日本航空再建をめぐる政府の方針が迷走している。完全民営化されている一企業をなぜ特別扱いして救済する必要があるのか。鳩山由紀夫政権はその理由も示さず、納得いく説明もしていない。
日航再建のための法的整理案を企業再生支援機構が提示した。日航が会社更生法を申請すると同時に同機構が公的支援する手法だ。だが、日航と銀行団は、裁判所を介さず債権者同士の合意で進める「私的整理」にこだわって反対している。政府の対応も二転三転している。
関係者の利害が複雑に絡み、調整が難しい。日航の体質がそのままではつなぎ融資も「焼け石に水」だ。有力な再生策として法的整理を選択すべきではないか。
◆ムダ排除はどうした
法的整理の最大のメリットは公平で透明な手続きを可能にする点だ。国民の多くがいま抱くのはなぜ日航だけが特別なのかという疑問だろう。法的整理なら日航を特別扱いしないで済むし、支援機構からの公的資金投入に対する理解も得られやすい。
大事なのは日航という会社の救済ではなく、顧客に必要な「空の足」が守られるかどうかである。
その大原則に照らせば、政府や日航のこれまでの説明は根拠が薄い。前原誠司国土交通相は法的整理をすれば「飛行機が飛ばなくなる」という。だが、米国では大手航空会社が経営破綻(はたん)し、その後連邦破産法にのっとって債務を整理し再生している。日航も再建中の資金繰りさえメドが付けば、運航に支障はでないはずである。
「地方路線がなくなる」という理由もあたらない。全日空のほかにスターフライヤーなど低コスト航空会社もあるし、必ずしも日航に頼らねばならぬ理由はない。 「ナショナル・フラッグがなくなる」ともいうが、欧州では国境を越えた航空会社の合従連衡が相次いでおり、そんな言葉は死語になっている。
そもそも前原氏は政官民の癒着体質の脱却を掲げて全国のダム建設見直しを進めている。日航を特別扱いしようとする背景に、今年夏の参院選をにらんだ労組への配慮があるのだとすれば問題だ。「無駄の排除」をいうなら日航を特例にするのは筋が通らない。
法的整理には日航の「親方日の丸」体質を払拭(ふっしょく)するメリットも大きい。
日本政策投資銀行からの緊急融資は一昨年秋の米国発金融危機による業績低迷を理由にしているが、日航の経営はここ数年ずっと低空飛行だ。創業以来、国交省の手厚い庇護(ひご)の下で天下りを受け入れ、人事から航空機購入、運航計画に至るまで政治家や官僚らの指示をあおいできた。日航幹部でさえ、いまだに「最後は国が面倒見てくれる」という意識が抜けないといわれている。
◆「親方日の丸」一掃を
その典型例は国民の常識からかけ離れた高額の企業年金であり、その減額に対する社員、OBの反発だ。日航は企業年金の給付削減を可能にする「退職者の3分の2以上の賛同」を得るため、OBら約9000人の同意取り付け作業を急いでいる。
自助努力を強調して法的整理を回避する狙いもあるのだろうが、今月12日の締め切りまでに賛同が得られなければ、国交省は年金の強制減額を可能にする特別立法を目指すという。
社員はもとより、銀行団など債権者やOB、株主ら関係者すべてが痛みを分かち合うのは当然だ。それぞれの利害関係の調整がつかないなら、法的整理こそ最善の策である。
「法的整理は企業イメージが低下し、顧客離れが進む」という日航トップの主張も説得力はない。米自動車大手のGMは法的整理後、数カ月で再生し、販売を回復しつつある。そごうなど法的整理を経て、再建を果たしている国内企業も多い。
ただ、経営悪化の責任をすべて日航だけに押しつけるわけにはいくまい。日本の航空会社は世界的に割高な着陸料や航空燃油税などを徴収され、政府はそれを原資として利用客の少ない地方空港を次々に建設してきた。
航空自由化の下、国際線の自由な路線開設は顧客の利益が大きい。政府は日航再生を含めて今後の航空行政の明確な青写真を国民に示す必要がある。
再建をめぐる政府の迷走はもうたくさんである。時間を空費する間に日航が劣化し、再生が難しくなることを忘れてはならない。
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