朝鮮の赤十字協議と並行して、両国外務省の課長が中国・瀋陽で会談した。

非公式とはいえ、1年4カ月ぶりの政府間協議が実現した。

前回協議は、北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験で頓挫したままだった。

この国は外交で奇手を繰り出し、軍事で挑発を重ねるのが常である。だから、日本は米韓とともに、対話と圧力の両構えで臨むことを基本としてきた。

外交の振り子は久しぶりに、圧力一辺倒から対話へと向かう兆しが出てきたわけだが、細心の注意と準備が必要だろう。

ひとまず今後も北朝鮮を突き放さず、だが、のみ込まれることもなく、根気強く説得する作業を覚悟せねばなるまい。

日本と韓国は来年、国交正常化50年を迎えるが、日朝間にはいまだ国交がない。隣同士なのに異常というほかない。

だが、とくに拉致問題について北朝鮮の態度には誠意がないままだ。核開発も続けている現状では、国交正常化を求める機運も生まれない。

そのなかで芽生えた対話の動きをどう生かすか。まず肝心なのは、真剣に関係改善の歩を進める用意があるかどうかの意思確認と環境づくりであろう。

現実的には、協議にかける日朝の思いはかけ離れている。

拉致問題や核・ミサイル問題を論点としたい日本に対し、北朝鮮側は制裁緩和や支援の取りつけを促すねらいだ。

拉致問題について北朝鮮は08年、いったん再調査を約束したが、日本の首相交代を受けて棚上げし、その後はまた「解決済み」と後退させている。

北朝鮮は今後も再調査をちらつかせて日本側の譲歩を引きだそうとするだろう。

日本政府には、その戦術を見通したうえで、北朝鮮を要求に応じざるをえない状況に導くような巧みさが求められる。

そのためには、米国や韓国との歩調合わせが欠かせない。

北朝鮮は最近、韓国にも対話攻勢をしかけている。日韓への秋波の裏には、最重視する交渉相手の米国を直接協議に誘い出したい思惑があるはずだ。

日米韓が足並みを乱せば、北朝鮮を利する。だが、韓国には今の日本は独走しかねないと警戒する声がある。それは安倍政権と朴槿恵(パククネ)政権との距離感がもたらす、すきま風といえよう。

日韓、日米の意思疎通を緊密にし、北朝鮮に付け入る隙をみせてはならない。したたかに、複眼的な対話を進める日本の外交力が問われている。

産経新聞 2014年03月05日

日朝協議 「対話と圧力」を緩めるな

日本と北朝鮮の政府間協議が非公式な形ながら1年4カ月ぶりに行われ、日本側は拉致問題を提起した。

中国の瀋陽で開催された日本人の遺骨返還問題に関する日朝赤十字会談で、同席した双方の政府当局者が別室で会ったものだ。被害者救出のため、当局者同士の話し合いは欠かせない。こうした機会を、膠着(こうちゃく)状態にある拉致問題の前進につなげてもらいたい。

もとより、相手は核開発を進め、国際社会への恫喝(どうかつ)を繰り返す独裁国家だ。国際世論の喚起を通じた圧力を緩めてはならない。

北朝鮮は今年に入り、韓国への対話攻勢も強めており、先月は約3年ぶりの離散家族再会事業を実施した。だが、日本人の遺骨返還も離散家族再会も人道目的の事業であり、北朝鮮が協力するのは当然のことだ。経済的な「見返り」を求められても、軽々に応じるべきではない。

北朝鮮が、核・ミサイル開発を放棄するそぶりすら見せないことを忘れてはならない。国際社会は対話と圧力を通じ、北朝鮮に非核化に向けた具体的行動を求めていくべきだ。

それまでの間、国連安保理決議などに基づく経済制裁を着実に履行していかなければならない。

国連人権理事会の調査委は拉致を含む北朝鮮の人権侵害を「人道に対する罪」と断じる報告書を公表した。17日に理事会へ提出される予定だ。北指導部の責任を追及する決議を採択すべきだ。対話を促すための圧力も重要となる。

決議採択には、日本、韓国、タイの拉致被害者家族らからも期待が表明されている。

横田めぐみさん=拉致当時(13)=の母親の早紀江さん(78)は「ここをきっかけに、何か動いてほしいと願っている」と語った。政府は引き続き全力で拉致問題にあたってもらいたい。

何よりも、北朝鮮に「日本人拉致問題は解決済み」という主張を撤回させ、拉致問題の再調査を行わせることが必要だ。

現在、実施中の米韓合同軍事演習をにらみ、北朝鮮は日本海に向けて弾道ミサイル数発を繰り返し発射した。落下地点近くを航行する航空機や船舶の安全に影響が出かねず、政府が厳しく抗議したのは当然だ。北朝鮮の本質は変わっておらず、軍事挑発への備えも怠ってはならない。

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