原子力発電所の再稼働に向けた安全審査を速やかに進める。原子力規制委員会は、自らの使命を忘れてはならない。
規制委が、原発の安全審査の最終段階で意見公募(パブリックコメント)と公聴会を実施することを決めた。技術的判断に対する意見を求めるという。
田中俊一規制委員長が提案したものだが、あまりに唐突だ。再考を求めたい。
意見公募や公聴会の実施は、法律に定めがない。過去に規制当局が公開ヒアリングの形で実施した例はあるものの、主に原発新設の際だ。規制委が現在、審査しているのは既設の10原発である。
意見公募は、新規制基準の策定時に、既に実施している。
田中委員長は「社会的説明」が目的だと言うが、独善的ではないか。まずは規制委が専門的知見に基づき判断し、その理由を国民に丁寧に説明するのが筋だろう。
規制委は審査に着手した昨年7月、「半年程度で結論が出るだろう」との見通しを示していた。
無論、安全性の徹底確認は重要だが、審査は、今でも大幅に遅れている。不合理な手続きを取り入れることで、結論がさらに先送りになりかねない。
意見公募を行えば、寄せられた意見への対応に人員を割かねばならない。公聴会は、自治体からの要望で開催するというが、規制委の原子力災害対策指針が対象とする原発周辺30キロ圏内の市町村だけで、100以上にのぼる。
この時期に意見公募や公聴会を持ち出すのは、「後出しジャンケン」と言われても仕方がない。
原発の長期停止は、日本経済と国民生活に、悪影響を及ぼしている。安全審査に終わりが見えないことから、料金の再値上げを検討する電力会社もある。
規制委は今週、新たな審査方針も決めた。審査中の10原発から課題の少ない1、2か所の原発を来月にも選び、審査官を重点配置して優先審査する。その後の審査のモデルにするという。
有用な手法だが、意見公募などが足かせになれば、審査のスピードアップにはつながるまい。
審査に当たっては、規制委が電力会社と真摯に向かい合う姿勢も求められよう。
審査会合では、電力会社が用意してきた資料に規制委が「内容が不十分」と指摘するケースが目立つ。規制委の具体的な考え方が事前に示されていないため、電力会社が戸惑うのも無理はない。
対話重視の審査が大切だ。
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