朝日新聞 2014年03月08日
ウクライナ危機 領土併合は認められぬ
「国境」とはなんだろう。
国が主権の及ぶ範囲を人為的に定めたものにすぎない。現実には地球の多くの地で、同じ民族の人びとが国境をまたいで暮らしている。
国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいるからといって、「そこもわれわれの領土だ」と主張すれば、どうなるか。未曽有の混乱と争いが世界規模で広がるのは目に見えている。
だからこそ、国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的な共存を図ってきたのだ。
ウクライナ南部クリミア自治共和国の議会が、ロシアへの帰属の是非を問う住民投票を16日に行うと一方的に決めた。
このクリミア半島では、ロシア系住民が6割を占めている。ロシアへの編入を過半数が支持するのは間違いない。
半島はすでにロシアの軍事的な掌握の下にある。プーチン大統領は「住民が自らの将来を決める」と言うが、本音は「民族自決」に名を借りて自国に併合する思惑ではないか。世界ではそんな疑念が膨らんでいる。
そうであれば国際ルールに正面から挑む重大な過ちであり、到底認めるわけにいかない。
事態打開のためにロシアがすべきことは、まず軍事的な圧力をやめ、ウクライナの新政権と対話の席につくことである。
「ロシア系住民の保護」が必要というならば、米欧などと手を携えて「国際監視団」を派遣すればよいことだ。
米国と欧州連合(EU)が相次いでロシアに対し制裁を発動したのは、やむをえまい。半島の実効支配から併合へと突き進む暴挙は座視しない。その明確なメッセージを結束して送り続ける必要がある。
欧州にとって、ロシアへの制裁は苦しい決断だったはずだ。ロシアの天然ガスを買い、ロシアンマネーを受け入れ、ロシアに武器などを売ってきた。対ロ関係の悪化は、経済的に欧州自身に痛手となる。
だが、ロシア経済も欧州依存が高まっている。欧米による制裁は、長期的にはロシア側の代償をより高くし、説得の効果を生むと踏んだのだろう。
それだけ欧米の危機感は強い。このまま半島のロシア化が進めば、石油や天然ガスのパイプラインが走るこの地域が「火薬庫」になりかねない。
国家の領土保全をめぐる世界秩序が危機に瀕(ひん)し、世界経済までも人質になりかねない事態である。日本にとって決して対岸の火事ではあり得ない。
|
毎日新聞 2014年03月08日
露クリミア介入 国際監視団受け入れよ
ウクライナ南部のクリミア自治共和国で、議会がロシアへの編入を求める決議を採択し、その是非を問う住民投票を3月16日に実施することを決めた。これに呼応してロシア下院は編入手続きを簡素化する法案の準備に着手した。クリミアでは人口の6割がロシア系住民で、住民投票が実施されればロシアへの編入が承認される可能性が高い。
しかし、武装勢力が議会周辺など要所に展開し、冷静な議論が封じられた異常事態の中である。ロシア編入への動きを主導するクリミア自治共和国政府をウクライナの新政権は認めていない。国家主権を無視した国境線変更の試みは許されない。
ロシアは、2月の政変で発足したウクライナ新政権を、非合法な権力奪取だとして認めていない。クリミアの「同胞」の要請を理由に介入することで、親欧米のウクライナ新政権に揺さぶりをかけている。
こうしたロシアの姿勢に反発し、オバマ米大統領はロシア政権幹部への査証(ビザ)発給停止などの制裁発動をプーチン大統領に通告した。ロシアとの経済的な相互依存の強さから制裁をためらっていた欧州連合(EU)も段階的な制裁を決めた。ロシアの出方次第では今後、ロシア政権幹部の資産凍結や経済制裁に踏み切ることも視野に入れている。
欧米は同時に、対話による解決も模索し、ロシアにウクライナへの国際監視団の派遣受け入れやウクライナ政権との直接協議を求めている。ロシアは拒否しているが、対話にはなお応じる姿勢を見せている。
日本は、北方領土交渉やエネルギー問題への影響からロシアとの関係悪化を望んでいない。しかし、ロシアが武力による威嚇で国家主権を侵害することには、断固として反対の姿勢を示し、欧米と協調してプーチン大統領の説得に当たるべきだ。
ロシアが軍事的な圧力でクリミアを掌握したことは明白だが、プーチン大統領は、クリミアへの軍投入を否定し、展開しているのは地元の武装勢力だと主張している。それならばまず、疑念を晴らすためにも国際監視団の受け入れに応じるべきだ。また、ウクライナ新政権を認めないのであれば、いたずらに緊張を高めず、5月に予定されるウクライナの次期大統領選挙の結果を見守ってほしい。独自の論理で自身の行動を正当化するのではなく、ウクライナの危機収束のため、国際社会の懸念に応えて協力すべきだ。
クリミアに近いロシア南部のソチでは、16日までパラリンピックが開かれる。ソチ五輪を成功させたロシアにとって、パラリンピックを国際的孤立と緊張状態の中で開催するのは決して本望ではないはずだ。
|
読売新聞 2014年03月07日
クリミア情勢 国際圧力でロシア軍撤収迫れ
ロシアがウクライナのクリミア自治共和国を軍事的に掌握した。他国の主権を侵害したロシアに対し、国際社会は圧力を強めねばならない。
ロシアは直ちに展開した部隊を撤収すべきである。
ケリー米国務長官はロシアのラブロフ外相とパリで会談した。ウクライナ政変後初の米露外相の直接交渉だったが、ロシア軍の撤収を求める米側の主張に露側が応じず、議論は平行線をたどった。
オバマ米大統領は、ロシアへの「経済的、外交的手段」の検討を表明している。主権侵害に関与した人物への入国制限などの措置を取ったが、さらにどのような経済制裁を行うかが焦点となろう。
一方、欧州連合(EU)も具体的な措置の協議に入った。
欧州は、天然ガスを輸入するなど、ロシアとの経済関係が深い。ドイツや英国は経済制裁に慎重だ。ポーランドなど旧東側陣営諸国は、強硬策を主張している。足並みをそろえて厳しい措置で合意できるかは不透明である。
ロシア・ソチでは6月に主要8か国首脳会議(G8サミット)が予定されているが、ロシアを除く日本など7か国は「ウクライナの主権と領土の一体性に違反した」とロシアを強く非難した。首脳会議の実施が危ぶまれる状況だ。
ロシアは孤立を深めている。
プーチン・ロシア大統領は、クリミアでのロシア軍展開自体を否定して、国際的非難には根拠がないとの立場だ。ウクライナへの軍事介入についても「今のところ必要はない」と述べている。
クリミアを事実上、支配下に置いたことで当面の目的は達成したと考えているのだろう。
クリミアでは、今月16日に、ロシアへの編入の是非を問う住民投票が行われることになった。ロシア系住民が多いため、編入支持の結果が出るのは確実である。ロシアは、それを受けて、併合に突き進むつもりではないか。
日本も、ロシアの行動を座視してはいられない。米欧が制裁に踏み切れば、最終的に同調せざるを得まい。ただ、日露関係が悪化し北方領土交渉に影響を及ぼす事態は避けたいのも確かだ。
ソチで開幕するパラリンピックに、米国などが政府代表団派遣をとりやめる中、日本は桜田義孝文部科学副大臣を派遣する。
菅官房長官は、「パラリンピックに政治状況を持ち込むことには慎重であるべきだ」と述べた。
日本は、米欧との協調を軸とした戦略的外交が問われよう。
|
産経新聞 2014年03月08日
パラリンピック 露は五輪休戦の約束守れ
ソチ冬季パラリンピックが開幕した。45カ国から500人を超える選手の参加は、冬季史上最多で、日本からも選手20人が出場する。一方で、隣国ウクライナで同じ黒海に臨むクリミア半島にロシアが軍事介入し、実効支配した。
五輪開催国による暴挙である。昨年11月、ロシアの提案によって国連総会で採択された「五輪休戦決議」にも違反する。開催国自ら大会意義を台無しにする行為は、決して国際社会に受け入れられないだろう。
決議は大会中、世界中の戦争・紛争に休戦を求めたもので、期間は五輪開会の7日前から、パラリンピック閉幕の7日後までだ。五輪休戦の歴史は古く、古代ギリシャで提唱された「オリンピック停戦」に端を発する。1993年から、五輪前年に国連で決議が採択されるようになった。
「パラリンピック」は「パラプレジア(脊髄損傷などによる下半身麻痺(まひ))」とオリンピックを合わせた日本人による造語で、初めて五輪と同一都市で開催された64年東京大会の愛称となった。
その後、「パラレル(平行)+オリンピック」と解釈が変更され、88年ソウル大会から大会の正式名称となった。
現在は「もう一つの五輪」として、開催都市、開催国には五輪と同等の成功が求められている。実際に、連日スタジアムを満員とした2年前のロンドン大会は、これを実現した。
ロシアによるクリミア半島に対する介入は、ソチ冬季五輪の閉幕を待つかのように行われた。パラリンピックを軽んじての判断だとすれば、強く国際社会から指弾されるだろう。
ソチに集ったパラリンピアンたちは、自身のために存分に力を発揮してほしい。彼らが努力を重ねてきたのは、ロシアのためではない。開催都市と開催国に求められるのは安全で円滑な運営と、大会の成功だ。それには平和であることが欠かせない。
ソチ五輪の閉会式では、マスコットのホッキョクグマが涙を流して聖火を吹き消した。
アフガニスタン侵攻への抗議で西側諸国の多くがボイコットした80年モスクワ五輪を想起する演出だったのだという。だが、力によるクリミア支配とパラリンピックの同時進行を強行する現状こそ、憂え悲しむべきではないか。
|
この記事へのコメントはありません。