ウクライナ危機 政治解決で正常化急げ

朝日新聞 2014年02月23日

ウクライナ 流血防止へ行動急げ

欧州とロシアの中間に位置するウクライナの混乱が、痛ましい流血に発展した。

77人もの死者を出した末、ヤヌコビッチ大統領と野党勢力が事態の収拾策で合意した。

さらに大統領の即時辞任を求める動きも強く、情勢はなお不透明だが、これ以上の悲劇を避けるために、各当事者と周辺国は全力をあげるべきだ。

人口4500万。旧ソ連諸国ではロシアに次ぐ大国である。地理的な要衝にあることから、欧州とロシアの勢力圏をめぐる綱引きで揺れ動いてきた。

今回の事態も、昨年秋にヤヌコビッチ氏が欧州連合(EU)との関係を強める協定の調印を直前でやめ、ロシアに急接近したことが引き金だった。

この国は多大な対外債務を抱え、経済危機の瀬戸際にある。対ロ接近の見返りに巨額融資と天然ガス価格引き下げを受け、危機の乗り切りを狙った。

だが国内は歴史的に、親欧米の西部と、ロシアの影響が強い東部との間に深い分断がある。言語も宗教も状況が異なる。

国の将来の方向を当面の都合で決めたことに、西部を基盤とする野党勢力が強く反発したのは必然の結果だった。

前世紀の二つの世界大戦時には、独立を求める西部の民族主義勢力と、東部の勢力とを軸に武装闘争が起こり、おびただしい犠牲者を出した。

だから、旧ソ連から独立したあと、歴代の大統領は、東西の微妙なバランスに配慮した政治を進めることで、国内の融和と安定の維持に努めてきた。

だが今回、首都キエフで抗議活動を続けた野党勢力に、ヤヌコビッチ氏は治安部隊による排除などの強権的手段をとった。自国の歴史を顧みない重大な誤りだったといえる。

事態を収拾するには今回の合意にもある、野党勢力も含めた連合政府の編成などを早急に実現しなくてはならない。野党側も、銃撃戦を演じた過激派を抑えるなどの自制が必要だ。

再び対立が激化して内戦のような事態になれば、旧ユーゴスラビアのように欧州の安定にとって重大な脅威となる。

ロシアとEUは、自らの影響力拡大に重点を置くこれまでの態度を改め、安定化を最優先した協調行動をとる必要がある。

日本はこの国のチェルノブイリ原発事故への支援は続けてきたが、政治の安定や経済的自立に向けては熱心でなかった。

安倍政権が「地球儀を俯瞰(ふかん)した外交」を掲げるのならば、この地政学的な要衝国の安定のために関与を強めるべきだろう。

毎日新聞 2014年02月25日

ウクライナ 同じ過ちを繰り返すな

ウクライナのヤヌコビッチ政権が崩壊した。最高会議(国会)はヤヌコビッチ大統領を解任し、5月に予定される次期大統領選までの大統領代行にトゥルチノフ議長を選出した。首都を脱出したヤヌコビッチ氏は辞任を拒否しているが、もはや政権復帰は不可能な情勢だ。混乱を長びかせず、正常化を急いでほしい。

ヤヌコビッチ氏は昨年11月、欧州連合(EU)加盟への第一歩と見られた「連合協定」調印を見送り、代わってロシアの支援を仰いだ。これに反発した市民らが首都キエフ中心部を約3カ月間占拠し、協定調印と大統領の辞任を求めていた。

今月18日から過激化したデモ隊と治安部隊の武力衝突で80人を超える死者が出た。欧州諸国とロシアの仲介で、政権側と野党勢力が21日、大統領選挙の前倒しやデモ隊の撤収など事態収拾に向けた合意文書に調印した。だがデモ隊は翌日、合意に反して一方的に大統領府などを占拠し、野党勢力が実権を掌握した。

ヤヌコビッチ氏の政権基盤でロシアとの関係が深い東部や南部は今回の政変に強く反発している。今後の新政権が国内統治を確立するには、なお時間がかかるだろう。

職権乱用罪で服役していたティモシェンコ元首相が釈放され、次期大統領選への出馬を表明した。元首相は、2004年に起きた民主化運動「オレンジ革命」で政権を獲得した親欧米改革勢力の一人だった。だがこの政権は、内紛や経済政策の行き詰まり、ロシアとの対立などで自壊し、前回の大統領選でヤヌコビッチ氏の当選を許す結果になった。国民は当時の混乱を忘れておらず、その手腕に懐疑的な見方も根強い。

同じ過ちは許されない。新政権に参加する政治勢力は足並みをそろえて、国内の和解と国家経済の再建に早急に取り組んでほしい。

ソ連崩壊後、ウクライナは欧米とロシアの間で揺れ動いてきた。だが欧州への仲間入りを志向しながら、そのための既得権益層の痛みを伴う産業構造や社会制度の改革は進まなかった。エネルギー資源や製品輸出先はロシアに大きく依存しており、圧力にきわめて弱い。この悪循環を脱却し、自立した国家に生まれ変わるには、新政権の覚悟が必要だ。

欧米とロシアの綱引きが再燃する懸念もある。欧米はティモシェンコ氏ら旧野党勢力を中心とする新政権と連携していく方針を打ち出しているが、ロシアはこれに反発し、新政権と当面距離を置く可能性が強い。ロシアが約束した150億ドル(約1兆5000億円)の金融支援を見送れば、ウクライナは早晩、財政破綻に追い込まれる。欧米とロシアは反目せず打開策を模索してほしい。

読売新聞 2014年02月25日

ウクライナ政変 安定回復へ欧露の責任は重い

欧州とロシアのはざまで揺れるウクライナの安定を回復させるため、国際的な協力が必要だ。

ウクライナのヤヌコビッチ政権が事実上崩壊した。大統領は、激しい反政府デモの中で、首都キエフからの退去を余儀なくされた。

議会は、野党のトゥルチノフ氏を大統領代行として承認し、5月に大統領選を実施すると決議したが、混乱の行方は不透明だ。

ヤヌコビッチ氏失脚のきっかけは、欧州連合(EU)と、自由貿易を柱とする協定で合意したにもかかわらず、昨年11月、署名の段階で見送りを決めたことだ。

ウクライナとEUの接近を警戒するロシアが、協定締結延期の見返りに大規模な経済支援を約束するなど、露骨な働きかけを行ったためと見られている。

野党とその支持者は強く反発し、反政府デモを始めた。今月に入り、治安部隊との衝突で、80人以上が死亡したことが、政権の命取りとなったと言えよう。

ウクライナは、歴史的に、西部は欧州、東部はロシアの強い影響を受けてきた。1991年の旧ソ連からの独立以降も、ロシアとの関係を重視する親露派と、EUとの接近を図る親欧州派が拮抗(きっこう)し、政権交代を繰り返した。

親露派と見なされたヤヌコビッチ氏が権力の座から追われ、服役中だったチモシェンコ元首相ら親欧州派が実権を握ったことで、ウクライナは今後、EUへの傾斜を強めることになるだろう。

ソチ冬季五輪の成功で、旧ソ連圏の経済的再統合に弾みを付けたいプーチン大統領は、冷水を浴びせられた思いではないか。

プーチン氏が、ウクライナに影響力を行使しようとして、過去に行った天然ガス供給制限のような強硬措置をとるようなことがあれば、混乱は深刻化するだけだ。自重を求めたい。

EUは、事態悪化を防ぐため、ロシアとも調整しつつ関与すべきである。メルケル独首相が、プーチン氏と電話会談し、ウクライナの「領土の一体性維持」の必要性で一致し、東西分裂の回避で足並みをそろえたのは評価できる。

ウクライナは、巨額の対外債務を抱え、債務不履行の危険さえ指摘されている。EUを始めとする国際社会の支援が、安定回復の鍵を握っている。

チェルノブイリの原子力発電所事故を経験したウクライナは、日本と協定を結んで情報交換や専門家交流を行っている。政権崩壊の行方を注視したい。

産経新聞 2014年02月25日

ウクライナ 分裂回避へ欧米は支援を

国家分裂の危機に陥るか、それとも統一と自由・民主主義の道へ向かうか重大な岐路である。

ウクライナの首都キエフで反政府デモ隊-治安部隊間で続いた流血の衝突の末に、ヤヌコビッチ政権が倒れた。トゥルチノフ新議長(大統領代行)の下で、5月に大統領選が行われる。

流血停止と秩序回復の兆しが見えてきたことを歓迎したい。

だが、情勢は国内対立含みで極めて流動的だ。暫定体制は国家の分裂を絶対に回避しなければならない。欧米とロシアも対立を避けて経済を含む支援策で協調し、分裂阻止へ動いてもらいたい。

ウクライナは、歴史的に欧州に目が向く西部とロシアに郷愁を抱く東部と南部に二分される。ロシアはウクライナを影響圏と見なし、ロシア系住民が6割を占め黒海艦隊の拠点も置く南部クリミア地方を特に重視する。

今回の大規模デモも、ヤヌコビッチ政権が、加盟の前段となり得る欧州連合(EU)との連合協定締結政策を撤回したことに、西部住民が反発したのが契機だ。

新議長は協定支持とされる。だが、性急に事を進めて、今度は東部や南部での抗議行動を引き起こし、クリミアの分離独立まで誘発して、そこにロシアが介入してきたらどうなるか。暫定体制には、親ロシア住民の不安や不満を鎮める慎重な対応が求められる。

プーチン露政権は、旧ソ連圏諸国によるユーラシア連合構想へウクライナを引き戻すべく、150億ドルの支援と天然ガスの安価供給を約束し、ヤヌコビッチ政権を欧州接近から翻意させた。

プーチン政権は、それが逆効果だったことを教訓とし、不当な介入はやめるべきだ。自由と民主主義、市場経済の欧州を志向するか否かは独立国の選択である。

欧米は今回の事態でウクライナ「統一」を前面に掲げている。破綻寸前の財政にてこ入れするため国際通貨基金(IMF)による支援を推進してほしい。その際、政権崩壊の一因となった強権政治、汚職と腐敗の一掃が必要だ。

ロシアの危機感を抑える外交努力も忘れてはなるまい。欧州へ舵(かじ)を切っても対露関係は安定的に保つ枠組みが作れないものか。

ウクライナは民主政権を無血で樹立したオレンジ革命から今年10年を迎える。流血を乗り越え「一体」を保てるか正念場である。

毎日新聞 2014年02月22日

ウクライナ危機 政治解決で正常化急げ

欧州とロシアの間で揺れ動くウクライナで、反政権デモ隊と治安部隊との激しい武力衝突が起き、少なくとも77人の死者が出た。1991年の独立以来最大の危機を打開するためフランス、ドイツ、ポーランドの外相が仲介に乗りだし、ロシアは大統領直属の人権問題代表を現地に派遣した。こうした動きを受けてヤヌコビッチ大統領は21日、大統領選挙の前倒しや憲法改正による大統領権限の制限に応じる考えを表明し、野党代表と合意文書に署名した。武力行使を自制し、政治解決に基づいて正常化を急ぐよう、政権側と野党やデモ隊側の双方に求めたい。

デモ隊が占拠していた首都キエフの市庁舎を明け渡し、17日に政権側が拘束したデモ参加者を釈放したことで、対立は沈静化に向かうと思われた。だがその翌日に大規模な衝突が起きた。野党側が、現政権下で強化された大統領権限を抑制する憲法改正の国会審議入りを求めたが、与党がこれを拒否したことが引き金となり、デモ隊が治安部隊の制止を聞かずに暴徒化したとされる。銃などで武装した民族主義色の濃い過激派勢力がデモ隊を扇動して攻撃を仕掛けたという見方がある一方、政権側の狙撃手がデモ参加者を狙い撃ちしたとの情報もあり、真相は不明だ。

危機を招いた最大の責任がヤヌコビッチ大統領の政権側にあることは否定できない。昨年11月、政権がロシアの経済的圧力に屈し、欧州連合(EU)との「連合協定」調印を直前になって見送ったことが、これに反発した市民の大規模な反政権デモを引き起こした。政権が経済改革を怠り、財政破綻の危機を回避するためロシアの支援に頼らざるをえなくなったことが背景にある。憲法改正による大統領権限の強化や、反対派の強権的な取り締まりも、市民の政権不信を募らせていた。

だが野党勢力も指導力を欠き、デモの過激化を抑えられなかった。政権は内閣総辞職などで収拾を図ったが野党側は協力を拒否し、あくまで大統領の辞任を求め続けた。

2004年の民主化運動「オレンジ革命」の時と違い、野党側には、過激派を抑えて合意をまとめられる有力な指導者が乏しい。ティモシェンコ元首相の流れをくむ最大野党「祖国」を率いるヤツェニュク氏は求心力を欠く。第2野党「ウダル」のクリチコ党首は人気のあるプロボクサーだが、政治経験に乏しい。

ウクライナは、欧州志向の強い西部と親ロシアの東部で国論が割れている。欧米とロシアが影響力を競うようでは対立をあおり、欧州情勢の不安定化につながる危険性もある。欧米とロシアは一致協力して早期の事態収拾を後押ししてほしい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1722/