TPP交渉不調 日米が協力して漂流させるな

朝日新聞 2014年02月27日

TPP交渉 日米の責任は大きい

環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐるシンガポールでの閣僚交渉は、合意に達することができなかった。次回の閣僚会合も未定だ。

参加12カ国のうち経済規模でず抜けている米国と日本が、関税分野で折り合えなかったことが主因である。

両国の責任は大きい。4月にはオバマ米大統領の訪日も控える。ただちに二国間交渉を再開し、打開策を見つけてほしい。

まずは、米国である。

牛・豚肉やコメなど日本が高い関税で守っている「重要5項目」について、米国は一律に関税ゼロを求める姿勢を崩さなかったようだ。

TPPは関税撤廃を原則に掲げ、高い水準の自由化を目指している。米国の方針はこれに沿ったものではあるが、かたくなな対応では交渉は進まない。しかも、豪州との自由貿易協定では砂糖などを「聖域」として保護しており、TPPでも同様の考えとされる。

米国では、通商分野での議会の権限について、政府がまとめた協定を一括して認めるか否かに限る貿易促進権限法が失効している。今秋の中間選挙を控えて議会は個別業界の利害に神経質になっており、政府は議会の意向を気にしてことさら強硬になっているようだ。

ただ、これは米国が自ら解決すべき問題であり、国内事情を交渉に持ちこむのは筋違いだ。米国は、新興国との間で対立していた国有企業や知的財産権をめぐるルール作りでは、一定の譲歩をした。こうした柔軟性を関税分野でも期待したい。

日本にも、問題は多い。

全品目のうち関税を撤廃する品目の割合である自由化率で、日本の提案は米国を含む他の国より大きく見劣りしている。重要5項目は細かく分けると586品目あるが、この4割は輸入実績がない。品目ごとに関税を下げたり撤廃したりする余地は十分あるはずだ。

甘利TPP相は、日本の事情は理解されたとしつつ、「何もしなくていい、という理解ではない」と強調した。当然だ。

重要5項目は、衆参両院の委員会が決議で示したとはいえ、貿易の実態を反映していないことを踏まえねばならない。

アジア太平洋は今後、高い成長が期待できる地域だ。そこに新たな貿易・投資ルールを打ち出し、地域の活力を取り込むことが欠かせない点は、日米両国に共通する。

TPPの目的は何か。両国政府は改めて確認し、粘り強く交渉する必要がある。

読売新聞 2014年02月27日

TPP交渉不調 日米が協力して漂流させるな

日本と米国の対立が障害となり、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は再び、大筋合意を見送った。

このまま交渉を漂流させてはならない。主導すべき日米両国が交渉を早急に立て直すべきである。

日米を始め、豪州など12か国が参加したシンガポールでのTPP閣僚会合が終了した。

昨年12月の仕切り直しだったのに、2度目の物別れだ。妥結目標を示さず、次回日程も決まっていない。期待外れの結果である。

TPPは、アジア太平洋地域で新たな自由貿易ルールを作り、21世紀型の経済連携で世界をリードすることが狙いだ。しかし、交渉の勢いが弱まれば、膠着(こうちゃく)状態を打開するのは難しくなるだろう。

大筋合意を断念した主因は、関税撤廃を巡る日米の対立だ。

自民党がコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の聖域として主張している問題で、米国はあくまで関税撤廃を求めて強硬だった。日本は5項目のうち、牛肉や豚肉の関税引き下げを打診し、妥協点を探ったが、溝は深かった。

日本が米国に要求した自動車や自動車部品の関税撤廃問題でも、対立は解けなかった。

経済大国の日米がTPP交渉で互いに原則論に終始し、柔軟性を示さなければ活路は開けない。ともに大局的見地を欠いていた点は反省すべきだ。

日米協議を注視していた豪州やマレーシアなど新興国も消極的になった。米国と新興国の主張にも開きがあった。交渉全体の足を引っ張った日米の責任は大きい。

今後の焦点は、TPP交渉をどう立て直すかである。

12か国は中国・青島で5月に開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合の際に次回会合を開く考えとみられる。

TPP交渉打開に向けて重要になるのが、4月下旬に来日するオバマ米大統領と安倍首相との日米首脳会談である。TPPが主要議題にならざるを得ない。

米国では、11月の議会中間選挙を控え、保護貿易主義圧力が高まっている。このため、米国が譲歩しにくい展開も懸念される。

大統領は雇用や輸出拡大のためTPP妥結を最優先課題に掲げてきた。国内調整と交渉進展で指導力を発揮してもらいたい。

TPPを成長戦略の柱に据える安倍首相の姿勢も問われる。市場開放に備え、農業分野の競争力を強化しながら、米国との接点を見いだす先頭に立つ必要がある。

産経新聞 2014年03月03日

TPP合意先送り 首脳が決断し事態打開を

いつまでにらみ合いを続けるつもりか。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉はシンガポールでの閣僚会合でも歩み寄れず、昨年末に続き決着を先送りした。妥結期限はおろか次回会合も設定されていない。

交渉が暗礁に乗り上げることが心配だ。TPPの枠組みづくりを頓挫させないよう、交渉を主導する日本と米国が政治決断するよう重ねて求めたい。4月のオバマ大統領訪日に向けて、両国が事態打開に全力を挙げることが肝要だ。

合意断念の最大の原因は関税分野での日米対立である。コメなど重要5分野の関税を守ろうとする日本に対し、米国が撤廃を迫る構図だ。日本が求める自動車関税の撤廃では米国が時期を示さず、いずれも溝は埋まらなかった。

安倍晋三首相は「足元を見られる危険性がある」として期限の設定には慎重だ。確かに安易な妥協は禍根を残す。粘り強く相手の譲歩を引き出す努力は不可欠だ。

だからといって決着を延々と持ち越すことは避けたい。TPPは成長戦略の柱だ。うまくいかないと、アジアの成長を日本に取り込む経済再生のシナリオが崩れる。農業強化に向けた改革の動きが推進力を失う懸念も出てこよう。

日本は、中韓との自由貿易協定や、16カ国による東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉にも参加している。中国が重視するこれらの交渉で日本が優位に立つためにも、TPPで早期に貿易・投資ルールを確立しておきたい。

当然、守るべきものと譲るものを厳しく見極めねばなるまい。重要5分野の586品目には輸入実績のないものも多く、関税撤廃で打撃を受けない品目もあろう。関税維持を求める国会決議を踏まえどこまで交渉で歩み寄れるかは、首相の指導力にかかる。

米国の責任も重大だ。競争政策などでは新興国に譲る姿勢も見せたようだが、秋の中間選挙を意識した頑(かたく)なな交渉態度は相変わらずだ。議会から一括交渉権を得ておらず、柔軟に対応できない事情もあるが、このままでは、米国が本気でTPPを妥結させようとしているのかも問われよう。オバマ大統領に決断の覚悟はあるのか。

自国の主張だけを押し通そうとして、各国の利害が絡み合う中で高水準の自由化を目指す交渉が漂流する事態は何としても防がねばならない。

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