武器輸出原則 性急な転換は許されぬ

朝日新聞 2014年02月26日

武器輸出原則 性急な転換は許されぬ

安倍政権が検討している新しい武器輸出原則の案が明らかになった。

武器の輸出は認めず、認める場合は例外とするいまの「三原則」を撤廃。新たな原則に反しない限りは輸出を認めるようにする。平和主義の転換であり、性急な決定は許されない。

いまの三原則は67年に佐藤首相が、共産圏▽国連決議による武器禁輸国▽国際紛争の当事国またはそのおそれのある国へは武器輸出を認めないと表明。76年に三木内閣が、その他の地域にも輸出を「慎む」とした。

その後、米国への武器技術の供与を皮切りに次々と例外が設けられた。それでも、そのつど官房長官が談話を出し、輸出する理由を説明してきた。

新たな原則は、国際的な平和及び安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない▽輸出を認める場合の限定と厳しい審査▽目的外使用や第三国移転の適正な管理が確保される場合に限定する、というものだ。

この新しい原則のもと、政府は戦闘機などの国際共同開発や、自衛隊がPKOで使った重機を相手国に提供することなどを想定している。

とりわけ懸念されるのは、輸出を禁じる相手から「国際紛争の当事国」が外されたことだ。

念頭にあるのは、日本が共同生産に加わる最新鋭戦闘機F35の部品のイスラエルへの輸出だ。共同生産システムは米国が管理しており、日本製の部品が補修のため、周辺国との緊張が絶えないイスラエルに輸出される可能性が出てくる。

原則を改める背景には、コスト削減のためハイテク武器の国際的な共同開発・生産が主流になっていることがある。

経済界の要請を受け、防衛産業の育成を図る意味も大きい。

国内企業がつくる自衛隊機向けの部品などが輸出できるようになれば、企業の利益が上がる一方、自衛隊の調達コストも下げられるという。

限られた防衛費を効率よく使う必要はあるだろう。それでも、原則として「武器は輸出しない」という平和国家のあり方はゆるがせにはできない。

いったん国境を越えた武器が、最終的にどこでどう使われるかを管理することは極めて難しい。部品だからいいというものではない。日本製のエンジンで飛ぶ戦闘機が異国の空で実戦に使われる。それが現実になるかもしれない。

政府は新原則を3月中にも閣議決定したいという。これほど重い方針転換を、そんな短期間でしていいはずがない。

毎日新聞 2014年02月27日

武器輸出三原則 歯止めなき拡大を懸念

安倍政権が検討している新たな武器輸出三原則の原案が明らかになった。歯止めがかからないまま、なし崩し的に武器輸出が拡大するのではないかとの懸念をぬぐえない。

現行の三原則は、1967年に佐藤内閣が「共産圏」「国連決議による武器禁輸国」「国際紛争の当事国やそのおそれのある国」への武器輸出を禁じ、76年に三木内閣が他の国にも輸出を「慎む」として全面禁輸に拡大した。83年に中曽根内閣が米国向けの武器技術供与を例外にして以来、21件の例外化を重ねてきた。

新原則は、現行の三原則のうち「国連禁輸国」は維持するが、「共産圏」「国際紛争当事国」への禁輸項目は削除する。そのうえで、一定の要件を満たせば輸出を認める方式に転換する。重要案件は国家安全保障会議(NSC)で審査する。

見直しの背景には、高価で先端技術を要する武器は国際共同開発・生産が主流になっており、参加により調達コストを減らしたり、防衛産業強化につなげたりする狙いがある。

新たな三原則は、(1)国際的な平和や安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない(2)輸出を認める場合を限定し、厳格審査する(3)目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限定する。

新原則で「国際紛争当事国」への禁輸を削除したのは、周辺国との武力衝突が懸念されるイスラエルに対し、国際共同生産で日本製部品を組み込んだ戦闘機F35が供与されるようなケースを念頭に置いたためだ。

しかし国際紛争の助長回避は、武器輸出三原則の基本理念だ。削除が妥当かどうか、国外に与えるメッセージも含めて慎重に検討すべきだ。

また新たな三原則のうち「輸出を認める場合」は、拡大解釈の余地が大きい。政府案によれば、例えば日本の安全保障に資する場合で、安全保障・防衛協力の強化になると判断されれば、国際共同開発・生産以外でも武器輸出が可能になる。

しかも目的外使用や第三国移転は、原則として日本政府の事前同意を相手国に義務づけているが、約束が守られるか日本側がチェックする仕組みはない。輸出した武器が紛争に使われ、日本への反感を生んだり、日本の安全保障に不利益をもたらしたりする可能性も否定できない。

これまでは例外化のたびに官房長官談話が出され、輸出内容が公表されたが、新原則のもとでは輸出可否の決定は非公表となりかねない。透明化の仕組みが必要だ。

安倍政権は、集団的自衛権の議論が本格化する前の3月中に新原則を閣議決定する方針だ。スケジュールありきではなく、国民の納得が得られるような議論が欠かせない。

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