「アンネ」書籍破損 許されない愚かな行為だ

毎日新聞 2014年02月28日

視点「アンネの日記」 日本は反ユダヤにあらず

ユダヤ人の少女アンネ・フランクが隠れ家でつづった「アンネの日記」は、ナチスによるユダヤ人迫害を後世に伝える有名な本である。ところが1月以降、東京都内や横浜市の図書館を中心に「アンネの日記」や関連本が破られる事件が発覚し、日本の「右傾化」と関連づける海外の論調も出始めた。

共同電によると、26日付の中国人民解放軍機関紙、解放軍報は「日本のサイトで『アンネの日記は(事実ではなく)小説だ』とする言論が大量に見いだされる」として歴史否定の動きがあると批判。日記を破いても「記憶を消すことはできない」と指摘した。韓国メディアは、日本にはヒトラーに追随する勢力が少なくないと報じ、在日韓国人などへのヘイトスピーチに象徴される「病的な右傾化現象」との関連に注目している。

推測は自由だが、犯人像も動機もヤブの中なのに、ここまで言うのはいかがなものか。他国の歴史認識をうんぬんするなら、正確な史実を押さえておくべきである。日本は確かにナチスドイツと同盟関係にあったが、ナチスの再三の要求にもかかわらずユダヤ人迫害に同調することはなかったからだ。

たとえば1938年、首相と陸軍・海軍大臣などで構成する五相会議が決めた猶太(ゆだや)人対策要綱は、ユダヤ人迫害は「日本が多年主張してきた人種平等の精神に合致しない」として公正に扱う方針を打ち出した。その背景にはユダヤ難民を受け入れて対米関係改善を狙う思惑(河豚(ふぐ)計画)や、世界を一つの家と見る「八紘(はっこう)一宇」の思想もあっただろうが、「戦前の日本とナチスは違います」(ヘブライ大のベン・アミー・シロニー名誉教授)というのが常識だ。

ユダヤ人に「命のビザ」を発給した杉原千畝(ちうね)、そのビザで日本に来たユダヤ人の滞在延長を助けた小辻節三(せつぞう)など、ユダヤ人が恩人と仰ぐ日本人も少なくない。杉原の関連本も破られたそうだが、日本の歴史に反ユダヤ主義を見るのは難しい。仮に今日の日本が「右傾化」し軍国主義が復活しつつあるとの前提に立っても、だから「アンネの日記」を破る者が出るのだという立論は乱暴である。

他方、大虐殺を体験したユダヤ人には気の毒だ。在日イスラエル大使館は被害にあった図書館に「アンネの日記」などを寄贈した。米国のユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」も強い懸念と怒りを表明した。犯人は日本人なのか、組織的な犯行なのかどうかも不明だが、根の深い事件ではないよう祈りたい。(論説委員・布施広)

産経新聞 2014年02月27日

「アンネ」書籍破損 許されない愚かな行為だ

東京都内などの図書館で「アンネの日記」や関連本が破損される被害が相次いでいる。

文化を育み伝え、言論活動を支える書籍を損ない、自由な読書を妨げる愚かな行為だ。誰がどんな理由でやったにせよ、許せない。

破られた本は、1月下旬から東京都杉並区や中野区などを中心に確認され、横浜市でも見つかった。被害は約40の図書館で300冊を超える。

特定の本をねらう執拗(しつよう)なもので、警察は器物損壊事件として異例の捜査本部を置いて捜査している。再発防止のためにも早期の解決を望みたい。

日本図書館協会は「貴重な図書館の蔵書を破損させることは、市民の読書活動を阻害するもので極めて遺憾」と声明を出した。破損本の中には絶版で図書館などでしか読めないものもある。

本を閉架書庫にしまうなど図書館は対応に追われ、本が自由にみられない影響も出ている。

「アンネの日記」は、ナチスの迫害からアムステルダムに逃れ、隠れ家で暮らしたユダヤ人少女、アンネ・フランクがつづった日記だ。日本でも子供の頃から読み親しんだ人が多いだろう。

書籍破損の被害が同書やユダヤ人迫害を扱った本などに集中していることから、海外でも報じられ注目されている。

ユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は「衝撃と深い懸念」を表明した。イスラエル大使館から被害にあった図書館に本が寄贈されるなどの動きもでている。

本を破った者の意図がどうあれ、多くの人の心を傷つけている事実を軽くみてはならない。欧米ではとりわけ、今回の行為は反ユダヤ主義的なものではないかともみられ、日本のイメージを損ないかねない問題だ。

図書館をめぐっては、千葉県船橋市の市立図書館で平成14年に、保守系の評論家らの著書が廃棄される問題が発覚した。その著者らが訴えた裁判の判決で最高裁は、公共の図書館の役割について「独断的な評価や個人的な好みにとらわれず、公正に図書を扱う義務がある」としている。

さまざまな考え方の本や資料が広く公開される図書館の役割は大きい。本を守ることは伸び伸びとした自由な言論につながる。これを妨げてはならない。

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