エネルギー計画 「原発活用」への妥当な転換だ

朝日新聞 2014年02月27日

エネルギー政策 これが「計画」なのか

安倍政権が新しいエネルギー基本計画の政府案を決めた。

昨年末の原案から少し手直しがあったものの、焦点の原発については依存度を「可能な限り低減させる」としながら、何の手立ても示していない。

これではとても「基本計画」とは言えない。

原発による発電の比率は、原子力規制委員会の審査状況が見通せないため、具体的な数字が盛り込めないという。

私たちは社説で原発ゼロを目指すべきだと主張してきた。安倍政権は原発維持の立場だが、「減らす」というからには、数字が出せなくても、その手順を示すのは最低の条件である。

ところが、政府案は「規制委の判断を尊重し、再稼働を進める」というだけだ。

福島第一原発の事故が起き、規制が強化された。おのずから動かせる原発の数は減る。それ以上のことは何もしないなら、ただの現状追認でしかない。

使用済み核燃料を全量再処理する核燃料サイクル事業も、行き詰まりを直視せず、相変わらず「推進」とうたっている。

詰める点はほかにもある。

老朽化した原発を円滑に閉めさせるため、政府は何をするのか▼30キロ圏内の自治体に義務づけた防災計画を再稼働の判断にどう位置づけるのか▼使用済み核燃料棒の保管場所を確保できる見通しがたたない原発は、その段階で運転を止めさせるべきではないか……。

電力市場の活性化も原発と密接に関連する。

電力会社は原発の再稼働をにらみ、老朽化して燃料効率の悪い火力発電の建て替えに動こうとしない。政府が原発以外への電源へシフトさせる策を示さなければ、代替電源の開発は進まない。化石燃料費の圧縮にもつながらない。

原発への回帰は、再生可能エネルギー事業者など新電力にとっても投資意欲を失わせる。当面のコスト競争では既存の原発が有利だからだ。政府が原発の低減に強い意志がないと見れば、リスクをとって新規参入したり、新技術を開発したりしようという企業は出てこない。

原発は政府の支援がなければ成り立たない電源だ。事故の反省をもとにエネルギー計画を立てる以上、まず政府自身が原発に偏ってきた政策を改めるべきだ。そうしない限り、政権が進めようと意気込む電力改革も挫折する可能性が高い。

政府案はこれから、自民、公明両党のワーキングチームで議論するという。国民がしっかり見ていることをお忘れなく。

毎日新聞 2014年02月26日

エネルギー計画 原発維持は公約違反だ

政府が、新しいエネルギー基本計画の原案を決めた。素案にあった原発重視の表現を一部修正するにとどめ、原発を活用し続ける方針を打ち出した。

案じたとおりの結果だ。これでは2012年末の衆院選で自民党が掲げた「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という公約に反する。計画の閣議決定に先立つ与党協議で、公約に即した軌道修正を図るよう求めたい。

原案は「可能な限り原発依存度を低減させる」との目標を掲げた。それ自体は否定するものではない。問題なのは、その目標への道筋を描かず、むしろ原発の存続を前提にしていることだ。

原子力規制委員会の規制基準に適合した原発について「再稼働を進める」と明記した。将来の原発の規模に関しても、コスト低減などの観点から「確保していく規模を見極める」とした。将来的にも原発ゼロは想定していないと読める。

原発依存を続けるためには、新増設や建て替えが必要になるが、「脱原発」を打ち出した民主党政権時代のエネルギー政策は、新増設禁止を原則としていた。今回の原案はその原則を盛り込まず、新増設にも道を開いた格好だ。

政府は東京都知事選への影響や経済産業省の審議会がまとめた素案の表現に対して自民、公明両党内から「原発偏重」と懸念する声が上がったことに配慮し、原案の決定を先送りしていた。その結果、例えば「基盤となる重要なベース電源」という原発の位置づけは、「基盤となる」が取れて「重要なベースロード電源」に変わった。

いったい何が変わったのか。茂木敏充経産相は記者会見で「基本的に方向性が変わったとは認識していない」と説明した。反原発派の批判をかわすために表現を微調整しただけということらしい。これでは「可能な限り原発依存度を低減させる」という目標達成の意欲も疑われる。

自民党が国民に約束した原発に依存しない社会を実現するには省エネを進め、再生可能エネルギーや効率の良い火力発電を普及・拡大する必要がある。しかし、それには電気料金引き上げなどの高い社会的コストが伴う。脱原発を「可能な限り」ではなく着実に実現するためには、政府の強い決意が不可欠なのだ。

国の中長期的なエネルギー政策の方向性を決める基本計画は、脱原発の目標をはっきりと掲げるべきである。そして、そこに至る政策を打ち出す必要がある。計画は自民、公明両党との協議を経て年度内に閣議決定される。国民の将来に責任を持った協議を求める。

読売新聞 2014年02月26日

エネルギー計画 「原発活用」への妥当な転換だ

資源の乏しい日本にとって、原子力発電所の活用を続けていくことが、最も現実的なエネルギー戦略である。

政府は、中長期的なエネルギー政策の指針となる、新たなエネルギー基本計画案を決めた。

昨年12月に経済産業省の有識者会議が示した原案に、パブリックコメント(意見公募)などを反映させた。政府は与党との調整を経て、3月中にも閣議決定する。

焦点だった原発の位置付けについて政府案は、原案の「基盤となる重要なベース電源」を「重要なベースロード電源」に修正した。ベースロード電源とは、昼夜を問わず一定量の発電を続け、安定供給を支える電源を指している。

民主党政権の掲げた「2030年代の原発稼働ゼロ」を転換し、原発を重要電源として活用する方針を示したものだ。政府案は、大筋で妥当と言える。

原子力規制委員会が安全性を確認した原発について、再稼働させる方針も明記した。

原発依存度は「可能な限り低減させる」としたが、「確保していく規模を見極める」とし、今後の新増設に含みを残した。現実的な判断である。

全原発48基の停止が続き、全発電量の9割近くを火力発電に頼っている。燃料費が増大し、電気料金高騰や巨額の貿易赤字などの弊害が深刻化している。

火力と原子力、太陽光や水力などの再生可能エネルギーが補完しあう、多様性のある電源構成の確立が求められよう。

政府は、今回は提示を見送った最適な電源構成の数値目標をできるだけ早く示してほしい。

政府案は再生エネの導入加速をうたった。ただ、再生エネを高値で買い取る現行の普及制度は、家計や企業に重い料金負担を強いる副作用が大きく、制度の抜本的な見直しが急務だ。

核燃料サイクルについて「対応の柔軟性を持たせる」との文言を追加し、見直しの可能性を示唆した点には懸念が残る。ウラン資源の有効活用などのため、「着実な推進」というこれまでの政府方針を堅持すべきである。

放射性廃棄物の最終処分に「国が前面に立つ」としたのは当然だろう。今度こそ処分場の選定に道筋をつけねばならない。

気がかりなのは与党の対応だ。公明党は「速やかに原発ゼロを目指す」と公約している。脱原発論に流されず、厳しい電力事情を踏まえて判断してもらいたい。

産経新聞 2014年02月26日

エネルギー計画案 安定供給の原点忘れるな

エネルギー政策の中長期的指針となる基本計画の政府案がまとまった。原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、安全性が確認されたものを再稼働させる方針を明記した。

民主党政権の無責任な「原発ゼロ」から転換した昨年末の当初案を踏襲したものだ。今後も原発を重要エネルギー源として活用する姿勢を示したのは当然だ。

日本は今も、全原発が稼働を停止して割高な火力発電に依存し、北海道電力の再値上げ表明など影響が深刻化している。エネルギー政策の原点が電力安定供給にあることを忘れてはならない。

政府は原子力規制委員会に迅速で合理的な安全審査を促し、早期再稼働を主導する責務がある。

計画案は「原発依存度は可能な限り低減させる」「安定供給の観点から確保する原発の規模を見極める」とし、新増設の可否を明確にしなかった。電力の安定供給と原発の安全性、効率性向上のためにも新増設が必要ではないか。

原発を、「基盤となる重要なベース電源」とした当初案に対し、今回は昼夜を問わず一定の電力を供給する「ベースロード電源」に変更した。原発が持つ役割を改めて示したものといえよう。

使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルについては、「柔軟性を持たせて対応を進める」とした。「着実に推進する」という当初案の表現を、与党の反発を受けて後退させたのだという。

だが、資源小国の日本にとり、核燃料サイクルが持つ重要性は変わらない。日米原子力協定に基づき非核保有国の中で唯一、再処理が認められている国として、着実なサイクル推進が必要だ。

太陽光など再生可能エネルギーに関しては、向こう3年にわたり最大限加速するという。再生エネは環境負荷が小さく、分散型電源としても有効だ。ただ、発電コストが高く、安定性にも課題を抱えている。現実を踏まえた普及策に取り組むべきだろう。

基本計画は、1月に閣議決定する予定だったが、原発が争点の一つともなった都知事選への影響を考慮して先送りされた。政府は、与党との協議を経たうえで来月にも閣議決定する構えだ。

与党には、暮らしと産業を守る電力の安定供給に今、何が必要かを見極め、ムードに流されない冷静な対応をしてもらいたい。

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