原発の審査 経産相発言は筋違いだ

朝日新聞 2014年02月21日

原発の審査 経産相発言は筋違いだ

「原発によっては申請から相当な時間がたっている。審査の見通しを示すことは事業者が今後の経営を見通すうえで有益だ」。再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査について、茂木経産相がこう発言をした。

安全優先のため、独立性を重視した規制委の設置法の趣旨を軽んじていないか。規制委への圧力となりかねない発言は厳に慎むべきである。

もちろん、規制委は影響されてはならない。再稼働に前のめりな電力会社や経産省の思惑を排し、科学的・技術的な観点から審査を尽くすのが使命だ。

茂木発言は、北海道電力が電気料金の再値上げ方針を表明したことを受けて飛び出した。

北電は昨年7月、新規制基準による審査開始と同時に泊原発1~3号機を申請した。9月に家庭用で平均7・73%値上げしたのは、12月以降に3基が順次再稼働するのが前提だった。

だが今週、再稼働時期は見通せないとして再値上げを経産省に申請すると明らかにした。

茂木氏は北電に値上げ回避の努力を求め、「審査に予断を与えるものではない」と断りつつ、規制委に注文した。

審査の見通しが示されれば、電力会社には好都合だろう。

だが、それを経産相が促すのはどうしたことか。旧原子力安全委員会と、経産省の下にあった旧原子力安全・保安院による「なあなあ」の安全規制への反省はどこへいったのか。

そもそも審査が進まぬ最大の原因は、電力会社側にある。

新規制基準を甘く見て、審査資料が大幅に遅れたからだ。自然災害の想定がおざなりだったり、過酷事故を真剣に考えていなかったり。福島第一原発事故の教訓を自らの問題としているのか、疑問な対応が相次いだ。

泊原発は特に穴が多かった。

北電は1、2号機で過酷事故対策の有効性を評価する際に、構造が違う3号機の解析を流用し、規制委に「代替(替え玉)受験のようだ。審査しようがない」と酷評された。津波想定は「不適切」、噴火の影響評価は「不十分」で、3号機の地下構造の再分析も求められた。

茂木氏は審査に時間がかかっている要因には「言及を控えたい」と述べた。改めさせるのは電力会社の甘い姿勢のほうだ。

田中俊一規制委員長は茂木発言を「我々へのメッセージとはとらえていない」というが、審査実務を担う原子力規制庁の次長はその前日に「経産相の立場として自然な発言」と述べた。独立性を保つためには、常に毅然(きぜん)とする必要がある。

読売新聞 2014年02月22日

原発安全審査 独善的な先送りは許されない

原子力発電所の再稼働に向けた安全審査を速やかに進める。原子力規制委員会は、自らの使命を忘れてはならない。

規制委が、原発の安全審査の最終段階で意見公募(パブリックコメント)と公聴会を実施することを決めた。技術的判断に対する意見を求めるという。

田中俊一規制委員長が提案したものだが、あまりに唐突だ。再考を求めたい。

意見公募や公聴会の実施は、法律に定めがない。過去に規制当局が公開ヒアリングの形で実施した例はあるものの、主に原発新設の際だ。規制委が現在、審査しているのは既設の10原発である。

意見公募は、新規制基準の策定時に、既に実施している。

田中委員長は「社会的説明」が目的だと言うが、独善的ではないか。まずは規制委が専門的知見に基づき判断し、その理由を国民に丁寧に説明するのが筋だろう。

規制委は審査に着手した昨年7月、「半年程度で結論が出るだろう」との見通しを示していた。

無論、安全性の徹底確認は重要だが、審査は、今でも大幅に遅れている。不合理な手続きを取り入れることで、結論がさらに先送りになりかねない。

意見公募を行えば、寄せられた意見への対応に人員を割かねばならない。公聴会は、自治体からの要望で開催するというが、規制委の原子力災害対策指針が対象とする原発周辺30キロ圏内の市町村だけで、100以上にのぼる。

この時期に意見公募や公聴会を持ち出すのは、「後出しジャンケン」と言われても仕方がない。

原発の長期停止は、日本経済と国民生活に、悪影響を及ぼしている。安全審査に終わりが見えないことから、料金の再値上げを検討する電力会社もある。

規制委は今週、新たな審査方針も決めた。審査中の10原発から課題の少ない1、2か所の原発を来月にも選び、審査官を重点配置して優先審査する。その後の審査のモデルにするという。

有用な手法だが、意見公募などが足かせになれば、審査のスピードアップにはつながるまい。

審査に当たっては、規制委が電力会社と真摯(しんし)に向かい合う姿勢も求められよう。

審査会合では、電力会社が用意してきた資料に規制委が「内容が不十分」と指摘するケースが目立つ。規制委の具体的な考え方が事前に示されていないため、電力会社が戸惑うのも無理はない。

対話重視の審査が大切だ。

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