中国の賠償訴訟 政府が日本企業を支えよ

読売新聞 2014年02月28日

個人賠償請求 訴え受理なら日中関係損なう

日中関係の大原則をゆるがせにしかねない。習近平政権は将来を見据えた判断をすべきだ。

戦時中に中国から強制連行され、過酷な労働を強いられたとする中国人の元労働者らが、日本企業2社を相手取り、謝罪と損害賠償を求める訴状を北京の裁判所に提出した。

これに対し、菅官房長官は「日中間の請求権問題は、個人の請求権問題を含め、存在していない」と日本政府の立場を強調した。

中国政府は、1972年の国交正常化時の日中共同声明で、日本に対する戦争被害の賠償請求を放棄する、と宣言している。

日本では、中国人による個人賠償請求訴訟があったが、最高裁は2007年、「日中共同声明により、中国人個人は戦争被害について、裁判上の賠償請求はできなくなった」として訴えを棄却した。適切な判断だったと言える。

問題は、今回の訴えを、共産党政権の指導下にある裁判所が受理するかどうかだ。受理されれば、中国では、日本企業に対する初めての強制連行訴訟となる。

中国政府は、日中共同声明には個人の賠償請求権は含まれないという立場を取っている。しかし、実際には、裁判所は今までそのような訴えを受理しなかった。

巨額の円借款などで経済発展を支えた日本との関係維持を重視したからだろう。

ひとたび歴史を巡る国内での法廷闘争を容認すれば、大規模な反日デモや、政権の対応を「弱腰」とする批判を誘発しかねないとの警戒感もあったに違いない。

ただ、現在の状況はこれまでと異なる。日中間では首脳同士が会談さえできない。習政権は、安倍首相による昨年末の靖国神社参拝を機に、歴史問題で日本を攻撃する反日宣伝を一層強めている。

習政権が従来の方針を転換し、裁判所が訴えを受理すれば、関係の悪化はより深刻となろう。

そうなれば、どれだけの個人が被害を訴え出るのか、予測もつかない。中国は、強制連行された人は約4万人に上るとしている。

中国リスクの高まりが懸念され、日中間の貿易や投資、観光などが冷え込む可能性もある。

日本にとって、韓国で元徴用工が日本企業に損害賠償を求めている裁判と、中国の強制連行訴訟は、基本的に似た構図と言えよう。

日本政府は、訴えられた企業を支援すべきだ。中韓及び国際社会に対しては、法的に解決済みの問題を蒸し返すことの不当性を強く訴えていかねばならない。

産経新聞 2014年02月27日

中国の賠償訴訟 政府が日本企業を支えよ

韓国に続き中国でも、戦時中の過酷な労働を理由に日本企業提訴の動きが再燃した。戦時賠償問題は、昭和47(1972)年の日中共同声明に基づき決着済みだ。政府は、中国側の勝手な都合で日本企業が不当な扱いを受けないよう、全面的に支援してほしい。

さきの大戦で、日本に「強制連行」されて過酷な労働を強いられたとして、中国人元労働者や遺族計37人が、三菱マテリアルなど2社を相手取り、謝罪と損害賠償訴訟を求める訴えを北京市内の裁判所に起こした。

原告団は、1人当たり100万元(約1700万円)を支払うよう求めているという。

菅義偉官房長官は会見で、戦時賠償は個人の請求権問題も含め、「日中共同声明において存在しない」と述べた。当然である。賠償を請求するなら、自国の政府を相手に行うのが筋である。

中国人元労働者の賠償請求訴訟は、過去にも日本の裁判所に起こされた。しかし、最高裁は平成19年、日中共同声明について、個人の損害賠償などを含め戦時に生じたすべての賠償を放棄することを定めていると明確に判示し、原告の敗訴を確定させた。

中国の裁判所への提訴は過去にもあったが受理されなかった。今回は反日攻勢さなかの提訴だ。尖閣諸島への挑発や国際社会での反日宣伝に飽きたらぬ、新たな揺さぶりの可能性もあり、注意深く見守る必要があろう。

中国は近く、抗日勝利、南京虐殺追悼という国家記念日も制定する。日本の戦争責任を国際社会に訴える狙いが見える。

賠償訴訟の原告団には習近平国家主席に近い学者らも含まれる。中国で司法機関は形式的には独立しているものの、実質的には共産党の指導下にある。受理されれば党中央が賠償請求を容認したことを意味する。

韓国では昨年、徴用工の賠償訴訟で日本企業が敗訴する不当な判決が出た。法的に解決済みの問題が蒸し返され、中韓両国で賠償請求が際限なく広がりかねない。

日本政府はこの問題を企業側に任せず、訴訟が両国間の約束に反することを中国政府に強く働きかけるなど、責任を持って対応しなくてはならない。今回の訴訟の動きは、日中共同声明の精神を踏みにじり、日中関係を悪化させるものだと強く訴えるべきだ。

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