ビットコイン 利便性消さぬルール化を

毎日新聞 2014年03月02日

マウント社破綻 通貨を扱う資格欠いた

インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の私設取引所「マウント・ゴックス」が経営破綻した。自社の保有分も合わせ、時価で500億円弱相当のビットコインが「なくなった」という。仮想通貨だけでなく、顧客から預かっていた現金も最大で28億円が失われていることが同社の発表でわかった。

一時は世界最大の規模を誇った取引所である。破綻は「仮想通貨版リーマン・ショック」などと呼ばれ、国内外で衝撃が走った。実際は、不安が連鎖する事態にまで至っていないが、誕生から約5年と幼いビットコインにとって信用が大きく揺らぐ最初の試練になったと言えそうだ。

マウント・ゴックスで一体何が起きたのか。同社からの情報提供は極めて限られ、多くがまだ謎に包まれたままだ。米国の連邦検察が同社に召喚状を送ったとの報道もあり、今後、何らかの事件に発展する可能性も否定はできない。

ただ、これまでに明らかになったことから言えるのは、「仮想」とはいえ通貨を仲介する取引所に求められる資格がマウント・ゴックスに備わっていなかったということだ。

記者会見した同社のマルク・カルプレス社長は「システムに弱いところがあった」と話した。その弱点がハッカーの不正アクセスを許しビットコインが奪われたようだ。ただ、このシステム上の弱点はビットコインに内在するものとして早くから関係者の間で警告が発せられ、ソフトウエア上の対策により不正を防ぐことが可能だと指摘されていた。

ところがマウント・ゴックスは、安全性向上のための継続的な投資や努力を怠った。取引所のトラブルが通貨そのものの信用を揺るがしかねないことへの自覚が足りなかった。

説明責任を果たそうとする誠実さも欠いていた。ビットコインの引き出しなどで支障が起き利用者に不安が広がっても、状況や見通しについての説明を主体的に行わなかった。

マウント・ゴックスの問題を受け、ビットコイン支持者の間では信用回復を目指す動きが起きている。国家が破綻銀行を救済するように、ビットコイン界全体でマウント・ゴックスを救おうとの議論もある。

これを機にビットコインが信頼性の高い通貨へと進化するのか、規制や利用コストの増大で輝きを失い崩壊するのか、まだわからない。ただ、ビットコインが消滅しても、別の仮想通貨が誕生し新たな問題が起こる可能性は十分ある。

日本政府はこれまで、適用する法律の不在を理由に、「我関せず」の姿勢を取ってきた。金融・捜査当局は他国とも協力し、まず今回の問題の全容解明を急がねばならない。

読売新聞 2014年03月02日

ビットコイン 仮想通貨の危うさが見えた

国の信用という裏付けを持たない「仮想通貨」の危うさをさらけ出したと言えよう。

インターネット上の仮想通貨「ビットコイン(BTC)」の大手取引サイトを運営するマウントゴックス社(東京)が、経営破綻した。

利用者から預かっていたビットコインが、何者かによって不正に引き出され、債務超過に陥ったためとしている。被害は同社の保有分も含め85万BTC(約114億円)にのぼるという。

巨額のコインが煙のように消えてしまったのが事実とすれば、驚きを禁じ得ない。

同社はシステム上の弱点をハッカーに突かれ、コインを奪われた可能性が高いと説明している。だが、顧客から預かった現金28億円も消えるなど不可解な点は残る。徹底した実態解明が必要だ。

ビットコインは国家の統制を受けず、世界で自由に取引できる利点がある。一方、通常のお金と違い、どの国の金融当局からも規制を受けず、保護の枠外にある。被害の救済は困難だろう。

普及の進む米国でさえ、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長がビットコインを巡る混乱について「銀行決済の枠外で起きている。FRBに監督や規制の権限がない」と述べている。

ビットコインは昨年、価格が急騰して、一時は全世界で1兆円超の残高に膨らんだ。乱高下への警戒感が強まり、資金洗浄など犯罪への悪用といった弊害も指摘されたことから、日銀は調査・研究を進めていた。

被害を受けた利用者のほとんどは外国人と見られるが、東京に拠点のある業者の取引サイトが問題を起こした以上、政府と日銀も対応に本腰を入れざるを得まい。

麻生財務・金融相は「どこかで破綻すると思っていたが、意外に早かった。早急に(対策を)詰める」との考えを示した。関係国と緊密に連携し、再発防止策や規制に関する検討を急ぐべきだ。

大手取引サイトが破綻したというのに、ネット上ではビットコインの取引が続いている。安い手数料で全世界に送金できるといったメリットがあるからだろう。

ただし、悪質なハッカーが、次の標的を狙っている恐れがある。ビットコインのサービスを提供する業者は、不正アクセスの防護などを徹底する責務がある。

利用者も、公的な信用の裏付けや保護のない現状をきちんと理解し、自己責任を肝に銘じてもらわなければならない。

産経新聞 2014年02月28日

ビットコイン 利便性消さぬルール化を

インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の信用不安が世界中に広がっている。東京にある世界最大級の取引所「マウントゴックス」が取引を全面停止した影響で、取引価格が急落しているからだ。

もとより、国家が信用を与える一般の通貨とは異なるものだと認識すべきだが、国境をまたいで瞬時に送金できる利便性などが注目されている。一方、最近は投機の対象として、各国政府や通貨当局が警戒を強めている。日本政府も早急に実態を把握する必要がある。

ただ、こうした仮想通貨は、国際取引が個人レベルに拡大するなかで、今後も手軽な決済手段として広がる可能性が高い。ネット通販による海外からのブランド品や書籍の購入は好例だ。

問題点をあぶり出し、必要に応じて規制するルール作りは当然だが、新たなサービスとして将来の芽を摘んではなるまい。利用を円滑にするためのバランスがとれた目配りがほしい。

ビットコインは2009年に誕生した。最大のメリットは海外送金の手数料がほとんどかからないことだ。日常使っているパソコンやスマホで簡単に利用できる。

銀行送金では、まず窓口に出向き、現地通貨に換える為替手数料に加え、数千円程度の送金手数料を支払わなければならない。

クレジットカードだと、店側は数%の手数料をカード会社に払うが、ビットコインだと1%以下で済む。取扱店は今後、海外を中心に急速に広がる可能性がある。

銀行やカード会社の高い手数料には、もともと利用者側の不満が強かった。仮想通貨の利用が広がっていけば、硬直化した金融サービスの現状に風穴を開けるきっかけにもなる。

そのためにも安全性の確保は最優先課題だ。ビットコインはネット上のプログラムで厳重に管理され、発行量なども高度な暗号技術で守られているというが、ネットの世界に絶対安全はないことを利用者側も銘記すべきだ。

匿名性を武器に麻薬など違法取引や犯罪資金の洗浄に悪用されている疑念も消えない。仮想通貨を広く定着させるには、犯罪行為に関しては利用者を特定できる仕組みも検討すべきだ。同時に、今後のルール作りでは、取り締まりにとどまらず、開発者や利用者の視点を取り込んだ議論が必要だ。

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