日航再建 法的整理に向け万全の備えを

毎日新聞 2010年01月08日

日航再建 国民の理解が前提だ

日本航空の再建をめぐって、法的整理とするか、私的整理とするかで協議が難航している。日本の空の足を守るためには日航の再生が不可欠だ。しかし、それには前提がある。

困れば公的支援に頼るという日航の体質を抜本的に改める。さらに、国民の負担につながりかねない公的資金を投じる以上、再建策は公正で透明性の高いものでなければならないという点だ。

官民ファンドの企業再生支援機構は、会社更生法の適用を求めている。しかし、会社更生法適用となると、債権放棄の額が膨らむため、銀行団としては避けたいところだ。日航としても、倒産という烙印(らくいん)を押される形となるため、イメージダウンになると反対している。

このため、銀行団や日航、そして国土交通省は、私的整理による再建を求めている。

支援機構が示している法的整理には、民事再生法を活用するという道もないではない。しかし、銀行も含め担保権者全員の同意が事実上必要となり、経営陣の刷新も不要という枠組みでは、実現は難しい。

では、私的整理はどうだろうか。民事再生法でも無理だと判断されている状態なのに、複雑な利害を関係者だけで整理し、再建策をまとめることが可能なのだろうか。

仮に私的整理で再建策がまとまったとしても、妥協の産物であり、公的資金の額が大きく膨らんでしまい、日航の体質改善も不十分で、高額の企業年金に手がつけられないといったことになれば、国民の理解は得られないだろう。

いずれにしても日航の再建には公的資金の投入が避けられない。そうした状況下で、支援機構が会社更生法の適用を選択しようとしているのは、当然の流れと考える。

会社更生法の適用となれば、裁判所が選定した管財人のもとで、公正で透明性の高い措置が期待できるからだ。

日航の再建をめぐる動きは、二転三転を続けている。時間の経過とともに、日航の信用は低下し、損失の拡大が続いている。

一方、日米航空交渉がまとまり、全日空は、ユナイテッド航空、コンチネンタル航空との3社で米国政府に独占禁止法の適用除外を申請した。路線や運航時間、料金といった面で3社が協力すれば、競争力が強化されるはずだ。

しかし、日航はパートナーとなる米国の航空会社も決められない状態で、このままでは全日空に大きく後れをとることになりかねない。

時間を浪費することはもはや許されない。国民が納得できる再建策を早急に示すことが政治の責任だ。

読売新聞 2010年01月09日

日航再建 法的整理に向け万全の備えを

迷走を続けてきた日本航空の再建問題で、関係者間の調整が大詰めを迎えている。

支援の実務を受け持つ官民ファンドの企業再生支援機構は、会社更生法など法的整理の活用を求めている。

これに対し、日航や主力取引銀行の一部は、法的整理を避けるよう主張しているが、政府は法的整理を容認する方向となった。

日航は8000億円近い債務超過の状態にあるとされ、再建には巨額の公的資金が必要だ。民間企業に税金を投入する以上、その手続きは透明・公正に進めることが重要になる。

裁判所の監督下で再建を図る法的整理は妥当な手法といえよう。だが、それにはさまざまな副作用もある。政府は日航の運航に支障が出ないよう、万全を期さなければならない。

支援機構は混乱を防ぐため、「事前調整型」の法的整理を採用する方針だ。あらかじめ日航に融資する主力取引銀行や裁判所と債権カットの手法などを調整し、日航の更生法適用申請と同時に支援機構が支援を決定する。

これにより、通常の法的整理では債権カットの対象となる燃油代やマイレージなどの売掛債権や特典を全面的に保護でき、従来通りの運航が可能になるという。

日航再建に政府が関与するのは、国民の「空の足」を守るためだ。再建手続きの間も安全運航を確保し、利用者への影響を最小限に抑える措置は不可欠である。

しかし、混乱を未然に防ぐことは、そう簡単ではない。

日航は、燃油や為替取引などで世界中の企業と膨大な信用取引をしている。法的整理が伝われば、これらの取引が止まり、日航機が飛べなくなる恐れがある。

昨年、米ゼネラル・モーターズ(GM)の再建に事前調整型を採用したオバマ政権は、半年近く入念な準備をしたが、日本では事前調整型の前例はほとんどない。支援機構はGMの例も参考にして、調整を急ぐことが肝要だ。

法的整理によって、新たに必要となる公的資金は7000億円を超えると見られる。政府は、なぜ税金を使って特定の企業を支援するのか、国民に十分説明し、理解を得ることが欠かせない。

そのためには、法的整理で日航が「親方日の丸」体質からはっきり決別することが必要だ。日航は労使やOBが協調して企業年金の削減に自発的に応じるなど、支援機構と一体で再生に取り組む姿勢を示さなければならない。

産経新聞 2010年01月13日

日航再建 「親方日の丸」完全脱却を

日本航空の再建をめぐって、前原誠司国土交通相は主要取引銀行トップらと会談、裁判所の監督下で進める法的整理を選択する方針を伝えた。

実質債務超過の民間企業の再建に政府が関与して公的資金を活用する以上、手続きは透明で公正でなければならない。法的整理は当然である。

具体的には会社更生法を活用しつつ、官民でつくった企業再生支援機構が出資や融資によって再建を目指す。

課題は再建の条件が整ったとしても再生のハードルをどう乗り越えていくかだ。単なる延命に終わらせないために大胆なリストラを進めて、「親方日の丸」体質から決別しなければならない。

再建の条件整備としてはまず銀行の債権放棄額を確定させ、債務を迅速に整理すべきだ。企業年金の問題もある。日航は年金の3割減額に応じるよう退職者らの説得を続け、期限の12日までに減額に必要な3分の2以上の同意が得られた。政府はこれを尊重し、再建計画に生かす意向だが、年金負担が「新生日航」の足かせになるようでは困る。

株式の問題もある。個人株主が多いことに配慮し、株式が「紙くず」にならないよう「株式上場を維持すべきだ」との主張が日航内にある。だが、そもそも日航は債務超過だ。仮にいま会社を清算したら株主が受け取る資産はない。上場廃止で株主責任を明確にしなければ、国民の理解を得るのは難しい。

再建計画について支援機構は3年で1万3000人の人員を削減するほか、国内外の数十の不採算路線の整理などを挙げる。だが、それで十分なのか。これまで再建の妨げになってきたと指摘される組合をどうするかも問われる。

再建計画にはスリム化と併せて将来を見据えた攻めの事業戦略も必要だ。特に航空自由化の視点が欠かせない。国際線、国内線とも一層の競争激化が予想される。経済成長が著しいアジアの需要やビジネス客の掘り起こしなど課題が多い。

日航は国際線について米デルタ航空を有力な提携先として考えているようだが、世界のネットワークの維持、拡大も欠かせない。

支援機構の最終目的は企業を再生させたうえで、出資金などを回収し、利益を生むことだ。公的支援は早期に処理すべきだ。これを肝に銘じてほしい。

産経新聞 2010年01月06日

日本航空再建 法的整理で早期決着を 「特別扱い」は理解えられず

日本航空再建をめぐる政府の方針が迷走している。完全民営化されている一企業をなぜ特別扱いして救済する必要があるのか。鳩山由紀夫政権はその理由も示さず、納得いく説明もしていない。

日航再建のための法的整理案を企業再生支援機構が提示した。日航が会社更生法を申請すると同時に同機構が公的支援する手法だ。だが、日航と銀行団は、裁判所を介さず債権者同士の合意で進める「私的整理」にこだわって反対している。政府の対応も二転三転している。

関係者の利害が複雑に絡み、調整が難しい。日航の体質がそのままではつなぎ融資も「焼け石に水」だ。有力な再生策として法的整理を選択すべきではないか。

◆ムダ排除はどうした

法的整理の最大のメリットは公平で透明な手続きを可能にする点だ。国民の多くがいま抱くのはなぜ日航だけが特別なのかという疑問だろう。法的整理なら日航を特別扱いしないで済むし、支援機構からの公的資金投入に対する理解も得られやすい。

大事なのは日航という会社の救済ではなく、顧客に必要な「空の足」が守られるかどうかである。

その大原則に照らせば、政府や日航のこれまでの説明は根拠が薄い。前原誠司国土交通相は法的整理をすれば「飛行機が飛ばなくなる」という。だが、米国では大手航空会社が経営破綻(はたん)し、その後連邦破産法にのっとって債務を整理し再生している。日航も再建中の資金繰りさえメドが付けば、運航に支障はでないはずである。

「地方路線がなくなる」という理由もあたらない。全日空のほかにスターフライヤーなど低コスト航空会社もあるし、必ずしも日航に頼らねばならぬ理由はない。  「ナショナル・フラッグがなくなる」ともいうが、欧州では国境を越えた航空会社の合従連衡が相次いでおり、そんな言葉は死語になっている。

そもそも前原氏は政官民の癒着体質の脱却を掲げて全国のダム建設見直しを進めている。日航を特別扱いしようとする背景に、今年夏の参院選をにらんだ労組への配慮があるのだとすれば問題だ。「無駄の排除」をいうなら日航を特例にするのは筋が通らない。

法的整理には日航の「親方日の丸」体質を払拭(ふっしょく)するメリットも大きい。

日本政策投資銀行からの緊急融資は一昨年秋の米国発金融危機による業績低迷を理由にしているが、日航の経営はここ数年ずっと低空飛行だ。創業以来、国交省の手厚い庇護(ひご)の下で天下りを受け入れ、人事から航空機購入、運航計画に至るまで政治家や官僚らの指示をあおいできた。日航幹部でさえ、いまだに「最後は国が面倒見てくれる」という意識が抜けないといわれている。

◆「親方日の丸」一掃を

その典型例は国民の常識からかけ離れた高額の企業年金であり、その減額に対する社員、OBの反発だ。日航は企業年金の給付削減を可能にする「退職者の3分の2以上の賛同」を得るため、OBら約9000人の同意取り付け作業を急いでいる。

自助努力を強調して法的整理を回避する狙いもあるのだろうが、今月12日の締め切りまでに賛同が得られなければ、国交省は年金の強制減額を可能にする特別立法を目指すという。

社員はもとより、銀行団など債権者やOB、株主ら関係者すべてが痛みを分かち合うのは当然だ。それぞれの利害関係の調整がつかないなら、法的整理こそ最善の策である。

「法的整理は企業イメージが低下し、顧客離れが進む」という日航トップの主張も説得力はない。米自動車大手のGMは法的整理後、数カ月で再生し、販売を回復しつつある。そごうなど法的整理を経て、再建を果たしている国内企業も多い。

ただ、経営悪化の責任をすべて日航だけに押しつけるわけにはいくまい。日本の航空会社は世界的に割高な着陸料や航空燃油税などを徴収され、政府はそれを原資として利用客の少ない地方空港を次々に建設してきた。

航空自由化の下、国際線の自由な路線開設は顧客の利益が大きい。政府は日航再生を含めて今後の航空行政の明確な青写真を国民に示す必要がある。

再建をめぐる政府の迷走はもうたくさんである。時間を空費する間に日航が劣化し、再生が難しくなることを忘れてはならない。

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